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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第五部/第九章 妖刀ムラマサと異界剣鬼シュテン
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第390話 ヒトとしてオニを超える

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 クロードは、妖刀ムラマサ(システム・ヘルヘイム)を敢えて抜刀せず、ドゥーエの亡き姉弟の力を借りることで、邪竜朱点システム・ニーズヘッグを攻略する糸口を掴んだ。


「シュテンさん、僕は妖刀を使えなくても構わない。欲しかったのは、貴方を解放する力だ!」


 クロードは、魔術で作り上げた鎖を振り回し、丘陵きゅうりょうに即席の魔法陣を描いて爆発させる。

 シュテンが吹きつけてくる呪いの雪に爆風で対抗しつつ、手に握った鎖を剣、槍、斧と変化させながら突撃を敢行する。

 クロードに憑依した幽霊姉弟の戦技は、シュテンに勝るとも劣らなかった。

 人間一人と幽霊一八名は、縦横無尽にはねまわる物干し竿をかいくぐり、筋肉達磨が背負う桜の樹木めいた吹雪の翼(ニーズヘッグ)を斬り、突き、殴って、確かな傷を刻んでゆく。

 とはいえ、クロードは人間に過ぎず、融合体オニであるシュテンとの身体能力差は隔絶していた。

 斬撃こそ避けたものの、幾度となくひじひざのカウンターを浴び、鮮血がほとばしる。

 クロードとシュテン。二人の血が花のように舞い散り、戦闘はまったくの互角に見えた。しかし!


「ドゥーエさん、頼むっ」


 クロードは、河原へ吹き飛ばされた戦友が再び立ち上がるのを見て、腰のムラマサを投げ渡した。


「クロード。よくわからんが、力になれやしたか? 師匠、もうすぐ日暮れだ。そろそろ決着をつけようぜ!」


 ドゥーエは阿吽あうんの呼吸とばかりに空中の愛刀を掴み、本来の主人である故か難なく抜刀した。

 極めて近く限りなく遠い〝並列する世界〟で、赤と青のオッドアイの少女が言祝ことほぐ。


『降臨せよ。救済の氷雪。世界樹のうろ。地を覆う天恵てんけいの光よ!

 贖罪機構システム |始まりにして終わりの氷雪ヘルヘイム ――接続アクセス―― 』


 ドゥーエが抜刀したムラマサから、シュテンが背負う桜花の翼と同じ、滅びの吹雪が噴出する。

 白い雪となって現れた二つの魔剣の力は、互いを相食みながら消える。


「「ここからが本当の勝負だ!」」


 クロードとドゥーエは、想定していた奇襲作戦こそ潰えたものの、ニーズヘッグへの攻撃手段を得たことで正面決戦が可能となった。

 ベナクレー丘を舞台とする二度目の戦場は、いよいよ最終局面を迎える。

 

「アハッ、アハハハハッ。素晴らしいっ。血が湧いて、筋肉が踊っている。おれは、ワタシは、こんなにもたかぶっている」


 クロードとドゥーエを相手に斬り結びながら、シュテンは法悦にも似た歓喜の表情を浮かべた。


「邪竜の力を借りたのはしゃくだけど、あのクソガキに感謝するわ!」

「シュテンさん、アイツはそんな甘いヤツじゃない」


 クロードは両手に短剣を握り、ドゥーエと背中合わせに、シュテンと斬り結びながら喝破かつぱした。


(ファヴニルは、エカルド・ベックや、ハインツ・リンデンベルクと一緒に、どうやって作ったというんだ?)


 クロードが、魔剣の管理者である一番目から聞き出した情報を整理すると……。


 システム・レーヴァテインは、〝神剣の勇者〟が、巨人族の秘術を器に人々の祈りを束ね、終末戦争ラグナロクを乗り越えるべく未来に託した〝最古の魔剣〟だ。


 システム・ヘルヘイムは、そんなレーヴァテインの情報を、〝平行世界の四奸六賊しかんろくぞく〟が盗用し『融合体』を創ろうとして大失敗。暴走の果てに、死者の祈りを取り込んで完成した〝第二の魔剣〟と言えよう。


 ……ならば、システム・ニーズヘッグ。〝第三の魔剣〟は、いったい何を集めて力となしたのか?


「そうネ、辺境伯サマ。あのクソガキ……邪竜ファヴニルは、この世界のレーヴァテインに対抗しようと、ワタシが持ち込んだヘルヘイムを改造したわ。力の源だって、ろくでもない代物でしょうよ」


 シュテンは、金色に染まる空の下で赤い血に濡れながら、白い歯を剥き出して笑う。


「それがどうした? 所詮この身は屍を積み重ねる剣鬼よ。おれはきっとこの日の為に、死の淵より蘇り生きてきた!」


 シュテンの気迫が丘を揺るがし、木々の葉が千切れ、河原の石が砕ける。

 万物を喰らう吹雪は更に激しさを増し、燕返しが変幻自在の軌跡を描く。融合体の出力が生み出す魔技はもはや台風か竜巻か?

 異界剣鬼たるシュテンの刃を捉えることなど、現世の誰にも不可能だ――否!

 ドゥーエが、右手で手繰るムラマサと左の鋼鉄義手が支える鉄鞘の二刀流で、物干し竿を凌駕りょうがする。


「師匠、燕返しはもう見切ったぜ。昔は握り方を変えて、今は〝手を変化させている〟んだろう?」


 ネオジェネシスは、ウジ状の生物として産まれ、後天的に人間の肉体へと変貌した魔法生命だ。

 エコー隊の一般兵でさえ、手を触腕に変えたり、歯を牙のように伸ばせるのだ。

 シュテンのような達人であれば、己の骨や神経、筋肉をいじるくらいお茶飯前かも知れない。


「片目を失ったからこそ、見えるものがある。手と腕に流れる血の音を聞けば、剣筋を読むのはワケねえ。これで、終いだ。きいぃえええやああっ!」


 ドゥーエは、シュテンの剣閃を見事に読み切った。

 天衣無縫てんいむほうの軌跡を描く物干し竿を、鋼鉄義手と鉄鞘で受け止め、袈裟斬りに振るったムラマサでへし折ったのだ。


「めちゃくちゃな言い分じゃないかっ」


 どちらの刀も、並行世界のレア(レギン)が手を入れた業物だ。武器としては互角かも知れないが……。

 クロードの常識では、肉体の構成を変えるとか、流れる血の音で攻撃を判別するとか、無理無茶無謀もいいところだ。


『クロードさん、バカのたわごとは無視なさい。燕返しがなくなった今がチャンスですわ!』

「そうだね。邪竜の端末は、ここで断ち切る」


 クロードを阻む長刀も魔技も、もはや存在しない。彼は一番目の激励を受けて、伏せ続けていた最後の鬼札をシュテンへ切った。


「鋳造――八丁念仏団子刺はっちょうねんぶつだんござし。僕は貴方ではなく、邪竜を潰す!」


 クロードの愛剣が銀光をまとって、吹雪の翼を真っ向唐竹割りに断ち切った。

 胸当てと腰甲、水着鎧ビキニアーマーも粉砕し、芸術的な裸体が露わになる。


「斬った!」


 クロードは、シュテンの肉体には傷ひとつつけることなく……。

 彼と融合していた顔なし竜(ニーズヘッグ)寄生木ヤドリギ、禍々しい土器のような魔術媒体を完全に破壊した。


応援や励ましのコメントなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)


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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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― 新着の感想 ―
[良い点] 400話達成おめでとう御座います! 此処まで読ませて頂きましたが、クロードさんがマサムネを抜かずドゥーエさんが使うとは! 意表を突かれ驚きました。この話も盛り上がりました! 素晴らしい40…
[良い点] 400話達成おめでとうございます! 書籍版でとんでもない強敵だった相手と、まるで旧来の戦友だったかのように戦える領主様の器は、いったいどれだけ大きいのやら。 今回は負けイベなのかと思ってま…
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