第390話 ヒトとしてオニを超える
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クロードは、妖刀ムラマサを敢えて抜刀せず、ドゥーエの亡き姉弟の力を借りることで、邪竜朱点を攻略する糸口を掴んだ。
「シュテンさん、僕は妖刀を使えなくても構わない。欲しかったのは、貴方を解放する力だ!」
クロードは、魔術で作り上げた鎖を振り回し、丘陵に即席の魔法陣を描いて爆発させる。
シュテンが吹きつけてくる呪いの雪に爆風で対抗しつつ、手に握った鎖を剣、槍、斧と変化させながら突撃を敢行する。
クロードに憑依した幽霊姉弟の戦技は、シュテンに勝るとも劣らなかった。
人間一人と幽霊一八名は、縦横無尽にはねまわる物干し竿をかいくぐり、筋肉達磨が背負う桜の樹木めいた吹雪の翼を斬り、突き、殴って、確かな傷を刻んでゆく。
とはいえ、クロードは人間に過ぎず、融合体であるシュテンとの身体能力差は隔絶していた。
斬撃こそ避けたものの、幾度となく肘や膝のカウンターを浴び、鮮血がほとばしる。
クロードとシュテン。二人の血が花のように舞い散り、戦闘はまったくの互角に見えた。しかし!
「ドゥーエさん、頼むっ」
クロードは、河原へ吹き飛ばされた戦友が再び立ち上がるのを見て、腰のムラマサを投げ渡した。
「クロード。よくわからんが、力になれやしたか? 師匠、もうすぐ日暮れだ。そろそろ決着をつけようぜ!」
ドゥーエは阿吽の呼吸とばかりに空中の愛刀を掴み、本来の主人である故か難なく抜刀した。
極めて近く限りなく遠い〝並列する世界〟で、赤と青のオッドアイの少女が言祝ぐ。
『降臨せよ。救済の氷雪。世界樹の虚。地を覆う天恵の光よ!
贖罪機構 |始まりにして終わりの氷雪 ――接続―― 』
ドゥーエが抜刀したムラマサから、シュテンが背負う桜花の翼と同じ、滅びの吹雪が噴出する。
白い雪となって現れた二つの魔剣の力は、互いを相食みながら消える。
「「ここからが本当の勝負だ!」」
クロードとドゥーエは、想定していた奇襲作戦こそ潰えたものの、ニーズヘッグへの攻撃手段を得たことで正面決戦が可能となった。
ベナクレー丘を舞台とする二度目の戦場は、いよいよ最終局面を迎える。
「アハッ、アハハハハッ。素晴らしいっ。血が湧いて、筋肉が踊っている。おれは、ワタシは、こんなにもたかぶっている」
クロードとドゥーエを相手に斬り結びながら、シュテンは法悦にも似た歓喜の表情を浮かべた。
「邪竜の力を借りたのは癪だけど、あのクソガキに感謝するわ!」
「シュテンさん、アイツはそんな甘いヤツじゃない」
クロードは両手に短剣を握り、ドゥーエと背中合わせに、シュテンと斬り結びながら喝破した。
(ファヴニルは、エカルド・ベックや、ハインツ・リンデンベルクと一緒に、どうやって作ったというんだ?)
クロードが、魔剣の管理者である一番目から聞き出した情報を整理すると……。
システム・レーヴァテインは、〝神剣の勇者〟が、巨人族の秘術を器に人々の祈りを束ね、終末戦争を乗り越えるべく未来に託した〝最古の魔剣〟だ。
システム・ヘルヘイムは、そんなレーヴァテインの情報を、〝平行世界の四奸六賊〟が盗用し『融合体』を創ろうとして大失敗。暴走の果てに、死者の祈りを取り込んで完成した〝第二の魔剣〟と言えよう。
……ならば、システム・ニーズヘッグ。〝第三の魔剣〟は、いったい何を集めて力となしたのか?
「そうネ、辺境伯サマ。あのクソガキ……邪竜ファヴニルは、この世界のレーヴァテインに対抗しようと、ワタシが持ち込んだヘルヘイムを改造したわ。力の源だって、ろくでもない代物でしょうよ」
シュテンは、金色に染まる空の下で赤い血に濡れながら、白い歯を剥き出して笑う。
「それがどうした? 所詮この身は屍を積み重ねる剣鬼よ。おれはきっとこの日の為に、死の淵より蘇り生きてきた!」
シュテンの気迫が丘を揺るがし、木々の葉が千切れ、河原の石が砕ける。
万物を喰らう吹雪は更に激しさを増し、燕返しが変幻自在の軌跡を描く。融合体の出力が生み出す魔技はもはや台風か竜巻か?
異界剣鬼たるシュテンの刃を捉えることなど、現世の誰にも不可能だ――否!
ドゥーエが、右手で手繰るムラマサと左の鋼鉄義手が支える鉄鞘の二刀流で、物干し竿を凌駕する。
「師匠、燕返しはもう見切ったぜ。昔は握り方を変えて、今は〝手を変化させている〟んだろう?」
ネオジェネシスは、ウジ状の生物として産まれ、後天的に人間の肉体へと変貌した魔法生命だ。
エコー隊の一般兵でさえ、手を触腕に変えたり、歯を牙のように伸ばせるのだ。
シュテンのような達人であれば、己の骨や神経、筋肉をいじるくらいお茶飯前かも知れない。
「片目を失ったからこそ、見えるものがある。手と腕に流れる血の音を聞けば、剣筋を読むのはワケねえ。これで、終いだ。きいぃえええやああっ!」
ドゥーエは、シュテンの剣閃を見事に読み切った。
天衣無縫の軌跡を描く物干し竿を、鋼鉄義手と鉄鞘で受け止め、袈裟斬りに振るったムラマサでへし折ったのだ。
「めちゃくちゃな言い分じゃないかっ」
どちらの刀も、並行世界のレアが手を入れた業物だ。武器としては互角かも知れないが……。
クロードの常識では、肉体の構成を変えるとか、流れる血の音で攻撃を判別するとか、無理無茶無謀もいいところだ。
『クロードさん、バカのたわごとは無視なさい。燕返しがなくなった今がチャンスですわ!』
「そうだね。邪竜の端末は、ここで断ち切る」
クロードを阻む長刀も魔技も、もはや存在しない。彼は一番目の激励を受けて、伏せ続けていた最後の鬼札をシュテンへ切った。
「鋳造――八丁念仏団子刺し。僕は貴方ではなく、邪竜を潰す!」
クロードの愛剣が銀光をまとって、吹雪の翼を真っ向唐竹割りに断ち切った。
胸当てと腰甲、水着鎧も粉砕し、芸術的な裸体が露わになる。
「斬った!」
クロードは、シュテンの肉体には傷ひとつつけることなく……。
彼と融合していた顔なし竜の寄生木、禍々しい土器のような魔術媒体を完全に破壊した。
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