第219話 異形の花庭(ストレンジガーデン)
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クロードは右手に火車切、左手に雷切を携えて、全身に異形の花を咲かせたベックへと切り込んだ。
炎が爆ぜて、雷が奔り、二刀の刃が閃く。
しかし、熱と火の粉は花によって喰われ、紫電は葉によって散らされ、刀は重なる茎に阻まれて傷をつけることは叶わなかった。
「どうした? 名高い悪徳貴族の手札はその程度かね?」
ベックが嘲弄し、攻守は一転する。
彼が着た強化服の肩部から拳大の種が飛んで爆ぜ、胴体に咲いた花弁から毒をもった花粉が吹き出し、両腕からは無数のツタが鞭のように伸びてクロードを襲う。
「……僕は、強くはないからな」
しかし、クロードとて負けてはいない。破裂する種皮を雷のカーテンで防ぎ、花粉は炎で焼き払い、魔法を受け付けないツタの連続攻撃を打刀と脇差しで弾いて逸らす。
「それだけの技を見せてよく言う。では、次のターンだ」
ベックの強化服、”異形の花庭”の背部から膨大な葉が舞って、気絶した緋色革命軍親衛隊兵士の装甲に張り付いた。
「次はチームプレイと行こう。同志と共に戦うことを、まさか卑怯とは言うまいね?」
ベックは、第六位級契約神器ルーンオーブ、水滴のような宝珠を輝かせて、先ほど射出した葉へと光を浴びせかけた。
倒れていた兵士たちがむくりと起き上がる。彼らは全身を覆う緑に操られ、さながらホラー映画のミイラのように、ギクシャクした挙動で歩き始めた。
けれど、その数は五〇以上。動きは鈍くとも、一斉に襲いかかれば人間一人を重量で圧殺するには十分だ。
「こんなもの、チームプレイなものか。辺境伯様、援護します」
「ラーシュくん、背中は任せた」
クロードは背後をラーシュに任せて、二人で敵の中へと飛び込んだ。
隊列を整えられれば、ますます打つ手がなくなる。その前に終わらせるのが上策だった。
手段はある。左手の雷切で殴打をいなしながら、右手の火車切を振るい、次々と魔術文字を刻み込んでゆく。
「――吹き飛べ、熱止剣」
クロードが空中に最後の線を引くと同時に、彼らの全身に魔術文字が展開し、熱を伴って爆発する。
レアの協力で、部長ことニーダルの技を改変したこの技は、生命あるものを傷つけない。
親衛隊兵士たちは、アリめいた装甲服はもちろん、ベックがとりつかせた葉も灰となって、すっぽんぽんで重なり落ちた。
(問題は制御が難しくて、強敵には当てられないのと、見栄えが悪いことだっ)
むさい男たちが全裸でピラミッドを作る光景は、正直に言ってどうかと思う。
「いやはや、恐ろしい技だ。しかも一人も殺さないとは、辺境伯は、評判に似合わずお優しいことだ。ならば、私も見習うとしよう」
「エカルド・ベックっ!?」
操り人形となった兵士たちをけしかけた隙に、背後から奇襲してきたのだろう。
ベックは火傷を負ったラーシュを、クロードの方に突き飛ばした。慌てて抱き留めて、簡易な治癒の魔術を施す。
「すみません。ご迷惑をかけました……」
「いいや、助かった。僕こそ君に守ってもらった」
ラーシュは決して弱くない。契約神器の能力に至っては、希有といっていい。しかし、ベックとの相性が悪すぎる。
「あいつの神器は、おそらく光に様々なエネルギーを付与するものだ」
爆発という指向性をもたせれば砲撃となり、遠隔操作という属性を付与すれば集団を無理矢理操れる。
加えて、彼がまとったドクター・ビーストの遺産、”異形の花庭”を強化すれば、これまでのような変幻自在の攻撃が可能になるのだろう。
「あと少しだけ待ってくれ。すぐに攻略法を考えつく」
もう喉元まで出かかっているのに、推理を完成させるための欠片が足りない。否、目の前にあるのに気づけていない。
「ほう。しかし、辺境伯殿。よく考えて欲しい。赤い導家士を退けてから、貴方はずっと改革者であり、革命者であったはずだ。本来ならば我々に近いはずなのだ。なにゆえ古い支配体制に、貴族に協力するのかね?」





