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廻り廻るわたしと―――きみと  作者: 行見 八雲
第一章 約束。
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5.彼と長期休暇。



 学期ごとの試験も終わり、夏季の長期休暇がやってきた。



 そう言えば、リュカは魔法能力は飛び抜けて優れているけど、勉学の方は苦手らしく、試験前に私はリュカにとことん叩き込んだ。


 そのおかげか、リュカは欠点を取ることなく、無事夏季休暇を迎えることができそうだ。

 


 この休暇を利用して、私は実家に帰ることにしたけど、リュカは学園に留まるらしい。


 予定を聞いた私に、リュカは「俺が帰っても、迷惑になるだけだろう」とそっと笑った。


 その寂しそうな笑みに、心臓を突かれて、私はリュカの頭をくしゃくしゃと掻き回したのだけれど。



 一緒に居るようになってから一つの季節を超えたけど、私は未だリュカの今までの生活や現在の状況について聞いていない。


 まあ、話したくなったらリュカが話してくれるだろうし、聞いたとしても私達の何が変わるわけもないと思うしね。




 さて、実家に帰るには、学園から馬車に二日ほど揺られなければならない。


 そりゃあ、精霊術を使えば、そんなに時間をかけずに瞬時に帰れるけれど、特に急ぐわけでもないのに、あまり精霊にわがままを言うのは良くないし、まあ、こうしてのんびり景色を見ながら馬車に乗るのも、たまには良いかと思うのよね。



 実家に帰った日の夜に、私は両親と兄と、休暇で家に帰っていた姉とともに、夕食をとった。


 ちなみに、兄はすでに学園を卒業して、次期領主として父の仕事を手伝っているし、姉は私とは違う学園に通っている。



 次の日は部屋でゆっくりしたり、母や姉とお茶会をした。


 その次の日は、兄に付いて私も領地を見て回った。


 また次の日は、一人で街中を歩いた。


 その他にも、部屋で本を読んだり、領地内の精霊に会いに行ったり、友人と遊んだりして過ごした。



 けど、実家に帰って五日ほど経った頃から、学園に残してきたリュカのことが気になりだした。


 今どうして過ごしているのだろうか。


 退屈してやしないか。暴走してやしないか。………寂しい思いを、してやしないか。


 その思いは段々強くなって、十日が経つ頃には私は学園へ戻ることを決意していた。


 渋る家族には、学園で勉強したいことがあるからと説得して、実家に帰って十一日目の朝に私は馬車に乗り込んだ。



 馬車に乗って、しばらく揺られているうちに、私はこの行動が早計だったように思えてきた。


 私がいないとリュカが寂しがるなんて、とんだ自惚れだ。


 リュカだって、私がいなくたって、きっとそれなりに学園で過ごしているだろうし。


 ふっと息を吐いて、私は窓の外に目をやった。


 まあ、それならそれで、新学期に向けての予習でもしてればいいかと、私は気持ちを切り替えた。





 三メートルほどもあろうかと思われる大きな鉄格子の校門を抜け、私の乗った馬車は学園内の寮の前で止まる。


 馬車の扉が外から開かれるのを待って、私は馬車を降りた。


 しっかりと地面に足を下ろして顔を上げれば、寮の正面玄関の前にリュカが立っていて驚いた。


 何故か泣きそうな眼と、心なしやつれたようなその様子は、道端に捨てられた子犬のようで、無条件に手を差し伸べたくなる。


 でも、一体どうしたのだろうか。


「どうしたの?リュカ?」


 何も言わないリュカが心配になって、私はリュカに声をかけた。


 途端、リュカの表情がくしゃりと歪む。


 そして次の瞬間、私はリュカに抱き付かれていた。


 私より頭半分高いリュカが、縋るように私を抱き込む。リュカの肩は揺れていた。



 抱き着かれたときは驚いたけど、ただならぬリュカの様子に、私は腕をリュカの背に回し、背中をぽんぽんと叩いた。


「何かあったの?」


 そう訪ねた私に、リュカはさらにぎゅっと抱きついてきて。


「アリア、アリア、アリア、アリア………」


 私の名を呼び続ける。


「………誰かに、いじめられたの?」


 私の問いに、リュカは首を振る。


「………暴走して、先生に怒られた?」


 また、首を振る。


 どうしたものかと、私は、背中に回していた手をリュカの両肩において、リュカから体を離した。


 覗き込んだリュカの顔は涙でぐしゃぐしゃで、どうしたのかと心配になる。



「………寂しかった、んだ」


 宥めるように頭を撫でていると、漸くぽつりとリュカが話し出した。


「アリアが、いなかったから……すごく寂しかった………このまま帰ってこなかったら……どうしようって………」


 一度は泣き止んだリュカの目に、また涙がこみ上げる。


「………独りは…嫌だよ……、……こわい………」


 そう言って、また私を抱き締めた。




 ………………………………!


 ど………どうしよう……!!?


 不謹慎かもしれないけど………この子可愛すぎる!!!


 私が帰ってくるか心配だったとか!


 帰ってきたのに気づいて、飛び出してきちゃったりとか!


 安心して泣いちゃったりとか!


 ああ~もう! 可愛い可愛い! 撫で繰りまくりたいいぃぃ!!




 し……しかし、ここはあえて空気を読んで我慢する。


 

「ごはん、食べたの?」


 リュカの背を摩りながら、問いかけた。


 私が学園を出る前に見た時より、痩せたような気がするリュカが気になったからだ。


 私の言葉に、リュカは私の肩口で首を振る。


「―――お腹空いたし、ご飯食べに行こっか」


 努めて明るくそう言えば、リュカは私の肩に顔を付けたまま頷いた。




 そのまま二人で食堂に行って食事をして、それから私は、離れたがらないリュカを連れて、久しぶりの寮の部屋に戻った。


 安心したからか、もしくはお腹がいっぱいになったからか、眠そうにふらふらしているリュカを、光の精霊術でふかふかにしたベッドに寝かせる。


 横になったまま、私が荷物を片づけるのを見ていたリュカは、やがて眠気に負け、寝息を立て始めた。



 リュカが眠ったのを確認して、私はそっとリュカに近づき、横になっている彼の上に手を翳し、光の精霊術でリュカに纏わりついていた瘴気を祓った。




 瘴気は、魔力を持つ者が、憎悪や嫉妬などの悪感情を持った時に、それが魔力に作用して生まれる。


 そして、瘴気は、そのまま生じさせた者に留まって、その者の悪感情を増幅させ、魔に落とすか、もしくは、その者から離れて一定の場所に溜まり、凝固して魔物を生み出したりする。


 強大な魔力を持つ者が悪感情に支配された時、その者が生み出す瘴気の量は、他の者とは比較にならないほど多く、また濃度も濃くなる。


 そして、その瘴気が世界に回り、瘴気にとり憑かれる者や魔物を、多く生み出すようになるのだ。


 そう、その膨大な量の瘴気を生み出す者を、人々は魔王と呼ぶ。


 魔王は、別に魔物を従えて人を害そうとするわけではなく、ただ世界を呪い、狂い、際限なく瘴気を生み出し続ける。


 そして、瘴気から生まれた魔物が、人や他の生き物を本能のままに襲うため、人にとって脅威となるのだ。



 リュカは魔王になりうるだけの膨大な魔力を有しているから、このまま孤独に落ち、世界に絶望すれば、再び瘴気に囚われ魔王となるだろう。


 魔力によって人から忌避され、その魔力によって魔王となり、討伐の対象にされるなんて、リュカにとってその強大な魔力を持つ意味とは何なのだろうか。


 それでも魔力は、魂に付属するものなので、幾度生まれ変わったとしても、魔力の量が減ることは無い。




 私はそっと、横になって眠るリュカの髪を撫でた。


 前の生で倒した、魔王の最後が頭を過る。


 私が離れたことで、今回は僅かだったが、瘴気を生み出してしまったリュカ。


 もしかしたら、リュカが魔王に堕ちるスイッチを、私は握ってしまったのかもしれないけど。



 でも、まあ、全てを受け入れる覚悟はできているし。


 あの約束をし、現生でリュカに出会った時点で、私の心は決まったのだから。




 私は眠るリュカに薄手の毛布を掛けて、片付けの作業へと戻った。



 瘴気の設定は、『華の降る丘で』と同じです。

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