第93話 必要な素材
部屋に入ると、私はすぐに机に向かった。
休んでいる暇はない。
来週の実技演習までに、課題のポーションを完成させなければならないのだ。
「さて、作戦会議よ」
私は図書館でメモしてきたノートを広げる。
今日調べた『魔力微回復薬』のレシピ。
これを作るために必要な素材を書き出していく。
トパーズ草の葉、陽光石のかけら、清浄な水。
「水は、この屋敷の水で十分ね。問題は残りの二つ」
トパーズ草は、太陽の光を浴びて育つ黄色い薬草だ。
陽光石は、微弱な光を放つ鉱石。
これらは王都の市場に行けば売っているかもしれない。
学園の購買部にもあるだろう。
お金を出せば、手に入れるのは簡単だ。
私は懐の財布を取り出してみる。
中にはラスール公爵様から頂いた支援金と、私が冒険者として稼いだお金が入っている。
買えない額ではない。
だけど。
「……もったいないわよね」
私は貧乏性なのかもしれない。
せっかく稼いだお金を、素材代で消してしまうのは心が痛む。
このお金は、もっと重要な器具を買ったり、家族のために使ったりしたい。
それに何より。
自分の足で歩き、自分の目で見て、素材を見極める。
お店で買った素材は楽だけど、どんな環境で育ったのか、いつ採れたのか、詳しいことは分からない。
自分で採取すれば、鮮度も品質も自分の目で確かめられる。
最高のポーションを作るなら、素材選びから妥協したくない。
「決まりね」
私はノートに大きく丸をつけた。
明日は休日だ。
学園も休みだし、絶好の採取日和。
「明日は冒険者として、素材を探しに行くわ」
私は足元でくつろいでいるポムを見下ろした。
ポムは「ん?」と首を傾げている。
「出番よ、ポム。あなたが必要なの」
トパーズ草を見つけるのも。
良質な陽光石を探し当てるのも。
私一人の力では難しいかもしれない。
でも、ポムがいれば百人力だ。
あの、最高品質を見抜く目があれば、きっとすごい素材が見つかるはず。
「きゅるん!」
ポムは嬉しそうに立ち上がり、尻尾を振った。
どうやら彼も、屋敷での留守番より外に出る方が好きみたいだ。
「トパーズ草は、日当たりの良い場所……南の森あたりかしら。陽光石は、洞窟の中よね」
私は冒険者ギルドで買った地図を広げて、採取ポイントの目星をつける。
南には「陽だまりの森」がある。
あそこならトパーズ草がありそうだ。
北には「水晶洞窟」という初心者向けのダンジョンがあるらしい。
陽光石ならそこかもしれない。
「よし、大体の方針は決まったわ」
私は筆を置き、大きく伸びをした。
久しぶりの冒険だ。
学園での勉強も楽しいけれど、やっぱり外に出て体を動かすのも悪くない。
窓の外を見ると、満月が綺麗に輝いていた。
明日は晴れるだろう。
私はベッドに入り、毛布を被る。
ポムがするりと潜り込んできて、私のお腹のあたりで丸くなった。
温かい。
「明日は久しぶりの冒険よ、ポム! 気合を入れてね!」
「きゅん!」
私はそう呟いて、目を閉じた。
ポムの穏やかな寝息を聞きながら、私の意識はゆっくりと夢の中へと落ちていった。
黄色いポーションが輝く夢を見ながら。
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