第91話 魔法館の夕暮れ
主な材料は、トパーズ草の葉 ・陽光石のかけら ・清浄な水。
ふむふむ。
トパーズ草は、太陽の光を浴びて育つ、黄色い葉を持つ薬草だ。
陽光石は、微弱な光を放つ鉱石。
「作り方は……」
水を加熱し、陽光石のかけらを投入して、光属性の魔力を水に移す。
トパーズ草を乾燥させ、粉末にしたものを加える。
工程自体は、それほど複雑ではない。
回復ポーションと似ている部分もある。
だけど、重要なのは「魔力の定着」だ。
魔力回復薬は、物質的な成分よりも、そこに込められた魔力の質が効果を左右する。
錬金術師の腕が、ダイレクトに反映される薬なのだ。
「やりがいが、ありそうね」
私はノートを取り出し、レシピを書き写した。
知識を総動員して、自分なりの考察も書き加えていく。
ペン先が、紙の上を走る。
さらさらと音を立てて、知識が私の中に蓄積されていく。
楽しい。 知らなかったことを知る。
理解できなかったことが、理論として繋がっていく。
この感覚こそが、私が錬金術に惹かれる理由なのかもしれない。
気がつくと、かなりの時間が経過していた。
周りの生徒たちも、いつの間にか入れ替わっている。
私は大きく伸びをして、凝り固まった肩をほぐした。
「……ふぅ。大体の方針は決まったわ」
ノートには、びっしりとメモが書き込まれている。
これを元に、レポートの下書きも進められそうだ。
素材の調達リストも作った。 あとは、実践あるのみ。
「ユリ、まだかな」
私は顔を上げて、魔法書のコーナーの方を見た。
高い本棚の向こう側。
あっちもきっと、すごい集中力で本を読んでいるに違いない。
私は重たい本を閉じた。
パタン、という音が、静かな館内に小さく響く。
この本は、借りて帰ろうかな。
私は本を抱えて、立ち上がった。
そして、ユリを探しに行くことにした。
魔法書コーナーに行くと、案の定、ユリは本の山に埋もれていた。
机の上に、何冊もの分厚い魔導書を積み上げて、一心不乱に読み耽っている。
その横顔は、真剣そのものだ。
「ユリ」
私が小声で声をかけると、彼女はビクッとして顔を上げた。
そして、私だと気づくと、ほっとしたように表情を緩める。
「あ、エリス。もう、終わりましたか?」
「ええ。作りたいポーションの目星がついたわ。ユリは?」
「私も、面白い魔法陣を見つけました。転移魔法の基礎理論なんですけど、今の魔法式とは全然違っていて……」
彼女は嬉しそうに話し始めた。
その瞳は、キラキラと輝いている。
本当に、魔法が好きなんだな。
私たちがこうして、好きなことに没頭できるのも、この学園に入れたおかげだ。
「そろそろ、閉館の時間みたいよ」
私が時計塔の鐘の音を聞いてそう言うと、ユリは名残惜しそうに本を閉じた。
「そうですね。夢中になりすぎちゃいました。この本、借りていきます」
私たちはカウンターで貸し出しの手続きを済ませ、魔法館を出た。
外はもう、夕暮れ時だった。
茜色の空が、学園を美しく染め上げている。
校舎の影が長く伸びて、地面に幾何学模様を描いていた。
私たちは並んで、道を歩く。
心地よい疲労感と、充実感。
今日一日で、また少しだけ、成長できた気がする。
「ねえ、エリス」
「ん?」
「私、エリスと友達になれて、本当に良かったです」
ユリが、少し照れくさそうに言った。
その言葉に、私の胸がじんわりと温かくなる。
「私もよ、ユリ。これから、もっともっと、色んなことを一緒に学びましょうね」
「はい!」
私たちは顔を見合わせて、笑った。
貴族の学園。 厳しい競争社会。
敵も多いかもしれない。
だけど、こうして分かり合える友人がいれば、きっと大丈夫。
私の本当の学園生活は、まだ始まったばかり。
課題のポーション作り。
これから待ち受ける数々の試練。
そして、アルバ公爵の影。
不安がないと言えば嘘になる。
だけど、今はただ、この穏やかな時間を大切にしたい。
明日からの私が、今日よりもっと輝けるように。
私は、小さな決意を胸に刻んだ。
絶対に、最高のポーションを作ってみせる。
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