第89話 知識の殿堂
私とユリは並んで石畳の道を歩き、目的の場所へとたどり着いた。
目の前にそびえ立つのは巨大な尖塔を持つ石造りの建物。
王立ラピスフォード学園が誇る知識の殿堂、「魔法館」だ。
「懐かしいですね」
「ええ。あの特別入試以来だわ」
私たちは顔を見合わせて小さく笑った。
あの時の緊張感が、なんだか遠い昔のことのように思える。
それだけ濃密だということだろう。
「さあ、行きましょうか」
「はい!」
私は重厚な扉に手をかけ、ゆっくりと押し開けた。
中に入った瞬間、静寂が私たちを包み込む。
そして鼻をくすぐる古書の匂いとインクの香り。
埃っぽいけれど、どこか落ち着く知性の香りだ。
高い天井には巨大な吹き抜けがあり、柔らかな陽光が降り注いでいる。
壁一面を埋め尽くす本棚には、数えきれないほどの書物が並んでいた。
そこには多くの生徒たちが静かに座り、勉学に励んでいる姿がある。
とんがり帽子を被った魔法科の生徒が、杖を片手に魔導書を読みふけっている。
騎士科の生徒らしき体格の良い男子が、戦術論の本と睨めっこしている。
そして、錬金科の生徒もちらほらと見受けられた。
「すごい……」
「やっぱり、ここはいつ来ても圧倒されますね」
ユリが目を輝かせながら周囲を見渡す。
私も同じ気持ちだ。
ここにある知識の全てが、私たちの手の中にある。
そう思うだけで胸が高鳴るのを抑えきれない。
「それじゃあ、私は錬金術の棚を探すわね。ユリは魔法書よね?」
「はい。基礎魔力制御の本と、それから……ちょっと興味のある、転移魔法の本も探してみようかと」
「お互い、良い本が見つかるといいね」
「はい! では、また後で」
私たちは入り口で別れ、それぞれの目的の場所へと歩き出した。
私は館内の案内図を頼りに、奥まった場所にある錬金術のコーナーを目指す。
広い館内を歩く。 足音が絨毯に吸い込まれて消えていく。
静かだ。 ページをめくる音と、誰かがノートにペンを走らせる音だけが響いている。
この空間そのものが、まるで一つの巨大な魔道具のようだ。
やがて私は、「錬金術・魔法科学」と書かれたプレートを見つけた。
魔法書のコーナーほどではないけれど、それでも十分すぎるほどの広さがある。
高い本棚が迷路のように入り組んで並んでいた。
「さて、課題のための本を探さないと」
アイラ先生から出された課題。
『自分の好きな色のポーションを作る』。 そのためには、まず既存のポーションのレシピを知る必要がある。
色を変えるためには、どんな素材がどんな反応を示すのか。
その基礎知識がなければ、応用なんてできっこない。
私は棚の端から順に、背表紙を目で追っていった。
『基礎錬金術の歴史』 『賢者の石への道』 『金属変成論』
難しいタイトルの本がずらりと並んでいる。
私が古本屋で買った入門書とはレベルが違いそうだ。
どれも分厚くて、そして高価そうな装丁が施されている。
「ポーション以外にも、色々な分野があるのね……」
私はふと、一冊の本を手に取った。
『ゴーレム・メイキング ~人工生命体の基礎~』
土や石、金属で作られた人形に、仮初めの命を吹き込み使役する技術。
楽しそう……。
パラパラとページをめくってみる。
複雑な魔法陣と、関節構造の図解がびっしりと描かれていた。
素材の強度計算や、命令系統の魔力回路の設計。
「魔道具の作成……これも面白そうね」
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