第86話 食堂
L棟を出て私は学園の敷地内を歩く。
手にはアイラ先生から渡された分厚い紙束。
ずっしりと重いそれが私の胃を再びキリキリと痛めつける。
「腹が減っては戦はできぬ、だわ」
私は地図を頼りに学生食堂を目指した。
並木道を抜け、中央広場の噴水を横目に進む。
すると香ばしいパンの焼ける匂いと、スパイスの刺激的な香りが漂ってきた。
目の前に現れたのは巨大な建物。
壁一面がガラス張りになっていて、中の賑わいが透けて見える。
入り口には「学生食堂」と書かれた看板。
その下には「本日はスペシャルメニュー」の文字が踊っていた。
「おお……!」
私は期待に胸を膨らませて扉をくぐる。
中は想像以上に広かった。
天井が高く、開放感がある。
頭上には魔法で灯されたシャンデリアがいくつも浮遊していた。
数百人は座れそうなテーブル席がずらりと並んでいる。
「すごい……これが学園の食堂……」
前世の大学の学食も広かったけれど、ここはレベルが違う。
まるで高級ホテルのビュッフェ会場みたいだ。
生徒たちの話し声と食器が触れ合う音が、心地よい喧騒となって響いている。
私は入り口近くにあるカウンターへ向かった。
そこには数台の不思議な機械が並んでいる。
大きな水晶玉が埋め込まれた、金属製の箱だ。
「えっと、使い方は……」
説明書きを読む。
どうやら自分の魔力をあのクリスタルにかざすらしい。
そうするとメニューが表示され、好きなものを選べる仕組みだとか。
私は恐る恐る水晶玉に手をかざしてみた。
フォン、と小さな音が鳴り、空中に光の文字が浮かび上がる。
『Aランチ:若鶏の香草焼き』
『Bランチ:季節野菜のクリームシチュー』
『Cランチ:特製ハンバーグステーキ』
どれも美味しそうすぎる。
私は迷いに迷った挙句、Bランチのクリームシチューを選んだ。
パンかライスが選べるらしいので、焼きたてのパンを選択。
すると、ガチャンと音を立てて一枚の食券が吐き出された。
「なるほど、ハイテクね」
私は食券を手に取り、配膳カウンターへと進む。
厨房の中では、白いコックコートを着た料理人たちが忙しなく動いていた。
中には魔法を使って、複数のフライパンを同時に操っている人もいる。
あれも一種の魔法の実践活用かしら。
「はいよ、シチューお待ち!」
「パンはおかわり自由だからね!」
恰幅の良いおばちゃんが、トレーに料理を乗せて渡してくれた。
その言葉に私の耳がピクリと反応する。
「……おかわり、自由?」
「そうだよ! 育ち盛りなんだから、たんと食べな!」
神様かと思った。
学費免除に加えて、食費まで浮くなんて。
ラスール公爵様、そして王立学園様、一生ついていきます。
私はトレーを受け取り、空いている席を探した。
窓際の席が空いている。
陽の光が差し込む、明るい場所だ。
私はそこに座り、まずは水を一口飲んだ。
冷たくて美味しい。
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