第78話 完璧な演説と美貌
その名前を聞いた瞬間。
私の背筋に、冷たい汗が一筋垂れた。
アルバ……!?
アーベント家を奈落の底に突き落とした、 宰相、ゼノン・ラーザ・アルバ公爵。
その、娘。
私と、同じ歳。
噂ではあるが、この学園に入学するとは聞いていたけれど。
まさか、いきなり新入生代表だなんて。
なんだろう。
私たちをあれだけ蹴落としておいて、その張本人の娘が、こんな晴れの舞台に立っている。
胸の奥が、ちりちりと焦げるような、嫌な感覚。
少しむかつく。
やがて、私の複雑な心境なんてお構いなしに、 一人の少女が、ゆっくりと壇上へと歩み出た。
燃えるような、真紅のドレス。
夜の闇を、そのまま固めたかのような、美しい赤髪。
気高く、冷たいルビーのような赤い瞳。
彼女こそが、ソフィア・ラーザ・アルバ。
その姿は、息を呑むほど美しかった。
だけど、その美しさが、逆に私を苛立たせる。
ソフィアはマイクの前に立つと、完璧な貴族の礼をしてみせた。
そして、鈴を転がすような美しい声で、演説を始める。
「新入生の皆様。この栄誉ある、王立ラピスフォード学園に入学できましたこと、心より、光栄に思います」
これから、学生としてどう学んでいくか。
この国のために、いかに尽くしていくべきか。
その一言一言が、よどみなく紡がれていく。
「私たち貴族の責務は、学び、成長し、やがては、このアステル王国を支える礎となること。私は、その崇高な使命を果たすため、日々、研鑽を積む所存です」
そして。
彼女は、誇らしげに胸を張った。
「我が父、ゼノン・ラーザ・アルバ公爵も、常々申しております。真の貴族とは、国に、民に、身を捧げる者である、と。私も、父のような偉大な国の柱となれるよう、この学園で、精進いたします」
偉大な、お父様の話。
その内容は、非の打ち所がない完璧な優等生の演説だった。
その偉大なお父様が、裏でどんな非道なことをしているのかも知らずに。
そう思っていると、演説が終わる。
講堂は、割れんばかりの拍手に包まれた。
彼女の完璧な演説と美貌に、周りの新入生たちもうっとりとしているようだ。
一応、私も周りに合わせて、適当にパチパチと手を叩いておいた。
ソフィアが、満足げな笑みで席に戻っていく。
そして、学園長がもう一枚の紙を手にした。
「そして、もう一人。ラスール公爵家ご令息――ルートス・レイ・ラスール」
えっ!? ルートスも、代表なの!?
確かに、彼も二大公爵家の一人。
ソフィアと並び立つには、ふさわしいわね。
でも病み上がりなのに、大丈夫かしら。
私の心配をよそに、ルートスは、ソフィアとは対照的に静かな足取りで、壇上へと上がった。
数ヶ月前より、ずっと顔色も良く、その姿は、凛としていて美しい。
彼は、落ち着いた声で演説を始めた。
「ご紹介にあずかりました、ルートスです」
彼は学園で何を学びたいか、自身の目標を語った。
病を克服した彼だからこそ、分かる、命の尊さ。
そして、それを守るための知識を、学びたいと。
その真摯な言葉に、会場は静かに耳を傾けている。
そして、最後にルートスは口を開いた。
「私は、この場で感謝を述べたい人がいます」
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