第77話 在校生代表
講堂の硬い木製の椅子に座りながら、私はそわそわと落ち着かない気分だった。
広い講堂の席が、私と同じ真新しい服を着た新入生たちで埋まっていく。
周りを見渡せば、皆、緊張と期待が混じった、晴れやかな顔をしている。
高価そうなシルクのドレスや、寸分の隙もなく仕立てられた上着。
いかにも、有力貴族のご子息ご令嬢ばかりだ。
すごいわね。これが、王立学園。
私なんかが、本当にここにいていいのかしら。
いや、弱気になっちゃダメだ。
私は、あの地獄のような試験を、自分の力で突破して、この席を掴み取ったんだから。
私は、ぎゅっと、小さな拳を握りしめた。
懐で、リアが作ってくれた手作りのお守りが温かい。
やがて、会場が静まり返った。
壇上に、白くて長い、立派な髭をたくわえた、人の良さそうなお爺さん――この王立ラピスフォード学園の学園長が、ゆっくりと立った。
「新入生の諸君。入学、おめでとう」
穏やかで、しかし、講堂の隅々まで響き渡る通る声だった。
学園の創立の歴史、偉大な賢者の教え、そして、学生としての心構え。
前世の大学の入学式でも、聞いたことがあるような、少しだけ退屈な、だけど、大切な話が続いていく。
だけど、この世界の入学式はちょっと違った。
「――では、諸君の輝かしい未来と、無限の可能性を祝福して」
学園長がそう言うと、傍らに置いてあった、古めかしい樫の杖を、軽く一振りする。
すると、何もない壇上の空間から、きらきらと眩い光の粒子が溢れ出した。
その粒子が、雨のように、私たちの頭上に降り注ぐ。
そしてその光が触れた場所から、一斉に色とりどりの美しい花々が咲き誇ったのだ。
「わぁ……!」
「すごい……!」
あちこちから、感嘆の声が上がる。
すごい。これぞ、ファンタジーの魔法だ。
あっという間に講堂は、まるで春の庭園のように甘く、優しい香りで満たされた。
ひらひらと舞い落ちた、一枚の桜色の花びらが、私の膝の上に着地する。
なんて、華やかな入学式なんだろう。
学園長の粋な挨拶が終わり、次は何かと思っていたら。
司会の人が、声を張り上げた。
「続いて、 による、歓迎のパフォーマンス!」
その声と共に、数人の上級生らしき人たちが、壇上に現れた。
騎士科の生徒が、魔力をまとわせた剣で、目にも留まらぬ速さの炎の斬撃を飛ばしたり。
魔術科の生徒が、複雑な詠唱で、講堂の天井いっぱいに、美しい水の竜を泳がせたりと。
そのどれもが、私が見たこともないような、高度で、洗練された魔法と剣技。
あれが、この学園で、学べる力。
会場の熱気は、最高潮に達している。
皆が目を輝かせて、その圧巻のパフォーマンスに見入っていた。
私の胸も、自然と高鳴っていく。
みなが盛り上がる中、パフォーマンスは盛大な拍手と共に、幕を閉じた。
そして、再び学園長が、マイクの前に立つ。
「――さて、新入生の諸君。最後に、君たち新入生の中から、代表として、二名に誓いの言葉を述べてもらおう」
代表演説。
前世でもあったわね。
恐らく、家柄が一番いい人だ。
学園長が、手元の紙に、視線を落とす。
「新入生総代――ソフィア・ラーザ・アルバ」
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