第69話 合格通知と、妹のお守り
あれから数週間が過ぎた。
王立学園の特別推薦入学試験を終えてから、私の日常は少しだけ落ち着きを取り戻していた。
もちろん冒険者としての活動は続けている。
だけど危険な依頼は受けず、薬草採集のような安全な仕事だけを選んでいる。
今の私の主な日課は、部屋にこもって錬金術の勉強と実践を繰り返すこと。
今日は隣にポムを座らせて、錬金術のレシピ本を眺めていた。
今回作ろうとしているのは回復薬じゃない。
属性に対する耐性を上げるための「耐性薬」だ。
回復薬とは使う素材も工程も全く違う。
だけど、やっぱり錬金術は楽しい。
未知のものを、自分の手で生み出す。
その過程がたまらなく面白いのだ。
ただ問題は、素材があまり手元にないこと。
だから今は簡単な物しか錬金できない。
今私が挑戦しているのは、冷気に対する耐性薬。
まあ最近めっきり寒くなってきたし、ちょうどいいかもしれない。
私はそんなことを考えながらポムに素材を選別してもらう。
さすがは私の最高の相棒。
見た目では分からない素材の品質を的確に見抜いてくれる。
私はポムが選んでくれた薬草を手に取り、耐性薬のレシピを再確認する。
前に買った『初めての錬金術』の本。
その巻末におまけみたいな感じで耐性薬の基礎が書いてあった。
本当に基本的なレシピだけど、今の私にはちょうど良かった。
まあ、そろそろ新しい専門書を買ってもいい頃かもしれない。
でも私は、一つの物をボロボロになるまで使い込んでしまう癖があるんだよね。
前世からの貧乏性が抜けないみたいだ。
「さーてと、やりますか」
私は苦笑しながら、錬金の準備を始めた。
古びた鉄鍋に清浄な水を張り、魔力でゆっくりと加熱していく。
そしてポムが選んでくれた素材を順番に投入し、慎重に魔力を練り込んでいく。
耐性薬は回復薬よりも、繊細な魔力コントロールが必要らしい。
失敗しないように集中しないと。
私が錬金に没頭していると、不意に部屋の扉がノックされた。
コンコン、と少しだけ慌てたような音。
「エリス様! いらっしゃいますか!?」
ミレイユの少し上ずった声だ。
何かあったのかしら。
「う、うん! いるけど……!」
私が返事をすると、ミレイユは勢いよく扉を開けた。
その手には一通の、立派な封蝋がされた書状が握られている。
そして彼女の顔は、期待と緊張で紅潮していた。
「エリス様! 王立学園から、合否の書状が届きました!」
「えっ!?」
その言葉に、私の心臓がどくんと大きく跳ねた。
ついに来たんだ。
運命の結果が。
私は慌てて錬金の火を止め、ミレイユからその書状を受け取る。
ずしりと重い。
上質な羊皮紙の手触りが、私の手のひらに緊張感を伝えてきた。
「エリス様、ここで開かれますか?」
「そ、そうね」
私は恐る恐る頷くと、震える手で書状を机の上に置いた。
深呼吸を一つ。
大丈夫。
私ならきっと大丈夫。
だけどもし、ダメだったら……。
ふと気づくと、いつの間にか部屋の入り口にはお父様とお母様、そしてリアの姿もあった。
ミレイユが知らせてくれたのだろう。
皆、固唾を飲んで私を見守っている。
その視線が痛いほど伝わってきた。
私の足元ではポムが「早く早く!」とでも言うように私の足に前足をかけてくる。
その無邪気さが少しだけ私の緊張を和らげてくれた。
私は意を決して、封蝋を慎重に剥がした。
そして、折りたたまれた羊皮紙をゆっくりと開く。
そこに書かれていたのは……。
『――アリア・フォン・アーベント殿。貴殿を、王立ラピスフォード学園、特別推薦入学試験合格者として、認定する』
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