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【書籍化決定】転生処理ミスで貧乏貴族にされたけど、錬金術で無双します!~もふもふとお金を稼いで家を救います~  作者: 空月そらら
第一章

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第65話 アーベント家

学園の壮麗な正門前には、見慣れたラスール家の紋章が入った馬車が、静かに停まっていた。


その傍らには、背筋をぴんと伸ばした執事長のゼドリックさんが、少しも表情を変えずに佇んでいる。


まるで、私がここに戻ってくるのを、ずっと前から知っていたかのように。


「おかえりなさいませ、エリス様」


私の姿を認めると、彼は深々と、完璧な角度で一礼した。


その声には、普段通りの落ち着きの中に、ほんのわずかな安堵の色が滲んでいるように聞こえたのは、私の気のせいだろうか。


「試験は、いかがでしたかな」


「私にできることは、全て、やってきました」


私は、少しだけ胸を張って、そう答えた。


「後は、結果を待つだけです」


 私がそう言うと、ゼドリックさんは口元を緩める。


 それは、滅多に見られない、彼の珍しい表情だったかもしれない。


「左様でございますか。では、お屋敷までお送りいたします」


 彼は馬車の扉を、流れるような優雅な動作で開けてくれる。


  私はそのエスコートに従い、ふかふかのベルベットの座席に、身を沈めた。


 どっと、全身の力が抜けるような、深い疲労感が押し寄せてくる。


 もう、指一本動かしたくないくらいだ。


  馬車がほとんど揺れを感じさせずに、静かに動き出した。


 窓の外を流れる景色が、だんだんと見慣れた、少し寂れた旧市街のものへと変わっていく。


 きらびやかな貴族街の灯りも、今の私には、どこか遠い世界の出来事のように感じられた。


 私の心は、試験を終えた安堵と、合格への期待、そして、もし落ちてしまったらどうしようという、わずかな不安で、複雑に揺れていた。


 本当に、合格できているだろうか。


 あれだけのことをしたのだから、きっと大丈夫。そう信じたいけれど。


 やがて馬車は、我が家、アーベント家の古い屋敷の前に、静かに到着した。


  夕闇の中に沈む、夕暮れの屋敷。


 だけど今日は、その窓からいつもよりもずっと明るく、温かい光が漏れているのが見えた。


  みんな、私の帰りを待っていてくれたんだ。


 そう思うだけで、胸の奥がじんわりと温かくなる。


 馬車が完全に停まると同時に、屋敷の扉が勢いよく開いた。


 まるで飛び出すように現れたのは、メイドのミレイユだった。


 その顔には、隠しようもない安堵の色が浮かんでいて、目元が少し赤くなっている。


「エリス様! おかえりなさいませ!」


 そして彼女の後ろから、心配そうな顔のお父様とお母様、そして小さなリアも姿を見せた。


「おかえり、エリス!」


「よく頑張ったな!無事か!?」


「おねえちゃまー!」


 その家族からの温かい出迎えに、私の胸がいっぱいになる。


  堪えていた涙が、溢れそうになるのを、必死でこらえた。


 馬車から降りた私の足元に、白い弾丸のようなものが、勢いよく飛び込んできた。


「きゅーん! きゅんきゅん!」


「ポム!」


 私がいない間、ずっと寂しかったのだろう。


 私の足に何度も何度も体を擦り付けてきて、離れようとしない。


 尻尾も、ちぎれんばかりに、ぶんぶんと振られている。


 私はその小さな体を、力の限りぎゅっと抱きしめた。


  ただいま、ポム。


 心配かけたわね。


 ずっと待っていてくれて、ありがとう。


 お父様もお母様も、私の無事な姿を見て、安堵の涙を浮かべている。


 リアは私の手を力いっぱい引っぱって、無邪気に急かす。


 私はそんな家族に、今日一番の笑顔を向けた。


「ゼドリックさん、送ってくださって、本当にありがとうございました」


 私が馬車に向かって深くお礼を言うと、彼はにこやかに答えてくれた。


 「いえ。公爵様も、エリス様のご健闘を、心から祈っておられました。良い結果が届くことを、私も、心から願っております」


 ゼドリックさんはそう言うと、もう一度恭しく一礼し、馬車を静かに動かして、夜の闇の中へと去って行った。


 ラスール家の馬車が見えなくなるまで、私たちは、黙ってそれを見送った。


「さあ、エリス。外は冷えるだろう。早く中に入りなさい」

 

 お父様とお母様に優しく促され、私は家族とポムに囲まれて、温かい光が待つ屋敷の中へと入る。


  玄関ホールには、ぱちぱちと音を立てて燃える暖炉の火があって、私の冷え切った体を、芯から優しく溶かしてくれた。


  そして食堂からは、今までこの家で嗅いだことのないような、食欲をそそる、本当に美味しそうな匂いが漂ってくる。


 食卓には、いつもより、ずっとずっと豪華な料理が並んでいた。


 ミレイユが私のために、きっと準備してくれていたのだろう、湯気を立てる鶏肉のクリームシチュー。


  ふわふわで、ほんのり甘い香りのする、焼きたての白いパン。


 そしてデザートには、蜂蜜で煮込んだ、きらきら光るリンゴのコンポートまで用意されていた。


 私たちアーベント家の家族にとっては、これ以上ないくらい、夢のようなご馳走だ。


 皆が席に着くと、さっそく今日の試験の話になった。


 私の帰りを待っていてくれた家族は、きっと、聞きたくてたまらなかったのだろう。


「それで、エリス。一体、どんな試験だったの?」

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