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偽物勇者は剣を折る  作者: 雨山木一
第二章

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ただの男は少女を知る②

 28

「あーしの故郷は伝説の勇者ルカス様の生まれ故郷と伝えられている町でした。大きな町で冬は雪がたくさん降るから聖都に負けないくらいに町全体が白くなってとっても綺麗で、春になると雪解けを待っていた巡礼者や、出稼ぎにきた職人さんや商人さんたちが大勢の人がやってきて、毎日が祭のように賑わうんです。ルカス様の生まれ故郷だから町の全員がルカス教徒で、あーしも敬虔な教徒の両親の下で育てられてきました」


「ちょっと待て、儂の生まれ故郷ということはお主ラディーラからきたのか!?」


「ラディーラは古い名前です。今はラフィドルってあーしたちは呼んでます」


「そう、か……。しかし、まだあるのか」


 ルカスは故郷の名が変わっていることに落胆の色を見せはしたが、それでもどこかほっとしたように細く息をはいた。


「でも、ラフィドルは今、存続の危機に晒されているんです」


「なに!? どういう意味だ?」


 しかし、続けて告げられた事実にルカスは目を剥く。


「ルカス様も知っているでしょうけど、ラフィドルはゼルベード山の麓に位置する町でした。遥か昔、神が降り立った最初の山と呼ばれたセルベードは魔力を宿す不思議な山で、勇者は山の魔力を身に宿して生まれてくると言われている特別な土地に座した山でしたが、ある日突然、抉れた大地を残して忽然と姿を消してしまったのです」


「あの山が消えるじゃと!? それは本当か、ノヴァよ」


 気色ばんだルカスの怒号に似た問いかけに、ノヴァは険しい顔で答えた。


「はい。私も記録を読んだだけなので当時の詳細なことまでは知りませんが、霊峰ゼルベード山は今から十年ほど前に突如消失してしまいました。当時、王都と聖都で合同の調査隊を結成し調査を行いましたが、強い残留魔力が検出された以外にはなにも判明せずに迷宮入りしてしまった事件です。確か……報告書には偶発的に発生した異常魔力集中が誘因となり、局所的に壊滅的な爆発が起こったと推測されると記録されていたと思います」


 その事件なら聞いたことがあった。当時、世間を震撼させる大事件が起こったと両親が深刻そうな顔で話していたのを覚えている。

 一部ではルカス様に倒されたはずの魔王が復活したのだと噂されたこともあった事件だ。


「その爆発に麓のラフィドルも巻き込まれちゃったんです。被害は甚大で、町も人も半分以上が一晩のうちに消えました。あーしの幼馴染も、近所のおじさんもおばさんも……父さんと母さんも」


 膝のうえに置いた手をきつく握りながらミラは言った。

 誰かに理不尽に奪われたのなら、相手を憎むことができる。しかし、怒りや憎しみを向つける先がないというのは、被害に遭った人たちにとって最も辛いことだったのではないだろうか。

 大切な人たちがいなくなった現実を黙々と受け入れるしかない。そんな無慈悲な日々がどれだけ人の心を蝕むのかは、経験のない僕では想像することすらできない。


「町の残った部分も高濃度の魔力が検出されたとかで、あーしたちは着の身着のまま王都が用意してくれた土地で新しく村を興すことになりました。けど、生き残った人たちのなかには辛い思い出に向き合えないと、他所に越していく人も多くて。結局残った人たちだけでの生活が始まります」


 当時の記憶が呼び起こされてミラの瞳がどんどん泥水のように濁っていく。


「それからは本当に大変でした。王都が与えてくれた土地は十数年前に廃村になって放置されていた場所で、村中草だらけで土は荒れてるし、雨露を凌ぐくらいはできる程度のボロ家がいくつか点在している程度で、とてもこれからここで生活をしていくイメージが湧くような場所じゃありませんでした」


 一度廃村になっている場所というのは、やはりそれなりの理由があったから潰れたのだ。土地がよければ作物はよく育つし、主要街道に面していれば自然と人や物の流通は途切れないはずだ。

 ミラたちが王都から与えられた土地というのは、そういった好条件とは正反対の土地だったということだろう。


「けど、皆前を向いて頑張ったんです。荒れ放題の土地を耕して作物を作って、家を補修して生活を立て直そうとしました。でも、全然上手くいかなくて、毎日食べ物にも困る生活になっちゃったんです。聖都や王都に何度も助けを求める書簡を借金して送ったんですけど、なにも返答はなくて……」


「ノヴァよ、なぜラフィドルへ支援してやらんのだ!」


「当時、私はまだ聖女ではなく、この件に関しては前任のセルテール様が災害支援の指揮を執っていたはずですが……。とても大きな事件で世間に与えた影響も大きくルカス教内も混乱していたそうですし、もしかしたら指示が上手く伝わらずにどこかで止まっていたのかもしれません」


「なにをやっとるんじゃ!」


 ルカスが自身の膝を強く打つ。ノヴァが申しわけなさそうに頭をさげた。


「……すまんの。ノヴァに当っても仕方がないことじゃ。ミラよ、続けておくれ」


「だから、あーしたちは自分たちの力だけでなんとかしなきゃって、今までにも増して頑張ったんです。でも、しばらくすると変な噂が立ち始めて……」


 それはある意味必然とも言えるかもしれない。


「消失事件の噂は瞬く間に近隣の村々から大陸中に広まっていきました。しかも、ゼルベード山跡地で調査に当っていた調査団員が異常魔力に侵されて原因不明の病に倒れたって噂まで一緒に」


「それは本当なのか?」


 ルカスの質問をノヴァが即座に否定する。


「いいえ。確かに当時から現在まで残留魔力があることは確認されていますが、団員が病魔に侵されたという事実はありませんし、当時から王都と聖都でそれらの風評被害に関する噂を否定する共同声明を出しています」


「なら、何故……」


「ただ高濃度の魔力に当てられて二日程度寝込んだ者がいるのは事実なんです。それに加えて、ラフィドルへ繋がる道を封鎖したり箝口令を敷いたのですが、それがかえってあらぬ疑いを生んでしまったようで、尾ひれはひれついた噂が広まってしまったんでしょう」


 その決定は混乱を避けるためや、被害拡大を防ぐために必要な措置としてとられたものであるだろう。しかし、山一つが忽然と消えてしまう異常事態に人々は得体の知れない恐怖を感じたはずだ。

 そうなると被害のあった地域への出入りを制限する行為は、人によっては不都合な事実を隠蔽しているのではと受け取られてしまう可能性がある。

 その結果が、風評被害という形となってミラたちを襲ったのだ。


「その後、噂自体はうやむになったんですけど、一度変なケチがついちゃったからか、巡礼者も商人も旅の人も誰も村に寄りつかなくなった。今、ラフィドルは人の記憶から完全に忘れ去られようとしてるんです」


「でも、勇者の生まれ故郷ならルカス教にとっては重要な土地だろ。商人や旅人は仕方がないにしても教徒まで避けるっていうのはおかしくないか」


 ルカス教にとってルカスの生まれ故郷はまさに聖地そのものであるはずだ。王都と聖都で噂を否定する声明を出しているのなら、巡礼者は噂よりも正規に出された発表の方を信じるはずで、新しいラフィドルを訪れるはずだが……。

 そんな疑問に答えてくれたのはノヴァだった。


「巡礼の旅では大陸各地にある聖地を巡ることになるわけだけど、ラフィドルは聖地に含まれていないんだ。ルカス教が聖地として認定しているのはゼルベード山の方なの」


「でも、その肝心の山はないんでしょう?」


「ええ。しかもさっきも言った通り、まだ残留魔力が検出されているから周辺への立ち入りは禁止されている。だから、巡礼者たちは立ち入れるギリギリまで接近して、そこで祈りを捧げているの。今までだったらそこで旅の疲れを癒したり、物資の調達をするためにラフィドルへ寄ってという流れができていたんだけど、現在のラフィドルがあるのは、次の巡礼地から正反対の方向にあるのよ。しかも、ゼルベード山跡地から半日ほど正規の道を進めば小さいながらも村があるから、わざわざ道を逸れてまでラフィドルへ足を運ぶ巡礼者はいないのよね」


 大地は繋がっているというのに、ラフィドルは絶海の孤島に置き去りにされてしまったのだ。


「でも、それだけ追い詰められていたのなら書簡じゃなくて直接聖都にきて窮地を訴えればよかったんじゃないか?」


 さっきノヴァは支援の手がどこかで止まっていた可能性があると言っていた。それが事実であるかどうか今は置いておくとして、書簡を送っても返事がないのならば直談判しに行くというのは、そう突飛な案ではないと思う

 そう思って質問したのだが、ミラは唇をきつく結んで黙り込んでしまった。


「レノン、ラフィドルから聖都まではかなり距離があるんだよ。行こうと思ってそう簡単に行ける距離じゃない。準備にだって時間はかかるし、費用だって馬鹿にならない。それにミラさんたちは書簡を送るために借金までしているだよ」


「あ……」


 諭すようなノヴァの口調に、僕は自分が無神経なことを聞いていたのだと悟った。

 少し話を聞いた程度の僕が思いつくことをラフィドルの人たちが思いつかなかったわけがない。

 僕はなにを知った顔で偉そうに言っているんだ。


「……ごめん」


 ミラはなにも答えてくれなかったが、代わりに一度だけ頷いてくれた。

 しかし、そうなると今度は別の疑問が浮上する。


「でも、それならミラさんはどうやってここまできたの?」


 ノヴァも僕と同じことが気になったのだろう。尋ねるとミラは少しためらった後にぽつりと零した。


「それは、途中の町で傭兵やってみたり、用心棒やってみたりして……」


「女の子が危ないじゃない。村の人たちだって心配するでしょう」


「それは大丈夫だと思います……」


「どうして?」


「ちょっとお出かけしてくるって置手紙してきたから……」


 ミラ以外の全員が同時に溜息をついた。それは余計に心配させるだけだろうに。

 僕らの反応に呆れられたと思ったのか、それとも共感してもらえなかったと焦りを感じたのか、ミラは必死な顔で弁明する。


「だって……あーしはどうしても取り戻したかったんだよ! 村の皆がいつもお腹を空かせてるのを見るのはもう嫌だったんだもん……。贅沢な思いなんて一生できなくてもいいから、皆と笑ってすごしたいって思ったんだよ……」


 最後はほとんど声にならない囁きだった。

 ミラの行動は向こう見ずすぎるが、突然故郷が消失して過酷な生活を強いられることになったことへの心境を考えると責める気持ちにはならない。

 ミラは危険を顧みずに村の未来のために聖都まで助けを求めにきたのだから。


「でも、そういった理由があるならプレンハウン教会にきて陳情してくれれば、直接私と話しができたはずだけど」


 ノヴァが不可解だと言いたげに呟く。

 ルカス教は弱者救済に関して国や所属を問わず保護する活動を起こっているのは広く知られた話だ。

 だからノヴァの言うように、下手に騒ぎを起こす必要はないはずだが……。


「三日前に聖都に着いてすぐに教会に行ったけど、ここでは年齢病の相手はしていないってとり合ってくれなくて……。だから、あーしが勇者だって証明できれば聖女様に直接話を聞いてもらえると思ったんです」


 そうしてミラから提示された答えに、僕は納得した。要はタイミングが悪かったのだ。

 普段であれば助けを求める声を無下することなどないだろうが、聖都に到着したのが三日前となると都全体が聖剣祭の準備で目も回るような忙しさだっただろうし、そんななかで自身を勇者だと名乗る子供がやってきても相手をしている余裕などはない。例年通りの年齢病の人間が早めにきたくらいに思われてしまったのだろう。


「こんなときに聞くのはあれだけど、今歳はいくつ?」


「え……十五です」


 確か聖剣の儀への参加資格である腕輪が送られてくるのは聖剣祭開催月に十七歳になる男女だけ。

 腕輪さえあればまだ話は違っただろうが、それすらないとなると、相手をしてもらえなくとも仕方がないと言える。


ここまでお読みなってくださりありがとうございます。

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カクヨムにも同作を投稿しております。

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