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「メイドなのに、お嬢さまよりバカでいいと思っているのか?」


 と発破をかけてみたところ、マジで殺意の眼差しを向けられた。


「殺しますよ?」


「あの、殺人被害者は勘弁してください」


 とりあえず水元の現実力を確認するため、俺が作成した模擬試験を受けさせる。

 その後、採点。驚異の点数だった。

 あまりに低すぎ。かつての麻倉のようだ。


「どうしたんだ、水元。お前、もしや不治の病で死ぬのか?」


「死にはしません。繰り返しますが、授業についていけなくなっただけです」


「この点数じゃ、学生としては死んだから大丈夫だ」


 麻倉がパッと立ち上がり、俺と水元を手招きする。


「分かりました。ここは有能なあるじである私に任せてください。さぁ2人とも、わたしに付いて来るのですよ」


 麻倉が案内したのは、半地下の部屋だった。天井付近の小窓から、弱々しい光が差し込んでいるのみ。


「ここはなんだ?」


「麻倉家の敵を監禁するための部屋でしたが、最近はさすがに使われていません」


 さらっと恐ろしい歴史を披露する麻倉だった。

 麻倉の指示で、水元はちゃぶ台と座布団×2を運び込んだ。さらに勉強に必要な道具一式。


「で、麻倉。このセッティングに意味はあるのか?」


「美園が模擬で及第点を取れるまで、外に出すことは許さないのです」


 水元がハッとして、


「そんなお嬢様──私はお嬢様から離れるわけにはいきません」


「でしたら及第点を取ることですね、そうしたら私のもとに戻ってこられます」


 俺は地味に感動した。麻倉は水元の将来のため、あえて厳しく接しているのだ。これが愛か。


「麻倉、俺は地味に感動しているぞ」


「戸山さん、派手に感動してくれても良いのですよ。あとスマホ貸してください」


「スマホ? ほら」


 麻倉は水元からもスマホを借りた。何がしたいんだ?


「では、頑張ってください」


 そう言うなり麻倉は廊下に出て、鉄扉をしめた。外から鍵がかけられる。


「……おーい、麻倉。俺もまだ室内にいるんだぞ」


 鉄扉には小窓があった。子犬くらいしか通れそうにないサイズで、食事を入れる用と思われる。その小窓が開き、麻倉が顔をのぞかせた。


「戸山さん。美園一人で及第点が取れるはずがありませんよ。戸山さんがみっちり教えてください。ちゃんと及第点が取れるまで、ここからは出しません。ズルはダメですよ」


「そんな無茶な」


「水と食べ物は、あとで運んできますからね。これも美園の将来を思ってのことです。私、優しい」


 そして足音が遠ざかっていった。麻倉の奴、本気らしい。

 常識に縛られないのが、麻倉彩葉なのだ。はた迷惑だな。


「戸山さま。私はいま、恐ろしいことを思い出しました」


「なんだよ、深刻そうだな水元。怖くなってきたんだが」


「こちらの監禁部屋ですが──お手洗いはあちらのみです」


 水元が指さした先は、部屋の隅っこ。便器がある。それだけ。壁というか、仕切りさえない。


 俺は鉄扉を叩き続けた。


「麻倉ぁぁぁ! ここから出せぇぇぇ!」


 だがその声は届かないのだった。



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