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フタバスズキリュウのコーナーを眺めていたら、麻倉が唐突に言った。
「のび太の恐竜ですよね、この子」
「そうだな」
麻倉はなんか満足そうだ。
「そうです、そうですグースケですよ」
「そうだな……そうだったか? それ違う奴だろ。グースケって、鳥人の子供キャラの名前じゃなかったか」
「戸山さん、細かいこと気にしていたらハゲますよ。ピー助でもグースケでもいいじゃないですか」
「ハゲません。ってか、知ってるんじゃないか──さてと、そろそろ閉館時間だし帰るか」
ふいに麻倉が俺を見て、拳をぐいっと持ち上げ、とても気持ちのよい表情をした。
「戸山さん。わたしは『新恐竜』は認めません」
「知らんがな」
★★★
時は過ぎる──ゴーゴーと。
そんなドラえもんの話があったように思う。
そして終末テスト、でなく学年末テスト前、最後の週末を迎えた。
麻倉邸にて泊まり込みの勉強会とあいなった。
出席者は、俺、麻倉、鴨下、そして水元。
水元が俺の耳元で囁く。
「戸山さま。本日この邸宅が全焼しましたら、主要登場人物が全員死亡してしまいますが、よろしいのですか?」
「俺にはお前の頭がよろしいのですか、だ。いったい何を言い出したんだ?」
「いえ。ところで小内礼は呼ばれなかったのですね。さすがに空気は読まれましたか」
「空気は読んだよ。とくにお前が発する空気を読んだ」
「私が発する空気を読まれましたか。どことなくそれは淫靡な響きですね、戸山さま」
「いえ全然」
麻倉の部屋でなく、大ホールに大きな机を移動。その円卓型のテーブルを囲むようにして、俺たちは席についた。
「戸山さん、まずはスピーチですスピーチ」
と無駄にはしゃぐ麻倉。
それとも、これから起きる地獄の勉強会への現実逃避か。そんなことしていたら、将来いい弁護士になれないぞ。
「スピーチか。えー、本日はお日柄もよく」
鴨下が割と真面目に怒りの表情。
「戸山、下らないギャグ飛ばしている時間はないわよ。麻倉さんの学力のことを考えて。麻倉さんがどれくらいおバカなのかを」
「下らないギャグ飛ばして、すいません」
「おバカで、すいません」
俺と麻倉はしゅんとした。
「じゃ気を取り直して。今回の学年末テストは、来年の選挙対決の前哨戦でもある。ただそれ以前に、麻倉の将来にとって大事なテストだ。それを言うならば、ここにいる俺たち全員にとっても。だから、この最後の週末を有意義な勉強会として、悔いのないテストとしよう」
我ながら良いスピーチだった。これなら鴨下も文句はあるまい。
そんな満足感を破るようにして、インターフォンが鳴った。
もちろんメイドの水元が来客者を確認しにいく。そしてモニターを確認するなり、無言で戻ってきた。その視線には殺意が満ちており、なぜか俺に向けられている。
「どうか、したのか?」
「戸山さまは、私のどこから発する空気を読まれたのですか?」
「えーと、わきとか?」
鴨下が参考書を開きながら、義務的なツッコミを入れてきた。
「それ変態っぽいわよ、俊哉。わきをクンクンしているみたいで」
「においを嗅いでいるんじゃなくて、空気を読んでるんだよ」
麻倉がぴしゃりと言う。
「美園のわきがは臭くありません!」
「違うわよ麻倉さん。全てのわきがは臭いことが前提にあるの」
水元が盛大な溜息をついた。心労がここまで伝わってくる。
「水元……一体、誰が来たんだ?」
「小内礼です」
「まて! 俺は呼んでないぞ、無実だ!」
麻倉が挙手して、天使のような微笑みを浮かべた。
「あ、小内さんですか? わたしが呼びましたよ。小内さんだけ仲間外れなんて、失礼じゃないですか~」
麻倉よ。
なぜお前は、水元のわきから発される空気を読まんのだ?
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