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映画から得た天啓による、作戦B。
(ちなみに作戦Aは、もともとの計画。つまり麻倉が生徒会長になるほう。それはBが失敗した場合だ)
この作戦Bの肝は、小内礼だ。
さっそく小内に作戦の概要を説明。
協力を要請したら、まぁ予想どおり拒否してきた。
「もう一度、あいつらとつるむなんて御免だから」
「つるむんじゃなくてさ。潜入捜査的な」
「くっだらない」
「くっだらなくはない。あのな、お前だって朝水の奴をどうにかしたいだろ。それに山白たちもだ。あいつらは勉強をほとんどせずに、良い点数を取っている。お前は追試のために死に物狂いで勉強したのに。癪だろ」
そもそも小内が朝水の不正行為に加わらなかったのは、正義感からとかではない。
単純に朝水に屈服したくなかったからだろう。
小内は顔をしかめた。
内心の葛藤が感じられる。
このまま朝水たちが思い通りにいくのも癪だし、かといって演技でもまた山白たちとつるむのも癪。
癪と癪で天秤にかけた小内は、ようやく答えを出した。
「やる」
「え、なに?」
「やるって言ったの。朝水が不正している証拠をつかむって。ったく、なんで私がこんなことを」
「やる気になってくれて良かった。こっちは水元がサポートするからな」
忍者の末裔とか言っていたし、この手の諜報活動めいたことは得意だろ。
まぁ向こうには水元妹がいることは、懸念材料だが。
ちなみに、この話し合いは放課後、昇降口で行われた。
まわりが騒がしいほうが、盗み聞きされずに済むし。
その後、俺は図書室に行く。
そこでは鴨下のスパルタ教育のもと、麻倉が死にながら勉強していた。
厳密には死んだような目で、だが。
「鴨下。あまり詰め込みすぎると死ぬんじゃないか」
「死なないわよ。これくらいやらないと、学年順位一桁はムリでしょ」
誰が一桁まで持っていけと言った。
鴨下が少し目を話した隙に、麻倉が口パクで訴えてきた。
「助けてくださーい」
仕方ないな。あまり根をつめてすぎても体に毒だし。
俺はノートを取り上げ、あるページを指さした。
「鴨下。お前のこの問題の解き方、おかしくないか? 自己流は結構だが、教えるときはまず基本からだろ」
「え? なんのことよ? その解法が標準でしょ」
「俺はそうは思わないがなぁ」
「いいわよ、そこまで言うなら教師に聞いてくるから。ちょっと待ってなさい」
鴨下がノートを持って図書室を出ていった。
「よし、いまのうちだ。麻倉、荷物を片付けろ。脱出するぞ」
鴨下が向かった職員室とは反対方向へ、麻倉とともに逃走。
校舎を出、追手をまいたと確信できたところで徒歩に切り替える。
「じゃ、ここで」
「待ってくださいよ戸山さん。せっかくですし、どこかで遊んでいきましょう」
麻倉もたまには羽目を外したいか。よし、第一家庭教師として付き合ってやろう。
「まぁいいけど。どこに行くんだ?」
「そうですね~。どこでもいいですけど、そうですデートスポットにいきましょう戸山さん」
「友達同士でデートスポットに行っても地獄なだけだろ。まわりはカップルだけだし、それに──」
まてよ。
俺と麻倉は男女だ。傍目にはカップルに見える、か?
すると俺の考えを読んだかのように、麻倉が言うわけだ。
「デートですよ、戸山さん。これは紛れもなきデートです!」
どこまで本気で言ってるんだか。




