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3学期は過ぎるのが早い。
あっという間に、学年末テストの20日前。
俺はやるべきことに気づいた。
朝水陽介の不正を自力で暴けば、麻倉が生徒会長になる必要もないのでは。
そのことを水元に話したところ、
「今更な話ですね、戸山さま。私はすでに探りをいれていましたよ」
と呆れられた。
「左様ですか。で、不正の方法は分かったか?」
「複数の生徒が良い点数を取るのですから、それはシンプルでしょう」
「事前に、テストの模範解答用紙を入手したのか?」
「いえ、事前入手したのは問題用紙でしょう。それを使った上で、優秀なものに家庭教師させれば良いのですよ」
「うーん、分からないな。ただ答えを教えて、記憶させるんじゃダメなのか」
「ダメですね。考えてもみてください。ただでさえ記憶力の低い方々ですよ。解答の羅列を覚えられるはずがありませんね」
「なるほど」
「しかし、教えることで記憶に繋がりができれば、テストで正答を出す可能性も高まります。出る問題は分かっているのですから、それだけを勉強すれば良いのですし」
「効率的だよな。アイツらが好みそうだ」
となると、問題用紙をどうやって盗み出すのか。
それを解き明かせばいいわけだな。
ところが水元は言うわけだ。
「そこは突きたくないですね。仮に教師が買収されていた場合、公けにされてダメージがあるのはこの学園ですので」
理事長は麻倉パパだしな。
「それだと、不正追及なんてできないぞ」
「いえ、問題用紙の入手ルートは明らかにせず、ただ問題用紙を所有しているところを押さえればいいのです。そうすれば入手ルートは、アヤフヤにできますので」
「うーん。具体的には、どうするんだ?」
すると水元はムッとした様子で、
「戸山さま。それはお嬢様の第一家庭教師である、あなたが考えることでは?」
さては、このメイドも策は思いついていないな。
まぁ、俺もひとのことは言えないが。
その夜──
やることもないので《フェイク》という洋画を見ていて、ハッとした。
これだ。
翌日。
「水元。《フェイク》という映画を観ていて、思いついたんだが」
「映画の話をするために、私を呼び出したのですか?」
「まぁ聞けって。これはジョニー・デップ演じる刑事が、マフィアに潜入捜査する話で──もう分かるだろ」
「誰かを潜入させるわけですか。そして朝水陽介が問題用紙を出したところを取り押さえると」
「または隠し撮りする。テスト前に問題用紙を持っている朝水陽介を撮影できれば、言い逃れはできまい」
「ですが、どなたが潜入するのですか? 山白や有本に仲間として迎えられる必要があり、かつ朝水陽介に利用価値を認めさせねばなりません。そのような人材に心当たりがおありで?」
「一人いるだろ。小内礼が」
「彼らは仲たがいしたのでは?」
「だから仲直りしてもらおう」




