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もらいもののバームクーヘンがあったので、お茶と一緒に出した。
「粗茶だが、どうぞ」
「いただきます!」
さっそくバームクーヘンに食いつく麻倉。
ちなみに邪魔な由香は、自分の部屋に帰らせた。
水元が緑茶をひとくち飲んでから、
「対処する必要があります。そうですね、お嬢さま?」
麻倉は『なんの話ですか?』という顔をした。
さらに念を押すかのように、
「なんの話ですか?」
「朝水陽介です。戸山さまのお話では、大掛かりな不正行為に手を染めている様子。学生生活とはフェアであるべきです。それを破る朝水陽介に粛清を」
「そうですかね……」
ここまで深入りしてしまった以上、おれも引き返せない。
なにより麻倉の家庭教師だしな。
というわけで聞いておこう。
「朝水家との因縁について、聞かせてもらえるか?」
「話せば長い、モグモグ、のです」
食べながら話す横着な麻倉。
「とりあえず、モグモグタイムをやめろ」
「わたし、カーリング好きですよ」
「誰もそんなことは聞いていない」
「パパは、フィクサーでして」
唐突に答える麻倉。
しかし、いまいちわからん。
「フィクサーだって? 箔白学園の理事長だろ?」
「それは片手間の仕事ですよ」
「はぁ?」
水元が説明を加える。
「考えてみてください、戸山さま。政治家の力は政権交代で揺るぎますが、財界の重鎮は違います。経済界に盤石な地位がある限り、その影響力は計り知れないのです」
つまり、それがフィクサーというわけか。
「その中でも麻倉家と朝水家は、頭ひとつ抜き出ております。敵対関係に至るのは、自然なことではありませんか?」
つまり、フィクサー同士の喧嘩かい。
「仲良くしてもいいんじゃないの」
麻倉が力強くうなずいた。
「まったくです」
「そこは他人事だな」
「わたし、将来は人権派弁護士ですし」
「……」
まてよ。麻倉家がそれほどの影響を持っているのならば。
それは、一代で築いたものではないのでは?
「麻倉家って──」
おれの疑問に気づいたようで、水元が言う。
「かつては華族でした」
つまり旧華族というやつ?
「華族って皆さん没落したんじゃなかったか?」
「貨幣経済の荒波を乗り越えた麻倉家は、戦後、より大きな力を得るに至ったのですよ」
「あのさ、麻倉彩葉は家業を継がないで大丈夫なのか? 弁護士になるとか言ってるけど」
「旦那様はご存じありません。私は報告義務を怠っておりますので」
堂々と言うね。
メイドの鑑。マジで。
「國重にも?」
「ええ」
「知ったら、怒るんじゃないか?」
「問題ありません。私が対処します」
「以前、國重にボコられてなかったか?」
水元の視線が鋭くなる。
「次は、異なる結果となるでしょう」
國重とのリベンジマッチ、する気満々か。
一方、バームクーヘンを食べ終えた麻倉が、手をぱちぱちした。
つまり、手についたカスを払ったわけです。
「おい、手を洗ってこい」
「ここはわたしたち新世代で、話をつけにいきましょう」
「まて、なんの話だ?」
「朝水くんとお話しするのですよ。カンニングはいけませんよ、と注意するのです」
そう宣言すると、すっくと立ちあがる麻倉。
「麻倉……どこへ行くつもりだ?」
「むろん朝水家ですっ!」
誰か麻倉彩葉をとめろ。




