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年が明けまして──
麻倉がようやく帰国。
寂しかったとは認めたくないが、これが寂しかったような気がするのだから。
麻倉家に行こうかと思っていたら、向こうから訪れた。
「戸山さん、無事に帰ってきましたよ!」
ハグしてきた麻倉。
俺は麻倉の体温を感じながら、背中を叩いた。
「……そうだなカルテルに捕まらなくて良かったな」
麻倉は離れて紙袋を渡してきた。
「メキシコのお土産です」
なんか呪術を始められそうな人形が入っていた。
うわぁ。家にあっても迷惑だけど捨てるのも呪われそうでできない、そのタイプのアレだ。
「おう、ありがとうな……まぁ入れよ」
玄関でやり取りしていたので。
麻倉が「お邪魔します」と上がると、当たり前のように水元も続いた。
「お久しぶりですね、戸山さま」
「ああ」
「ところで、雌豚はいずこに?」
「いや誰?」
「小内さまですが。なぜお分かりになりませんか?」
「お分かりになりませんよ」
そんな小内は、無事に追試を突破した。
まぁ俺が教えたのだから当然だ。
しかし小内はとくに感謝も示さなかったが。別に驚かないけどな。
これで小内とは縁を切りたいものだが、一点、そうはいかない要素がある。
あの日──
小内は、自分と有本の会話を盗み聞かせた。
その会話内容には、小内が誘導するようにして1人の男子生徒の名が出た。
朝水陽介。
2学期の期末テストで1位を取った奴だが。
そんな朝水が、有本、山白、西成の家庭教師を務めたようだ。
しかも、そこには不正が見え隠れしている。
だがどんな不正がありえる?
有本は不正の内容までは口を滑らせなかった。そして小内も、詳細は知らないようだ。
そもそも小内礼がハブられた原因が、これらしい。
朝水は、有本たちに良い点数を取らせるため、あることを要求した。
簡単にいえば、服従。
有本たちはそれを受け入れた。
が、最もプライドの高い小内は受け入れなかった。
または──不正することを嫌ったのか?
麻倉との小テスト対決では、カンニングした女だがな。
それで懲りたのかもしれない。
人は変わるものだ。
──水元にとっては、雌豚同然らしいが。
ふと俺は気づいた。
「水元は、朝水陽介のことを知ってるよな?」
水元は不意打ちを食らったという様子。
「なぜでしょうか?」
「前に食堂で睨んでいただろ?」
あのときは朝水陽介とは知らなかったが。
少なくとも、俺は。
しかし睨んでいたからには、水元は知っていたのだろう。
「麗佳がお世話になっているのが、朝水家ですので」
なんと。
麗佳とは、水元の妹のことだ。
しかし、水元は妹が仕えているのは、麻倉の敵だと言っていなかったか?
すると朝水陽介は、麻倉の敵。
敵……敵……
麻倉が誰かと敵対しているのが想像できない。
「あ、麻倉さんだ!」
妹の由香が階段を駆け下りてきて、麻倉を発見。
「由香さん、御無沙汰ですねっ!」
なぜか抱き合う2人。
あんなに仲良かったっけ?
水元は冷ややかに由香を眺めながら、俺に聞いた。
「妹さんでしょうか?」
「まあね」
「育ちが悪いのでしょうね」
……失礼だな。




