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嫌なことが待ち構えていると、あっという間に来るもので。
気づけば週末。
土曜日曜は、朝から小内と顔を突き合わせることになる。
さすがに泊まり込みイベントは発生しないが(そんなことやったらストレスで死ぬ俺が)。
ここまでも酷かった。
補習が終わってからだけの時間でも、小内に教えること苦痛この上なし。
麻倉はいい子だった。実にいい子だった。
いつになったらメキシコから帰ってくるんだろ。
何はともあれ、小内とは朝から図書館で落ち合う。
問題は、行ってから知ったんだけど、図書館が休館中ということか。
「こんなときに改築せんでもなぁ」
小内も5分遅れで到着。
どうでもいいが、小内は時間を守るという能力が欠けている。
チラッと休館中の立て札を見るなり、小内は舌打ちした。
「ホームページには何も書いてなかったのに」
「仕方ない、ファミレスにでも行くか」
「いいよ私の家、行こ」
何が『いいよ』だか知らないが、俺はよくない。
「小内の家に──かぁ?」
小内は不機嫌そうに俺を見返した。
「どうして嫌そうなの?」
「別に」
「気にしなくていいよ。今日、親いないから」
いや、逆に気になるが。
フツー、恋人でもない男を、家族のいない家に招くかね。
この女、俺を異性として見ていないな。
ここが難しいところで。
俺は小内など好きではないが、それでも異性として見ないわけにはいかない。
そんな『女子』たる小内の家に行くというのは──。
しかし麻倉家は問題なかったわけだし。
まぁ麻倉彩葉は、麻倉彩葉だからなぁ。
「何を考えこんでるの? 時間が無駄なんだけど。早くしてくれる?」
この嫌味な口調を見よ。
いや、聞けか。
改めて言わせてもらった。
「俺はお前が嫌いだなぁ、とつくづく思う」
「私も嫌いだけど、家庭教師としては手抜きしないでよね」
手抜きが出来ないのが、俺のダメなところだ。
というわけで小内家に移動。
つまり、小内礼の自室に招かれることになった。
一歩踏み込むなり、ハッとした。
「麻倉の部屋に比べて、甘い香りがする。なぜだ」
「知らないけど」
と、不機嫌そうな小内。
まさか女子力の違いがこんなところに出るのだろうか? 頑張れ麻倉、まだ巻き返せるぞ。
それからは勉強タイム。
しばらくして、俺はあることに気づいた。
「茶も出さないのか、家庭教師に」
ノートから顔を上げて、小内が苛立たしそうに言う。
「自分でもってくれば?」
癪だったので、実行させてもらった。
1階のリビングに降りて、冷蔵庫からお茶を取り出す。
なんで俺はよその家の冷蔵庫を漁ってんだろ。
ウンザリしつつ部屋に戻ったら、小内がスマホを睨んでいた。
「勉強をサボるな」
「メッセージ見てるの。いまから亜美が来るってさ」
「どこに?」
「ここに」
「……来さすなよ。追い返せ」
小内は小内で、ウンザリした様子。
「今はそれができない。ちょっと事情があるから」
事情ねぇ。
ハブられている事情か。




