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何か忘れているなぁ、と思っていた。
二学期の期末テストの前に、何かあるはずだぞ、と。
でかいイベントが。
RPGでいうところのボス戦が。
「何だっけ?」
そう聞いてみると、麻倉は即答した。
「文化祭のことですか?」
「あー、それだ。畜生」
「まってください。どうしてテンション下がるんですか、戸山さん。そこはテンション上がるところですよ」
「お前、友達少ないくせに文化祭が楽しみなのか? 変わってるなぁ」
麻倉に9999のダメージ。
「うっ……友達の数は関係ないと思いますよ」
「だるいから、文化祭の時間はショートカットしよう」
「え、そんな特殊スキルがあるんですか?」
「あるわけがないだろ。あったらいいなぁ」
時は流れ、文化祭の熱も高まっていく。
クラスの出し物は、お化け屋敷となった。
そして文化祭の準備のせいで、放課後も潰れ始める。
というか文化祭って、誰得だよ。一部のリア充のためのイベントだろ。学生なんだから勉強だけに時間を使っていればいいんだよ。
というわけで文化祭が始まった。
俺の役割は、ゾンビ侍だ。
ゾンビのメイクして、侍コスチュームを着て、偽物の日本刀を腰に差す。
だるい。
しかもシフトが細かいので、自由時間もこの衣装で歩くハメになった。
なんの嫌がらせだ。
で、自由時間。
校内をさ迷っていたら、ばったり麻倉と出会った。
「あ、戸山さんが落ち武者の幽霊の格好してます」
「落ち武者の幽霊じゃない。ゾンビ侍だ」
「江戸時代にもアンブ〇ラ社があったんですねぇ」
「あのな、別にアンブ〇ラ社が絡まなくてもゾンビにはなるからな」
「文化祭、一緒に回ります?」
「構わんよ」
その後、模擬店でバカ高いチョコバナナを購入。
「奢ってやるよ麻倉」
「え、ケチで有名な戸山さんが?」
「俺はいつからケチキャラになったんだ。しかし、こんなのに400円も取るとかぼったくりだろ」
「戸山さん、お店の前で毒づかないでくださいよ。チョコバナナの人が睨んでますよ」
チョコバナナを齧りながら、さらに文化祭を回る。
唐突に麻倉が言った。
「いま思ったんですけど、これって文化祭デートではないですか?」
「んなわけがないだろ。あ、水元だ」
人込みの向こうで、水元が歩いていた。
隣には、ゆるふわした私服の女子がいる。
こちらには気づいていないようだ。
「水元にも、友達がいたんだな」
麻倉以外と交流しているとは思わなかった。
「本当ですね。美園と一緒にいた女の子、可愛らしかったですねぇ。年下ですかね?」
「もしかして文化祭デートかな?」
「可能性は大ありです」
俺は麻倉と目をあわせた。
「尾行するか?」
「もちろんです。メイドの恋路を見守るのが、主の役割というものですから」




