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33/63

33(追放した側の視点あり)

 



 有本亜美はムシャクシャしていた。


 赤点補習は終わったが、モデルのバイトは再開できていないからだ。


 赤点をとった罰則だ。


 腹立たしいが、生徒がバイトできるかは学園側が決めること。受け入れるしかない。


 そして期末テストでまた赤点を取れば、この状況がずっと続くことになる。


 苛立たしい。

 これも全て、戸山のせいだ。


 そうして亜美が廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。


「有本亜美さん」


「え?」


 振り返る。

 見たこともない男子生徒が立っていた。


「あんた、誰だっけ?」


「僕は、朝水あさみず陽介ようすけです。お隣のクラスですよ」


 朝水は『地味』を絵に描いたような男だった。

 これという特徴があまりにない。


「で、あんたがアタシに何の用?」


(モブキャラのような男子が、アタシに話かけるなんて──身の程知らずもいいとこ。ってかウザすぎ)


「確認したいのですよ。西成成人、山白大輔、小内礼。そしてあなた有本亜美。この4人が1年生のトップに君臨している。そうでしょう?」


「まあね」


「この学年だけではなく、上級生にも影響力がありますよね?」


「分かり切ったこと、いちいち言わないでくれる?」


「すいません──しかし、それは揺るぎのない地位でもない。そうでしょう? 赤点が続き、部活やバイトが制限されていったら、4人の影響力も衰えるでしょ?」


 亜美は舌打ちした。悔しいが、朝水の言うとおりだ。


「だから、何?」


「あなた達4人が赤点を回避できるよう、僕が手を貸しますよ」


「アタシたちの家庭教師でもしようっていうの? いらないんだけど、そんなもの」


 実際は必要だが、亜美は認めたくなかった。


「ただ赤点を回避するだけでは、ありませんよ。学年順位50位以内を、お約束します」


「何が50位以内だか。あのさ、アタシたち猛勉強するなんて御免だからね」


「猛勉強? いえ、いえ──そもそも勉強などする必要はありませんよ」


「はぁ?」


「なぜなら僕には、『裏ワザ』があるからです。それをあなた達に伝授しようというんですよ」


『裏ワザ』。


 そこからは不正の臭いがする。


「……で、アタシ達を助ける条件はなんなの? アタシ達の仲間に入りたいってわけ?」


 かつての戸山俊哉のように。

 と、亜美は内心で付け足した。


「そうですね……いえ、仲間というのは少し違いますね」


「違うの?」


「よく漫画とかで出てきますよね? 自分は表舞台には出てこないで、裏から色々な指示を出して操る人物が。つまり、黒幕というやつですか」


「黒幕? あんた何言ってるの?」


「だから僕が欲しいのは、それですよ。1年生のトップが、あなた達4人だ。そんなあなた達に陰から命令できるのなら、それは黒幕でしょう? 僕が、黒幕だ」


「あんたさ、あたし達に命令なんかできると思ってるの? 陰キャの分際でさ」


 侮辱されても、朝水の表情は変わらなかった。


「今回はご提案しただけです。もちろん断ることもできますよ。ただすぐに結論は出さないほうがいいでしょう。山白くんたちと相談してから決めたほうがいい。

 ただ忘れないでください。僕の手助けがなければ、あなた達は自力で赤点を回避せねばならないのだということを。猛勉強しても、無理かもしれませんよ」


 ここに山白がいたら、こんな奴ぶん殴ってもらうのに。


「あんたさ、何が目的なの?」


「目的? まぁ簡単に言いますと、この学年には潰したい奴がいるんですよ」


「潰したい奴? 何それ?」


 朝水は淡々と言う。


「そいつは、いわばラスボスなんです。とんでもない権力を有している。だから潰すためには、僕も戦力を整えなきゃならないんですよ」


「ラスボス? とんでもない権力を有している? そんな生徒、1年生にいた?」


 いるはずがない。

 仮にそこまで権力のある生徒がいるなら、亜美たちの仲間に加わっているはずだからだ。


「無理もありません。一般的には、彼女の権力は知られていませんので」


『彼女』と言うからには、女子生徒なのだろう。


「アタシも知ってる子?」


「どうでしょうね。そいつはカーストは低いので、有本さんの眼中にないでしょうし。あ、ですが小内さんはご存じかな」


「礼が?」


「とにかく──先ほどの申し出、相談してみてくださいね」


 そして、朝水陽介は歩き去った。


 亜美は呟いた。


「──キモい奴」




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