33(追放した側の視点あり)
有本亜美はムシャクシャしていた。
赤点補習は終わったが、モデルのバイトは再開できていないからだ。
赤点をとった罰則だ。
腹立たしいが、生徒がバイトできるかは学園側が決めること。受け入れるしかない。
そして期末テストでまた赤点を取れば、この状況がずっと続くことになる。
苛立たしい。
これも全て、戸山のせいだ。
そうして亜美が廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。
「有本亜美さん」
「え?」
振り返る。
見たこともない男子生徒が立っていた。
「あんた、誰だっけ?」
「僕は、朝水陽介です。お隣のクラスですよ」
朝水は『地味』を絵に描いたような男だった。
これという特徴があまりにない。
「で、あんたがアタシに何の用?」
(モブキャラのような男子が、アタシに話かけるなんて──身の程知らずもいいとこ。ってかウザすぎ)
「確認したいのですよ。西成成人、山白大輔、小内礼。そしてあなた有本亜美。この4人が1年生のトップに君臨している。そうでしょう?」
「まあね」
「この学年だけではなく、上級生にも影響力がありますよね?」
「分かり切ったこと、いちいち言わないでくれる?」
「すいません──しかし、それは揺るぎのない地位でもない。そうでしょう? 赤点が続き、部活やバイトが制限されていったら、4人の影響力も衰えるでしょ?」
亜美は舌打ちした。悔しいが、朝水の言うとおりだ。
「だから、何?」
「あなた達4人が赤点を回避できるよう、僕が手を貸しますよ」
「アタシたちの家庭教師でもしようっていうの? いらないんだけど、そんなもの」
実際は必要だが、亜美は認めたくなかった。
「ただ赤点を回避するだけでは、ありませんよ。学年順位50位以内を、お約束します」
「何が50位以内だか。あのさ、アタシたち猛勉強するなんて御免だからね」
「猛勉強? いえ、いえ──そもそも勉強などする必要はありませんよ」
「はぁ?」
「なぜなら僕には、『裏ワザ』があるからです。それをあなた達に伝授しようというんですよ」
『裏ワザ』。
そこからは不正の臭いがする。
「……で、アタシ達を助ける条件はなんなの? アタシ達の仲間に入りたいってわけ?」
かつての戸山俊哉のように。
と、亜美は内心で付け足した。
「そうですね……いえ、仲間というのは少し違いますね」
「違うの?」
「よく漫画とかで出てきますよね? 自分は表舞台には出てこないで、裏から色々な指示を出して操る人物が。つまり、黒幕というやつですか」
「黒幕? あんた何言ってるの?」
「だから僕が欲しいのは、それですよ。1年生のトップが、あなた達4人だ。そんなあなた達に陰から命令できるのなら、それは黒幕でしょう? 僕が、黒幕だ」
「あんたさ、あたし達に命令なんかできると思ってるの? 陰キャの分際でさ」
侮辱されても、朝水の表情は変わらなかった。
「今回はご提案しただけです。もちろん断ることもできますよ。ただすぐに結論は出さないほうがいいでしょう。山白くんたちと相談してから決めたほうがいい。
ただ忘れないでください。僕の手助けがなければ、あなた達は自力で赤点を回避せねばならないのだということを。猛勉強しても、無理かもしれませんよ」
ここに山白がいたら、こんな奴ぶん殴ってもらうのに。
「あんたさ、何が目的なの?」
「目的? まぁ簡単に言いますと、この学年には潰したい奴がいるんですよ」
「潰したい奴? 何それ?」
朝水は淡々と言う。
「そいつは、いわばラスボスなんです。とんでもない権力を有している。だから潰すためには、僕も戦力を整えなきゃならないんですよ」
「ラスボス? とんでもない権力を有している? そんな生徒、1年生にいた?」
いるはずがない。
仮にそこまで権力のある生徒がいるなら、亜美たちの仲間に加わっているはずだからだ。
「無理もありません。一般的には、彼女の権力は知られていませんので」
『彼女』と言うからには、女子生徒なのだろう。
「アタシも知ってる子?」
「どうでしょうね。そいつはカーストは低いので、有本さんの眼中にないでしょうし。あ、ですが小内さんはご存じかな」
「礼が?」
「とにかく──先ほどの申し出、相談してみてくださいね」
そして、朝水陽介は歩き去った。
亜美は呟いた。
「──キモい奴」
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