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69.



 馬車はさらに森の奥深くへと進んでいく。

 周囲の景色は、幻想的と言うにはあまりにもおどろおどろしいものへと変わっていた。


 巨木はねじくれ、毒々しい色の苔がびっしりと張り付いている。

 空気中を漂う瘴気はさらに濃度を増し、結界の外では紫色の靄がかかっているほどだ。

 鼻を突くような刺激臭が、結界の外に満ちているのが視覚的に伝わってくる。


『おい、大丈夫なのか? この瘴気、尋常ではないぞ。普通の生物なら、吸い込んだ瞬間に肺が爛れて死ぬレベルじゃ』


 カーミラが俺の肩の上で、ブルブルと震えている。

 不死者である吸血鬼がビビるほどの猛毒ってわけだ。


「大丈夫だって言ってるだろ。俺の結界は完璧だ」


 俺は手綱を握りながら、平然と答える。いつの間にか御者は俺の役目になっていた。

 実際、結界の内部は快適そのものだ。フレアなんて、さっきからお花畑にいるような顔で外を眺めている。


「わぁ~、見てリク! あのキノコ、紫色で水玉模様だよ! かわいいね~」


 フレアは窓枠に身を乗り出し、無邪気に目を輝かせている。

 毒キノコにしか見えないが、彼女にかかれば可愛いオブジェクトらしい。


『おぬしの幼馴染、肝が据わりすぎではないかの?』


「まあ、フレアだからな」


 俺は苦笑する。彼女のこの無垢な明るさに、俺はいつも救われているのだ。


「そろそろですよぉ~」


 荷台でくつろいでいたエバーグリーンが、のんびりとした声を上げた。


「そろそろって、何がだ?」


「『番人さん』のエリアです~。妖精郷の中枢に入るには、ここを通らないといけないんですけどぉ、ちょっと厄介なんですよねぇ~」


 番人?

 その言葉に、カーミラの毛が逆立った。


『ひぃっ! まさか、伝説の……!? おいリクト! 引き返せ! あれはヤバイ! あれはアカンやつじゃ!』


「うるさいな。何が来ても結界で」


 俺が言いかけた、その時だった。


 ズズズズズズズッ!


 突如、大地が激しく揺れ始めた。地震か!?

 いや、違う。

 進行方向の地面が盛り上がり、周囲の巨木がまるで生き物のように動き出したのだ。


「な、なんだ」


 めきめきと音を立てて、木々が絡み合い、融合していく。

 やがて俺たちの目の前に現れたのは、見上げるような超巨大な人型の怪物だった。

 全身が硬そうな樹皮と筋肉のような蔦で構成された、木のゴーレムだ。


「でかっ」


 俺は思わず首を上に向ける。十メートル、いや、もっとあるか。


『で、出たぁぁぁぁっ! 森の守護者ガーディアン! 妖精郷の防衛機構そのものじゃ! 物理攻撃は無効、生半可な魔法も通じぬ、動く要塞じゃよ!』


 なんでお前が知ってるんだ。

 昔会ったことでもあるんだろうか。


「あちゃー、出てきちゃいましたね~。この子、お話通じないんですよねぇ~」


 カーミラが絶叫し、エバーグリーンが困ったように頬に手を当てる。

 なるほど、こいつが番人ってわけか。


「ゴォォォォォォォォォォォッ!!」


 ガーディアンが、腹の底に響くような咆哮を上げた。

 大気を震わす音圧が、ビリビリと肌を叩く。

 そして、丸太よりも太い剛腕を振り上げ、俺たちの馬車を目掛けて振り下ろしてくる。


「危ないっ! リク!」


『避けろぉぉぉぉっ! 潰されるぞぉぉぉっ!』


 フレアが叫び、カーミラが警告する。

 だが、俺は動かない。

 避ける必要なんて、ないからな。


 俺は静かに印を結ぶ。


「【ボックス】」


 俺の言葉と同時に、ガーディアンの周囲の空間が歪んだ。

 その巨体をすっぽりと包み込むように、透明な直方体の結界が出現する。


 ドォォォォンッ!!


 振り下ろされた剛腕が、結界の内壁に激突した。

 凄まじい衝撃音が響き渡るが、結界にはヒビ一つ入らない。


「ゴガァッ!?」


 自らの攻撃が阻まれ、ガーディアンが困惑したように動きを止めた。

 悪いな。俺の結界は、中からの攻撃にも強いんだよ。


「さて、と。ここで暴れられても迷惑だし、ちょっと大人しくしててもらうか」


 俺はさらに術式を展開する。


「【プレス】」


 俺が指を鳴らすと同時に、「箱」の結界が急速に縮小を始めた。


 メリメリメリメリッ! バキバキバキッ!


「ゴ、ゴォォォォッ!?」


 ガーディアンの巨体が、目に見えない力によって四方八方から圧縮されていく。

 強固な樹皮が悲鳴を上げ、巨体が無理やり小さな空間へと押し込められていく。


 数秒後。


 そこには、元の大きさの十分の一ほどに圧縮され、サイコロステーキのようになって身動きが取れなくなった、元・巨大ガーディアンの姿があった。


「よし。これで通れるな」


 殺してはいない。ただ、物理的に動けなくしただけだ。

 俺は馬車を再び進め始める。


「わぁ~、すごいねリク! あんなに大きかったのに、積み木みたいに小さくなっちゃった!」


 フレアが無邪気に手をパチパチと叩いて喜んでいる。

 彼女には、この光景もマジックショーか何かに見えているのだろうか。


『伝説の守護者が、空き缶のように』


 カーミラは口をあんぐりと開けたまま、顎が外れそうなほど驚愕していた。

 今にも魂が抜け出ていきそうな顔だ。


「さすがリクトさん♡ これなら妖精王様も納得の実力ですねぇ~」


 エバーグリーンだけが、いつも通りのニコニコ顔で頷いていた。


【おしらせ】

※1/30(金)


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フレアは主人公の嫁さん定期
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