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公爵家の男装令嬢は、  作者: とりふく朗
第二章 旅立ち編

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勝手に調べたら?

 いつもの如く、本を片手に真夜中の図書館へ。

 何故か私が図書館へ着くやいなや、その気配を感知してか、お爺ちゃんも図書館に転移してくる。

 それから、お爺ちゃんと他愛の無い会話をしながら本を選んで別れるというのが、最近のお決まりパターンだ。

 何故いつも来るんだと聞いた時、「年寄りの話し相手になってくれんかのぅ」とにこにこ笑いながら答えてきたが、その真意は不明。

 大方、私の危険性でも見定めようって算段じゃないかな?

 まぁ今のところ、特にこれといった害もないので気に留めていないけれど。

 私は本を返す為にカウンターへとてくてく歩きながら、「そろそろ来る頃かな」と小さく吐息を零した。

 そしてその直後、予想を裏切ることなく背後から響く穏やかな声色。


「昨夜は来んかったから、寂しかったわい」


 やはり来たか、お爺ちゃん。

 それに、……やれやれ。今日は随分と人が多い。

 私は小さく苦笑いを浮かべながら振り返ると、お爺ちゃんの背後に数瞬遅れて転移してきた彼らを一瞥。

 それからお爺さんへと視線を戻し、事も無げに言葉を返した。

 

「……ふふ。ちょっと、一狩り行っていたものでね?」


 楽しかったなぁ。

 昨日はミノタウロスの群れだったんだけど、牛肉食べ放題って素晴らしいよね。……え、違う?


「ふぉっふぉっふぉ。そうかそうか。まだ子供だというのに、働き者じゃのぅ」

「てへへ」


 私に近寄り、頭を撫でてくるお爺ちゃん。

 褒められちった。


「カッカッカ!!まさかの無反応!!俺達なんざ眼中にねぇってか?」


 先程お爺ちゃんの後ろにいた橙赤色の髪の男が、豪快に笑い声を上げた。

 図書館ではお静かにね?


「すまないね。ママとパパから、知らない人には易々と話しかけてはいけないと教わったものだから」


 悪い人から誘拐されちゃうかもしれないでしょ?

 小さなお子さんは、十分に気を付けなくちゃね。


「ふぉっふぉっふぉ。そうじゃな。お前さんはお利口さんじゃ」

「てへへ」


 また褒められちった。

 

「――とまぁ、茶番はそろそろ終わらせて。……今日はお仲間をいっぱい連れて来たんだね?老賢者、ワーズマン・ヴィ・スファニドさん?」


 私は瞳を細めて笑みを湛えると、お爺ちゃんへと視線を送った。

 お爺ちゃんは一瞬だけ瞳を僅かに見開くも、直ぐにまたにこにことした表情に戻し、髭を撫で始める。


「気付いておったのか」

「そりゃ、有名人だものね?君が私の正体を詳しく聞いてこないから、私も君の正体には口を噤んでいたというだけの話。……でも、こうもお仲間を連れて来られると、今まで通り知らない振りで突き通す訳にはいかないだろう?」

「うーむ……。すまんのぅ。大勢で詰めかけてはならぬと言うに、好奇心を抑えられんかったらしい」


 そう言って、お爺ちゃんは申し訳なさそうに眉尻を垂らした。

 詰めかけなければオッケーだったのか、オイ。


「はぁ……。まぁ、別に構わないよ?ちまちま来られるより、寧ろこっちの方が都合が良いし」

「へぇ?俺達の正体を知った上でその発言とはなぁ。テメー、……中々に肝が据わってるじゃねぇか!カッカッカ!!」

「ふふ、ありがとう」


 でも、図書館ではお静かにね?


「ならば、我々の自己紹介は不要ということで良かったですかね。一応は名乗りましょうか?」

「結構だよ、シーファ・ストライド。君達の名前ぐらいなら知っているからね。……えーっと、そこの煩いのがロイ・デスターナで、気怠気に壁に寄りかかってる眼鏡っ子がクルッカ・リンデル。それと、もじもじしながらお爺ちゃんを見つめてる貴婦人様がバルーナ・エスコフィエ。……で合ってたかな?」

「……よく御存知で。これでも、あまり人前には出ないのですがね」


 ロイが「煩いのってなんだ、オイッ!!」と叫んでいたが、煩かったので放置しておこう。

 図書館ではお静かにね?これ三回目。


「ちょっと、勇者の知り合いがいてね?彼から君達の名前と、外見なんかの特徴を教えてもらったんだ。……まぁ、その勇者も、ここの生徒さん達から教えてもらったらしいんだけど」

「なるほど……」


 本当、リヒトってば頼りになるわぁ。

 質問すれば全力で答えてくれるし。

 知らない事があっても、「知らないの?そっか……」と肩を落とすと、数日後には全力で調べてきてくれる。

 いやー、扱いやす……ゴホン。


「えー?その勇者ってぇ、リヒトって名前だったりするぅ?」

「そうだよ?君達が彼に中々会ってくれないものだから、お陰で愚痴に付き合わされてしまった」


 お酒が入ると、まー喋る喋る。

 「あいつら、絶対わざとだと思うんだよねー」とか、「忙しい忙しいって、何にそんなに忙しんだよ」とか、「俺、勇者じゃん!?ちょっとぐらい贔屓されてもいいんじゃないの!?」とか、哀れな程にやさぐれていた。

 面倒臭かったので途中で帰ったが。


「まーじかぁ。それは大変だったねぇ」

「ふふふ。中々面白い子だし、気が向いたら会ってやって?」

「むぅ~。君の知り合いってなるとぉ、ちょーっと興味が湧いてきちゃったかもぉ。……ていうかぁ、バルーナ~。そろそろおぶってくんない~?」


 喋りながらも、凭れている壁からズルズルと降下していくクルッカ。

 筋力弱すぎない?


「嫌よ。というか、何で私なのよ」

「だってぇ、身体強化したバルーナがぁ、一番力持ちじゃぁん?」

「そんな事の為に魔力使いたくないわよ!!」

「ぶぅ~。じゃあ、……ロイロイでいいやぁ。はぁ……」

「え、意味分かんねぇ。何で溜息吐かれてんの俺。何コイツ超うぜぇ。つーか、おぶらねぇよ」


 バルーナにおんぶを拒否されたクルッカは、シーファとロイを交互に見た後、ロイを御指名。

 溜息交じりに両手をロイへと広げるクルッカに、ロイは「自分で立てや」と正論を吐き捨てた。


「一応聞きますが、何故ロイに?」

「んーとねぇ。シーファはぁ、髪が邪魔かなってぇ、思った~」

「なるほど……。長髪で良かったです」


 選考基準に納得し、シーファは一人頷く。


「……あ、無理。もう、無理。これ以上は立てない。立ちたくない。こうなったらぁ、えぇ~い!ロイロイの背中へ~、――転移」

「うおっ!!?……テメー、こんなくだらねぇ事に転移魔法使うか普通」

「はぁ……。やっぱ男の背中はぁ、ゴツくて居心地クソ悪い……。出来ればバルーナが良かったなぁ。ま、仕方ないから我慢しとくけどさぁ」

「強制的におぶらせといて何だその言い草は。マジこいつ、塵になって消えて欲しい」


 ロイの背中に気怠気に掴まりながら、不服そうに頬を膨らませるクルッカ。

 苛立ちを顕わに、ロイは体を揺さぶって振り落とそうと奮闘するが、クルッカが首にしがみ付いて離さない。

 暫く攻防戦は続いていたが、首にクルッカの全体重が掛けられている状態に耐えきれなくなったらしく、結局はロイが折れた。

 よほど苦しかったのだろう。ちょっと涙目だった。


「チィッ!!クソが!!背中に乳の感触一つしねーぞオイッ!!テメー、本当に女かよ!」

「キシシッ。お陰でしがみ付くのも楽ちんだよねぇ。やっぱ貧乳ってぇ、最高ですなぁ」


 クルッカはロイの肩に頬を乗せると、だるーんっと力を抜いて寛ぎ出す。

 そして、そんなクルッカへと悪態を吐きつつも後ろへと手を回し、しっかりおんぶしてあげてるロイ。

 大賢者達って、仲良しさんだったんだなぁ。


「賑やかだね」

「楽しい子達じゃろう?ふぉっふぉっふぉ」

「ふふふ、そうだね。――でも、そろそろ本題に戻ってもらってもいいかな?時間が惜しい。お子様はそろそろ寝る時間なのでね。……それとも君達は、仲が良い様を私に見せつける為だけに会いに来てくれたのかな?もしそうなら、……頭の中、随分とお花畑なんだね?」


 私は瞳を細めて笑みを湛え、――くすっ。

 彼らのポカンとした間抜け面が、実に面白かった。


「……ふふ、挑発がお上手ですのね?」

「そうかい?ありがとう」


 一拍置いて、バルーナが微笑みを浮かべながら口を開いた。

 余裕の態度である。


「ふぉっふぉっふぉ!眠たい時間じゃろうに、気付かなくてすまんかったのぅ」

「カッカッカ!俺達を煽るなんざ、マジで肝が据わったガキだな!」

「興味深い子だよねぇ。老賢者様がぁ、関心を示すのも頷けるぅ。キシシー」

「……おや。案外釣れないものだねぇ?」


 流石にこの程度で怒鳴り声を上げる程、馬鹿ではないか。

 ちょっと詰まらん。……いや、何でもない。


「行き成り問い詰めて怖がらせしまっても……という配慮でもあったのですがね」

「そうだったの?でも、お気遣いはいらないよ。回りくどいのは嫌いなんだ」

「……そうですか。では、お望み通り直球で。――あなたは、何者ですか?唯の子供ではないですよね」


 眉を顰め、私へと鋭い視線を送るシーファ。

 おいおい。普通の子供なら泣いちゃうぞ?


「ふふ、自己紹介の続きという訳か。……そうだね。呼び名が無いと不便だろうし、名乗るぐらいはしとこうかな。……私の名前は、レオ。それと……、唯の子供かどうかについては、君達の判断に任せるよ。だって、……“普通”なんていう曖昧な基準、人によって様々だろう?く、ふふふ?」

「なるほど。やはりあなたは普通の子供ではない様だ。では、その正体は一体何か?魔族……いや、異世界人?だが、その歳で召喚された事例など……」

「ぶつぶつと考え込んでるところ申し訳ないけれど、これでも一応、ママとパパはヒト族だよ?ついでに、生まれも育ちもこの世界。……ふふふ」


 けれどその正体は、世にも珍しい吸血鬼ってね?

  

「……という事は、あなたもヒト族という事でしょうか?」

「御想像にお任せするよ。……そもそも、私は君達に自己紹介は不要だと言った筈だ。何故なら、私は既に君達の正体を調べ、知っていたから。そして君達について、今以上の事を知ろうとは思っていないし、興味も無い。……だから、ね?その辺は察してくれると嬉しいかな?」

「なるほど。だからこちらも聞いてくれるなよと、そういう事ですか」

「ふふ。話が早くて助かるよ。どうしても知りたいなら、私の様に自分で勝手に調べなよ。大賢者って、探求するのが大好きなんだろう?生憎と、それを阻む権利までは私にはないからね」


 私は肩を竦めて苦笑してみせると、話は終わりだとばかりにカウンターへと歩を進めた。

 やれやれ。遅くなるとエル達が煩いからなー。

 さっさと本を選んで戻るとするか。


「……確かに。それもそうですね」

「物分かりが良いね?流石は大賢者」


 私は、うんしょとカウンターに本を置いた後、大賢者の方へと振り返る。

 そして、……固まる。

 何だろう。嫌な予感がする。

 小さく笑みを浮かべるシーファと視線を交わせながら、私は何となく身構えた。


「では、あなたの言った通りに――、」


 そう言って、私の方へと足を踏み出すシーファ。

 場が緊張感に満たされて、ピリピリとした空気が肌を撫でた。

 数歩進んだところでシーファはゆっくりと腕を伸ばし、歩みが、……止まる。


「――させてもらいましょう」

「っ!!?」



次回、レオVS大賢者……!?

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