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公爵家の男装令嬢は、  作者: とりふく朗
第二章 旅立ち編

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酔っ払い共が。

「あはは。レオ君に気に入られるだなんて、光栄だね。ありがとう」

「ふふ、そう言う割には、ちっとも嬉しそうに見えないけどね?」


 困った様な笑みを浮かべて礼を述べるリヒトに、私もまた苦笑する。

 嘘が吐けない性格なのだろうね。


「……でも、そんな正体不明の危険な存在を、よくギルドや国が今まで放っておいたね?討伐依頼でも出そうなものだけど」


 目撃者はチラホラいても、襲い掛かってくる奴はいなかったしなぁ……。


「今のところ人的被害は出ていないから、様子見ってところだろうね。まぁ噂では、ルドア国の宰相、カーティス公爵がギルド側にそう提案したらしいよ?」

「……え?」


 父様が?

 ……でもそうか。

 宰相である父様が、国の異変に何の策も考えない訳が無い。

 何かしら関わる事になるのは必然か。


「何でも、正体が不明な以上、下手にこちらから手を出して危険を拡大させることはないって考えらしいね。頻繁に出現するルドア国王都周辺では、魔物の数が激減して安全性は増しているらしいし、変に藪を突く必要はないっていう公爵の考え、理解はできる。……でも俺からすれば、ちょっと甘いかな。だって、話に聞くその子供は、殺しを楽しんでる節がある。その狂気が、殺意が、いつ人間に向かうかなんて分からないだろう?誰かが殺されてからでは遅いんだよ。それならいっそ、まだ子供の内に早いとこ手を打っておくべきだ。……なのに、ルドア国は今、仮面の子供に対し断固とした不干渉の立場を取っている。ギルド側もルドア国程ではないにせよ、積極的な干渉はしない立場にある。そして他の国々もまた、仮面の子供の出現がランダムな事もあって、対策を拱いてる状態だ」

「そう……。だからこそリヒトは、正体を確かめたいんだね」

「うん、そうだね」


 なるほどなるほど。

 リヒトのお陰で、今の私の立場というものが大分よく分かってきた。

 少し、目立ち過ぎたかな?

 とはいえ、それでもやめられないんだけどね。

 

「教えてくれてありがとう。その話については、よく分かったよ」

「そっか。なら良かった。じゃあ次は、激化してきた魔族の侵攻の話をしようか?」

「んー……。大体の事は知っているつもりだけど、……せっかくだし、最近の話だけ聞いとこうかな」

「分かった。……えっと、魔族側が穏健派と過激派で分かれて対立してるのは、知ってるかな?」


 こくりと、無言で頷く。

 およそ700年前、穏健派だった先代魔王ルニアを打ち負かし、今は過激派のリディオスが魔王となっている。

 人間との共存を目指すルニアは、今は自分を支持してくれる配下を連れてリディオスと対立中。

 そのお陰もあって、リディオスの人間皆殺し計画は中々進まない。


「侵攻が激しくなってきてるってことは、穏健派の力が弱体化してきてるって事かな?」


 大丈夫かなぁ、ルニア。

 死んでないといいけど。ふふふ。


「まぁ、元々過激派の方が勢力は上だったからね。魔王軍幹部も、12人いるし――」

「は?」

「ん?」


 ……空耳かな?

 今、12人って聞こえた様な……。


「4人、でしょ?ほら、四天王的な……」

「え、四天王?いつの話をしているの?昔は魔王軍幹部も4人だけだったらしいけど、今じゃ軍拡によって12人。十二死徒って、聞いた事無い?」

「……」


 知りません。

 だって、邸で魔王軍とか、そんな物騒な会話をする人なんていなかったし。

 そもそも私には、700年前の記憶がある。

 何があったか、歴史書に書かれていない事まで真実を知っている。

 だからこそ、今の魔王軍の現状に興味が無かった。

 関わる気もなかったから、その無関心さは尚の事。

 ……でも、それじゃ駄目だな。

 今も興味はないけれど、どうやら最低限の事は知る必要がある様だ。

 魔族は超長命な種族である分、時間の流れもゆっくりだ。

 そう、思っていたけれど、……時代は思ったよりも早く進んでいるらしい。


「うん。よく理解したよ。今の情報だけで、現魔王の本気振りがひしひしと伝わった。侵攻も激化する訳だ」

「そ、そう?」

「……はぁ。ルニアも苦労が絶えないねぇ?」


 やれやれと首を振りながら、私は小声で呟いた。




*******


 宴もたけなわ。

 酒を出せと暴れるローニャ。

 暴れ疲れたのか、ニックの背を枕代わりに眠りこけるビビ。

 壁に頭を突っ込んで、ビビの枕となっているニック。……何があった。

 酒瓶を抱えながら部屋の隅で蹲り、「クロードしゃん、うう……」と、しくしく涙を流しているガルド。

 

 ……帰ろう。

 そう思い、一足先に退場しようと席を立つ。

 子供はとっくに寝る時間だしね。


「それじゃあ、今日はありがとう。お子様な私はもう眠いので、そろそろ帰らせてもらうよ」


 さっきから無言で酒を啜るリヒトを一瞥し、クロ達に「帰るよ」と声を掛けた。


「ああ、うん。そーだよね。もう時間だよね」


 リヒトは私へと顔を向け、こくりと頷いた。

 酔ってるようには見えないが、なんだろう……。ちょっと違和感。


「色々教えてくれてありがとうね。結構楽しかったよ。……でも、分かっているとは思うけど、外ではあまり声はかけないでね?」

「分かってるよ。うん。目立ちたくないんでしょう?」

「ふふ。理解してもらえて何よりだ」


 やっぱり、話し合いは大切だね。

 うんうん。中々に有意義な時間だったよ。

 私はテーブルに顔を伏せて寝てしまったエルの傍へと近付いて、「エルー」と体を揺すった。


「んー……」

「エル、帰るよ」

「うひひ。レオー。好きー。かわいー」

「はいはい」


 エルも相当酔ってんなぁ。

 まぁ、飲んでもいいって言ったのは私だけどさー。

 駄目だこりゃと小さく溜息を吐いていると、ボソリと、リヒトの呟きが聞こえた。


「……何だよ」

「ん?」


 何事かと思いリヒトを見遣ると、何故か不機嫌そうな顔でこちらを凝視している。

 よく見ると、……その目は据わっていた。


「関わって欲しくないって、何なんだよ」

「……は?」

「普通さー。喜ぶところなんじゃないの?勇者とお近づきになれるとかさー」

「リヒト?……君、酔ってるね?」

「酔ってませんー」


 口を尖らせ、更に酒を呷るリヒト。

 ……このパーティー、酒癖悪すぎだろ。


「本当は酔ってるだろう?」

「……酔ってる」


 こくりと、素直に頷くリヒト。

 こいつって……、酔うと本音を暴露してしまうタイプだろうか?


「……はぁ。今の君と喋っていても、まともな会話は出来そうにないね」

「さっきから思ってたんだけど――」

「うん?」

「酷くないか?レオ君は、会話が一々直球過ぎると思うんだ。俺だってさ、傷付くんだよ?俺なりに助けたつもりだったのに、迷惑扱いするしさ。背負い投げって……、あれは無いわー」

「……」


 何だろう。本当の事なだけに、言い返せない。


「そんなに言うなら、もういーですよ。俺だって、別に関わりたくないですよ。最初は確かに、下心もあったよ?可愛い子供に懐かれて、美女二人からは好意を持たれ、きゃっきゃうふふな状況が脳裏を過ぎりもしたさ。俺だって、俺だって、それぐらいの欲はあるよ!妄想ぐらいするよ!おっぱいだって大好きさ!だって、……人間だもの!!男だもの!!!」

「……リヒト。それ以上は喋らない方がいい」


 もう既に手遅れな気はするが。


「ほーら!!出たよ、レオ君の喋るなー。これ以上話しかけるなって事でしょう?分かりましたー。俺だって、別に喋りたくないですー」

「そういう意味ではないんだが……。まぁでも、うん。そういう事なら好都合だ。これ以上君が醜態を晒す前に、私達はこれで失礼するよ」


 寧ろ、それが君の為でもある。

 私は場の状況についていけてないクロに視線を向けると、エルを抱える様に急ぎ指示を出した。

 けれど、クロは身長的にエルよりまだ小さい。

 頑張って持ち上げてはいたけれど、何か、……可哀想な絵面だったので、シロの背に乗せる様に指示を変更。

 そんな、そそくさと帰る準備を始める私達をリヒトは凝視し続けた後、またもや口を開いた。


「う、嘘だよぉ~」


 悲痛そうな声に、思わず振り返ってリヒトを見る。

 ……ちょっと、涙目だった。


「もっと喋ろうよ~。仲良くなろうよ~。……俺、勇者だよ?もっと頼っていいんだよ?何でも教えるし、助けにだってなる。というか、俺を構ってよ!!チヤホヤしてよ!!……あ、もしかして、俺がまだA級だから――」


 バタン。

 扉を閉めた。

 これ以上は、大怪我じゃ済まないと思う。……お互いに。

 世の中、知らない方が良いこともあるだろう。

 これは私なりの優しさである。




******


 食後の運動がてら、歩いて宿まで帰った。

 ベッドにエルを寝かせ、スーちゃんとシロを連れて風呂場へ直行。

 シロのお風呂は、大型犬を洗ってやってる感覚で結構楽しい。

 鬣が濡れて、首元がほっそりしてる姿とか、中々に見物である。


「前の宿より、やっぱり狭いねぇ?シロは湯船に浸かれないけど、我慢してね?」

「グル……」


 スーちゃんと湯船に浸かりながら、出しっ放しにしたシャワーでお湯を浴びるシロの頭をよしよし撫でる。


「ふぅ……。そろそろ出ようか。クロもお風呂待ってるしね」


 クロには、私がお風呂に入ってる間、エルの介抱を頼んでおいた。

 エルは熟睡していたし、そう面倒臭い事にはなっていないだろうけど、様子が心配なので急ぎ着替えて寝室へ。

 因みにシロは、バスタオルでぐるぐる巻きである。

 乾かすのも一苦労だ。


「お待たせクロ。次、入ってきなよ」

「分かった」


 クロはベッドでごろごろしていて、エルは眠ったまま。

 どうやら何事も無かったようだ。

 お風呂場へとクロを送り出した私は、魔道具のドライヤーを片手にベッドに腰かけ、シロの毛を乾かしてやる。

 電気の代わりに使用者の魔力を微量に消費してしまうが、火と風の魔法術式を組み込んだ、よく出来た代物である。

 うーむ、流石は魔法都市。

 これ程まで日常生活に魔道具が浸透しているのは、ここぐらいのものだろう。

 

「んー……」

「おや」


 ドライヤーの音で目が覚めたのか、エルが唸り声を上げながら目を擦る。


「起こしてしまったかな?」

「……レオー?」


 丁度シロを乾かし終えたところだったので、私はドライヤーを切ってエルの傍へと近付いた。

 シロの毛は、洗いたて乾かしたてで、ふわふわである。


「リヒト達と別れて先に帰って来たんだけど、覚えてる?」

「……」


 目をしょぼつかせながら、ぼんやりと私を見遣るエル。

 この様子じゃ、今の状況も理解してないかな?


「水、飲む?」

「うん……」


 サイドテーブルに置いておいた水差しを手に取って、グラスに注ぐ。

 エルは上半身を起こすと、静かにそれを飲み始めた。


「ふぅ……」


 そして再びベッドへと倒れ、ぼーっと天井を見つめる。

 かと思えば、にへへ、と急に顔をにやつかせた。

 ……情緒不安定だろうか。

 私は苦笑気味に毛布をエルへと掛け直すと、濡れたタオルを額に置いてやった。


「吐き気とかは大丈夫?気持ち悪くなったら言ってくれ」

「ふひひ。冷たくて、きもちー」

「そう。……ふふ、なら良かった」


 額のタオルに触れて、破顔するエル。

 何か知らんが、幸せそうだ。


「ゆっくりお休み」

「レオも、一緒に寝ましょー?」

「……ちょ、」


 急に腕を掴まれて、ベッドに倒れる。

 そしてそのまま、ホールディング。

 まだ髪が濡れたままなんだけどな……。

 私は呆れた様に溜息を吐いて、にへへーと眼前で顔をにやつかせるエルを凝視した。

 ……笑いながら寝てやがる。


「やれやれ……」


 エルの腕の下敷きになりながらも、何とか毛布の中へと潜り込む。

 そして、エルの顔をもう一度チラ見して、その阿保面に苦笑した。


「シロ。明日の早朝、トーマスの所へ行くから早く寝る様、クロに伝えといてくれるかな?」

「グル……」


 何だかんだ眠たかった幼児体質の私は、シロの返事を聞いた後、大きく欠伸。

 そしてそのまま目を瞑ると、私の意識は数秒待たずに夢の中へと落ちていった。

 



 翌朝。

 案の定、エルは酒が抜け切らずに熟睡。

 声は掛けたが無反応だったので、今日はこのまま寝かせておこうと思う。うん。

 てなわけで、エル。お留守番、決定。

 お守り役にシロも置いておくから、いい子で待っててね?


 こうして、部屋にエルとシロを置いてトーマスのもとへと出かけたのだが……。

 ――いやはや。

 再びこの部屋に戻ってきた時、まさかあんな事になっていようとは……。

 この時の私にはまだ、当然知る由は無い。




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[良い点]  リヒトくん、前回は「正義という観念に縛られた狂気の勇者」みたいな感じで、危ないながらも格好良かったのに……おっぱい星人だったのか。でも性格に厚みがあって、魅力的なキャラだと思います。 […
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