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公爵家の男装令嬢は、  作者: とりふく朗
第一章 スキル鑑定編

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ラ、ライオンさんだぁ!!(※挿絵あり)

※話の最後に挿絵を入れてあります。

 小奇麗な方のテントには、やはり見目のいい奴隷が多く並べられていた。

 無理やり起こされたのだろう、まだ眠そうな表情を浮かべる者がチラホラと。

 何かすんません。


「それにしても驚きました。まさか、あの奴隷がこうも立ち直っているとは……」


 トーマスは歩を進めながらも、エルをまじまじと見つめる。

 エルは若干不快そうに眉を顰めていた。


「そんな舐めまわす様な目で見ないでやってくれ。セクハラで訴えるよ?」

「……失礼致しました」

「ふふ。安値で売ったことを後悔してる?」

「いいえ。今がどうであれ、あの時の値段としては正しかったと思っておりますよ。……唯、あまりに元気そうだったものですから――、」

「……?」


 トーマスの言葉が、急に途切れた。

 不思議に思って顔を覗き込んでみると、トーマスは、……小さく微笑んでいた。


「トーマス?」

「――いえ、何でも御座いません。……それで、一通り見て回りましたが、何かお気に召したものは御座いましたでしょうか?」


 あれ、もう終わりか。

 動物っぽいのだけ適当に見はしたけれど、綺麗な見た目をした亜人や、動物が二足歩行している様な屈強な獣人ばかり。

 そんなのに犬プレイを強いるほど私は変態じゃないし、絵面的にもアウトだ。

 となると、やっぱり魔物かなぁ……。


「いないな。もう一つのテントには何かいないのか?亜人や獣人は却下だ。人間っぽくない犬で頼む」

「んー……。とりあえず、魔物の檻にご案内致しますね」


 困った様に考え込みながら、トーマスは汚い方のテントへと歩き出した。

 もういっそ、自分で捕まえに行った方が早いかなぁ。

 半ば諦めモードで遠い目をしていると、エルが「ねぇ」と話しかけてきた。

 そして、至極当然の事を口にする。


「犬なら、ペットショップとかに行った方がいいんじゃないの?それか、旦那様に頼めば直ぐに買って来て下さると思うわよ?」

「……はぁ」


 思わず、溜息。

 何を当たり前の事を言っているのやら。


「唯の犬でいいなら、そうだろうね」

「違うの?」

「行動を共にできる犬が欲しいんだよ。か弱い動物を、魔物の群れの中になんて連れていけないだろう?」

「……あの殺戮現場に、連れていく気なのね」

「エサ代わりにもなるし、運動にもなるし、野生の勘を失わせずに飼い殺し状態を防ぐことも出来る。正に一石三鳥だね!」

「……食べさせる気なのね、魔物」

「スーちゃんも時々つまみ食いしてるよ?」

「マジか」


 エルは目を見開かせ、物凄い勢いでスーちゃんへと顔を向けた。

 その瞳には、驚愕と恐怖とが入り混じっていたそうな。




「こちらで御座います。どうぞ、お好きにご覧になって下さい。……飽く迄も、犬っぽいとしか言えませんが」

「ありがとう」


 案内された場所には、獣タイプの魔物が入れられた檻ばかりが並んでいた。

 鳥、狐、狼、ウサギ、猪、……っぽい見た目の魔物や、なんかゴツイ奴、でかいマリモが四足歩行してる感じの奴、なんか目がいっぱいついた奴、……といった形容し難い魔物まで、多種多様である。

 この中で比較的犬っぽいものといったら、狼系の魔物だろう。

 私は檻へと近づき、狼を観察。

 狼は涎を撒き散らしながら私の方へと突進し、檻に歯を立てて鋭い殺気を向けてきた。

 ……可愛くない。

 調教は出来るだろうが、野生の戦闘本能丸出し過ぎて面白くない。

 もっと程よいのがいい。うん。


「ていっ」


 私はよいしょと立ち上がった後、別れ際にデコピンを食らわす。

 狼は「キャイン」と悲鳴を上げてその場に倒れ伏した。

 ちょっと殺気にイラっときたので、ついでに体内の血流を弄ってやった。

 ふっふっふ、数時間は起き上がれまいよ。

 涎は汚いし、口臭も臭いし、悪いけど君は飼いたくないやぁ。

 精々、闘技場なんかで血沸き肉躍る闘いでも繰り広げていなさいな。


「……ふぅ。他には何かいないのかい?何かもう、犬じゃなくてもいいから、とりあえず知性がある四足歩行したもので」

「んー、知性がある四足歩行したもの、ですか……。……あっ!!」


 トーマスは少しの間の後、何かを閃いたかの様に手を叩く。


「お、何だ何だ?」

「います!四足歩行で、知性のある人間っぽくないものが!!」





 再びトーマスの案内によって連れてこられた場所は、獣人エリア。

 そして、今私の目の前にいるのは――、


「ラ、ライオンだぁ!!」


 しかも真っ白。

 私は瞳を輝かせて、興奮気味にそのホワイトライオンを見つめた。

 ライオンは地面に伏せて瞳を閉じていたが、私の視線に気付いて瞼を開けた。

 そして興味無さ気に私を一瞥すると、再び瞳を閉じる。

 私はもう、それだけで大興奮である。

 うわー、うわー!!目が合っちゃったよ!!金色だったよ!!

 ……ああ、思えば、動物園なんて小学校の遠足で一回行ったことがあるだけ。

 だからライオンも、その機会に見た一度きり。

 でもその日は暑い夏場だったこともあってか、岩場の陰で寝ていてよく見えなかったんだよなぁ。

 それが、今、こんな至近距離に!!

 しかもホワイトライオン!

 か、かっけぇ!!


「“ライオン”というのは、獅子の別名ですか?」


 あ、ライオンって言葉、この世界に存在しないんだっけか。


「いや、気にしないでくれ。それより、この獅子は獣人じゃないのか?人間の要素が皆無だが……」

「亜人や獣人は、人間と動物の二つの性質を持った種族です。亜人は人間寄りで、獣人は動物寄り。ですが極々稀に、人間と動物、どちらか一方の性質のみを非常に強く持った者が生まれる事があるのです。この獅子は、その中でも特に異質。人間の知能は持っていますが、見た目は完全に獣です」

「え、じゃあ、会話が出来るのか!?」

「滅多に喋りませんが、可能です」


 おお!

 しゃべるライオンさんだぁぁ!!


「これにする!!」

「即決!?犬じゃないのよ?」

「どちらかというと犬派だが、これはこれで構わない。幾らだ?」

「お気に召したようで何よりで御座います。こちらは金貨7枚と大銀貨4ま……」

「はい!!お釣りは要らないよ」

「……」


 影から取り出した金貨袋から、金貨8枚を取り出してトーマスに手渡す。

 フッ、悪いな。大銀貨なんて小銭、持ってないんだ。

 ……いや、まぁ、あるけどね?

 買い物する時って、金貨ほとんど使わないし、寧ろ使ったら店側がお釣りに困っちゃう事態になるから、大銀貨や銀貨といった小銭の方が私的に貴重だ。

 いやー。金貨9999枚もあると、金銭感覚マヒっちゃって困るわー。

 邸にもお金あるしぃ。こーまーるー。

 ってあれ、何故かトーマスの顔が引きつっている。


「どうしたんだい?」

「いえ、その、前回の要望が激安奴隷だったものですから、てっきり値切ってくるものと」

「失敬だねぇ。これでもお金には困ってないんだよ?」

「ええ、そのようですね。申し訳御座いませんでした。……それと、前回も多めに頂いた故、金貨は7枚で結構で御座います」


 トーマスは地面に膝を付くと、私に金貨1枚を返してきた。


「おや、貰えるものは貰っておけばいいのに」

「ふふふ。貰える方からは貰いますが、私は人を選びますもので」

「私からのは受け取れないと?」

「レオ様とは末永いお付き合いをと思いまして。これからもどうぞ、御贔屓下さいませ」


 トーマスは優し気な顔で微笑むと、静かに立ち上がった。

 何か知らんが、マケてもらった。


「そうか。では、厚意に甘えるとするよ。ありがとう」

「いえ。レオ様のような方になら、私も楽しく商売が出来るというものです。……これでも、奴隷商というこの仕事に誇りを持っております故」

「物好きもいたものだね?まぁ、考え方なんて人ぞれぞれ。善悪だって、人の数だけ答えがあるというものさ」

「ふふふ。御理解痛み入ります。……やはり面白いお方だ」


 トーマスは口元に拳を当てると、くつくつと笑った。

 何か可笑しなことでも言っただろうか?

 私は疑問に思いつつもクルリと方向を変え、檻越しにライオンに話しかけた。


「やぁ、君。これからよろしくね?」


 私は檻へと手を突っ込んで、腕を伸ばす。

 でも、幼児の腕は予想以上に短くて、ライオンの少し手前で惜しくも届かず。

 ライオンは自分に近付いてきた手を不快そうに片目で見遣ると、グルル……と不機嫌そうに唸り始めた。

 そして、「ガウッ!!!」と短く吠える。


「聞いたか、エル!よろしくねって言ってるぞ!!」

「……違うと思うわよ?というか、今にも噛み殺してきそうな雰囲気だから、とりあえず腕を引っ込めて?……って、レオ!?噛まれてる!腕、噛まれてる!!」


 ん?

 エルに言われて腕を確認。

 あちゃー……。何か痛いなーって思ってた。

 

「レオ様!!今すぐ魔法印で……」

「くく、ふふふ!大丈夫大丈夫」

「血、半端ないですが!?」

「大丈夫大丈夫。ていっ!」

「ガッ!?」


 腕から滴る血を操り、ライオンの口を無理やり開かせた。

 脱出成功である。

 ついでに、流れた血も傷口から回収。からの、完治。

 トーマスが目を見開かせて固まっていた。

 よく固まる奴である。




 場所を移し、奴隷契約へ。

 ……あ、さっきの血液、全部回収するんじゃなかったなぁ。


「では、この奴隷の説明をさせて頂きます。種族は獅子族の獣人。性別は男。名前は不明。先程も述べさせて頂きましたが、動物としての性質が非常に強く、見た目は完全に獣です。なので、二足歩行も出来なければ、作業に手を用いる事も出来ません。それと、御覧の通りの毛色の為、狩りをさせようにも目立ってしまう事が多く、更に人間の体格を持つ獣人よりも身軽さに欠けるという事もあり、愛玩用として推奨致します。また、購入後に奴隷が死ぬ様な事があっても、当店では一切の責任を負いません。よって、返金も致しかねる事、ご了承下さい」

「分かった」

「では、契約書にサインをお願い致します」


 前回と同じく『レオ』と書名し、トーマスに契約書を手渡す。


「ありがとうございます。では、奴隷契約を行いますので、こちらの針で指を刺した後、首輪に触れて下さい」

「ああ」


 ドキドキと脈打つ心音を感じながら、針の先端を指に近付ける。


「……く、ふ、ふふ」

「レオ」


 エルが心配そうに視線を送ってくる。

 分かってる。分かってますとも。

 でも、刺す瞬間のこの緊張感に、思わずにやけてしまう。


「くふふ!刺したよ?」


 不自然な程に満面の笑みを浮かべ、若干引き気味のトーマスを見る。


「え、ええ。では、この首輪に触れて下さい」

「うん」


 こうして、ペットが一匹増えたのだった。

 中身は人間だが、見た目動物だし、リードで引いても変態な絵面にはならないので問題なしである。

 ……え、人権?

 知らん。




「早朝から悪かったね。リード代わりに縄まで貰っちゃって……。ありがとね?」


 私はライオンの首輪に繋がれた縄を片手に、口元をにやけさせる。

 ライオンは気怠そうに寝そべって、相変わらず瞼を閉じていた。


「いえいえ。その程度、大したことでは御座いません」

「……っと、そうそう、忘れるところだった。今日はクレームも兼ねて来たんだよね」

「クレーム、ですか?」

「うん。前回、重要な説明が抜けていたよ?」

「そ、そうで御座いましたか。……大変、申し訳御座いませんでした」


 トーマスは姿勢を正すと、深く頭を下げた。


「それで……、恐縮ではありますが、詳細をお聞かせいただいても宜しいでしょうか?」

「まずは、エルがダークエルフとのハーフだという事についてだね」

「……申し訳御座いませんでした。その事につきましては、理由の方を述べさせて頂きます。その奴隷、エル様の場合、度重なる自傷行為によって手が付けられないからと、奴隷商の間を転々と盥回しにされていた為、途中でその説明箇所が抜け落ちてしまったと思われます。恥ずかしながら、情報の管理にズボラな奴隷商もおりますもので。私の所に回ってき時には、既に買い取りが困難な程の酷い衰弱状態で、かなりの安値にまで下がっておりました。そしてレオ様が来店されたのは、その翌日。エル様の瞳の色に疑問は持っておりましたが、正直なところ、その調査を行う時間も、処分品にそこまでの手間とコストをかける必要性も御座いません。レオ様には悪いのですが、それを含めてのあの値段という事で、御納得して頂けないかと……」


 まぁ、そうだわな。

 というか、情報が抜けるぐらい盥回しされるって、どんだけ厄介者だったんだ。

 逆に言えば、厄介者でも処分出来ない程に価値があったという事でもあるんだろうが。


「いいよ?別に血統なんてどうでもいいからね。そちらも知らなかったというのなら、特に謝罪も求めない」

「ありがとうございます」

「あとは、首輪についての説明だね」

「……?何か抜けておりましたでしょうか?」

「この首輪に血と魔力とを登録すると、登録者は首輪を付けた奴隷の位置を把握出来るようになるって説明だ」

「……え?」

「え?」


 トーマスは眉を顰め、首を傾げる。

 そして目を閉じると、何かに集中するように暫く無言になった。


「……畏れながら、そのような仕組みはないかと。ここにいる奴隷や魔物が付けている首輪の主人は私ですので、念の為に先程自分でも試してみましたが、やはり何も感じませんでした。そもそも、『逃げるな』と最初に命じてしまえば良いだけですし、また、遠くからでも魔法印は作動出来る為、脱走を試みる奴隷は稀でしょう。……というより、位置情報の把握などといった高度な技術、聞いたことも御座いません」

「そう、なのか?」

「恐らくですが……、レオ様の何かしらのスキルが関係しているのではないかと」


 なるほど、有り得るな。

 どうりで首輪を付けているエルでさえ知らなかった訳だ。

 まぁ、それは兎も角として――、


「そうか。すまなかったね。こちらの勘違いで無駄な手間を取らせてしまった」

「いえ、お気になされず」

「ところで……、さっきから私に熱い視線を送ってくるあの人は、君の部下かい?」

「……はい?」


 トーマスの間の抜けた返事を聞き、彼の指示ではない事を悟る。

 私は一人納得すると、テントの奥へと視線を向け、意味深に微笑んだ。

 トーマスも私の視線を追うように奥の方を見遣るが、薄暗さで視認が困難なのだろう。瞳を細めているものの、中々姿を見つけられない様子だった。


「それで隠れているつもりかい?殺気はなかったから見逃していたけれど、こうも見られ続けると流石に不愉快だ。これ以上されると、つい殺したくなってしまう。私の理性がある内に、どうか出てきてはくれないだろうか?」


 いや、脅しとかじゃなくて、ガチで。

 ライオンに噛まれた時も、針で指を刺す時も、狂気を抑えるの結構大変だったんだよ?

 そんな中で、この不快な視線。

 殺っちゃおうかなぁっていう喜々とした感情が溢れて、ついワクワクしてしまった。

 無駄に刺激しないで欲しい。


「……悪かった」


 少しの沈黙の後、テントの奥から声が響く。

 物陰から出てきた人物は、長い黒髪に赤い目をした、……美少女だった。



挿絵(By みてみん)

挿絵は、あっきコタロウ様よりいただきました。

謎の美少女ですね。笑



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