【ここからでも】一周まわって平和だよな、俺たち【保険入れますか】 Part4
838:聖女 月火の年/8/2 10:44:27
温泉って言ったやつ出てこい
何の確証もなくただ歩いているだけだぞクソ
839:王都の名無しさん 月火の年/8/2 10:46:13
草
840:王都の名無しさん 月火の年/8/2 10:48:02
あ! めっちゃくちゃ穴を掘れば水が出てくるんじゃない?
841:水都の名無しさん 月火の年/8/2 10:50:18
水ってどこにでもあるわけではないんだなあ
842:崖都の名無しさん 月火の年/8/2 10:51:56
でも安価だしそこに向かって歩いているんじゃないの?
843:魔都の名無しさん 月火の年/8/2 10:53:28
おそらく温泉がある場所に向かって歩いているのは間違いなさそうなんだけどね
あとどのくらい歩けばいいのかとか、どういうところなのか情報が一切ないから精神的に疲れはするんだよね
僧侶くんに姉御ちゃんに鳴動くん、スライムちゃんと暗黒竜と濃いメンバーだから退屈はしないんだけど
844:王都の名無しさん 月火の年/8/2 10:56:04
え!? そんなにいたっけ!?
いつのまにか大所帯
845:王都の名無しさん 月火の年/8/2 10:58:35
孫、分かる~?
846:王都のパン屋さん 月火の年/8/2 11:00:02
先の見えないことは何でも疲れるからな
847:王都の名無しさん 月火の年/8/2 11:01:49
女体化した孫のその後も知りたい
848:外商人の孫 月火の年/8/2 11:04:09
男兄弟しかいないのもあって母親が昔のドレスとかアクセサリーを何度も着せてきて大変なので地図はまた後でいいですか……
849:王都の名無しさん 月火の年/8/2 11:06:39
ま、孫……
850:緑都の名無しさん 月火の年/8/2 11:08:08
母親の順応早すぎでしょ
851:王都の名無しさん 月火の年/8/2 11:09:58
そんなかわいくなってるわけ?
ちょっと会わない?
852:王都の名無しさん 月火の年/8/2 11:11:32
俺も対面で外商人していたおじいさまの話をお聞きしたいんだけどナ~
853:王都の研究員さん 月火の年/8/2 11:13:40
今の孫くんに近寄ったやつ全員ポー研に放り込むからねえ。
854:王都の名無しさん 月火の年/8/2 11:15:21
すごい脅し
855:王都の名無しさん 月火の年/8/2 11:16:51
ちょっとの下心に見合わないリスク
856:王都の名無しさん 月火の年/8/2 11:18:40
なんかいきなり調子悪くなってきたかも
変なもん食ったかな。変なもん食った記憶しかない……
857:王都の名無しさん 月火の年/8/2 11:20:25
なんか魔力酔いみたいなの感じる~~
今日魔法に触ってないんだけど
858:王都の名無しさん 月火の年/8/2 11:22:06
あ、やっぱそう?
魔法の測定器が一瞬変な値出ちゃって焦った
859:王都の名無しさん 月火の年/8/2 11:23:46
魔力に過敏なひとは大変ね
860:緑都の名無しさん 月火の年/8/2 11:25:19
どこにでもあるんだそういうの
861:崖都の名無しさん 月火の年/8/2 11:27:30
魔力回路持ちしか分からない辛さか
862:聖女 月火の年/8/2 11:29:12
なんか、こっちも魔力の流れがおかしいかも
□
草原を歩いていた一向に、すさまじい魔力の波がぶつかる。感知したパメラとクレハ、ティトは息を呑んだ。
最も魔力が濃い箇所に視線を移す。
壁でも何でもない、何もない空間に長方形の線が引かれていた。子どもがようやく通れそうなぐらいの大きさだ。
それが、ゆっくりと開いていく。さながら窓のカーテンを開くように……。
「聖女ちゃん! みんなを隠せ!」
クレハの声にハッとし、言われたとおりに『窓』と自分たちの周りを魔法の壁で覆い、外側を不可視の状態にする。
「クレハさんも下がってください」
「……分かった」
クレハは影に引っ込んだ。
この中にいる限りは、パメラだけが立っているように見えるだろう。
『窓』の向こうには、イルデットと異邦人がいた。
イルデットは半年会わぬ間に少し太ったようだ。異邦人の少女はパメラが見ても高級と分かる布で作られたドレスを纏っている。
好意的ではない雰囲気であった。パメラは黙ってふたりを見つめ返した。
「王に対する態度はそれでいいのか? 跪け」
「……ッ」
『強制服従』の命令者筆頭たる男の声が彼女の身体を締め上げる。
パメラは膝をつき、組んだ手を胸の前に掲げた。
身体は命令通りに任せながらパメラは思考を巡らせていく。
王都には魔法使いが何人もいる。時間はかかったとはいえパメラを見つけ出すのも不可能な話ではない。
だが――このいびつな魔力は一体何なのか?
イルデットではない。異邦人は取るに足らない。他の魔法使いたちならこれまでに感知できたはずだ。
大きな違和感。しかし、それをはっきりと指摘できないもどかしさがある。
王都で何が起きているというのか。
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聖女:魔力抑えて
魔王:分かってる! 必死なんだよこれでも!
聖女:この魔力なに
魔王:トードリナだ! 創生神!
聖女:なぜ王子の近くから感じるの
魔王:僕が知るか!
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「俺のもとに帰ってこい、パメラ・ドゥー!」
薄らいでいたはずの『強制服従』の呪いが軋みを上げて発動する。
安価で出された指示がイルデットの命令に上書きされた。
「あ、が……」
負荷がかかり、パメラは血を吐き出す。
その様子を満足げに眺めた後、さらにイルデットは叫んだ。
「いいか! 俺の前まで来い!」
パメラは頭を上げてかつての婚約者の、その隣にいる異邦人を見る。
青い目とかち合って異邦人はびくりと身を縮こまらせた。恐れるようにして後ずさり、イルデットはこれ見よがしに彼女の腰に手を回して抱き寄せる。
そうしている間にも『窓』が狭まっていく。
「必ず」
かすれた声でパメラは返した。
彼女と旅をしてきた者たちなら分かる、強い感情が込められた返答を。
「必ず、行きましょう」
音もなく『窓』が閉まった。同時に得体のしれない魔力が消える。
パメラはその場に倒れこんで激しく咳き込んだ。
「パメラ様!」
「お嬢!」
皆がパメラとクレハに駆け寄る。
彼女の口元が血で汚れており、ティトはネクタを持ち上げて拭いとる。
ルボが水を差し出すが口に入れる横からこぼれていく。思うように身体が言うことを聞かないのだ。
クレハも辛そうな様子であり、グローシェに話しかけられても途切れ途切れにしか返答ができていない。
「待って、なんか……まずい、です」
パメラが口を押さえながら呟いた時だった。
キィン――と、甲高い音を立てて足元に巨大な白銀の魔法陣が展開される。パメラ由来のものだ。
ぞくりとしたものを感じてティトは後ずさるが、彼の動きに合わせるように魔法陣が広がっていった。
まるでこの場にいる全員を逃がさないと言わんばかりに。
地面に展開するそれを読み取り、顔を青ざめさせてクレハは叫ぶ。
「やめろ聖女ちゃん! 転移か!? 行き先は!? なんだこれ!?」
「制御が利かないんです! どうしよう!」
「大変そうでござるなあ」
混乱に陥る中、のんきに喋りながらパカパカとユニコーンが魔法陣の中に入ってきた。
そして暗黒竜を見上げて「もう少しこちらに」と声をかける。
「どうせ移動するのであれば、出来るだけ同じ位置に皆がたどり着けるように祈るでござる」
「離れ離れの可能性もあるってことか!?」
グローシェの問いにユニコーンは首を振った。
ネクタは少し迷った後にティトの懐に飛び込む。グローシェもルボを引き寄せた。
クレハはパメラの手首をつかみ、もう片方の手を暗黒竜に伸ばす。
転移魔法が、発動した。
□
魔法陣から発せられる眩い光が落ち着いて――。
パメラ達はその場から消えていた。だが、全員がその場からいなくなったわけではない。
「う~ん、置いていかれたでござる」
「キュウ……」
ユニコーンと暗黒竜だけがその場に残されていた。
なぜはじかれたのかをユニコーンは考えない。結果がすべてであるからだ。
「おやおや! 新品の魔導大板じゃないでござるか。ラッキー」
グローシェがゴトゴト国で購入したばかりのものだった。
うきうきと魔法で拾い上げる。
「いやー、しかしあれが創世神のちからでござるか。質量で圧倒しても安っぽい魔法の匂いはごまかせんぞお」
不安そうな暗黒竜にユニコーンは鼻を鳴らす。
「幼き竜よ、心配なされるな。幸い拙者たちは移動ならお手の物。それっぽいところに行けばまた会えるでこざる」
「キュウ……」
「行きましょうぞ」
そう言うとユニコーンは歩みだした。その後ろをおとなしく暗黒竜がついていく。
かたちのまったく違うふたつの影は、ひとの通れぬ道へと進んでいった。




