表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/190

その13 狙撃手と剣姫3

 なんだ……?

 あの〝真打ち〟、一体今何をやったんだ。

 観客もそのカラクリがわからずポカンとしていた。ただ気づいた時にはもう、首筋に直撃を受けたガースが腰を折ってその場に崩れ、

 その目の前でおぼろが残心を取っている。ヒュッと刀を一度払うと、それからパチリと鞘の中に収めた。


 対するガースは、立ち上がれないほどのダメージを負っているらしい。むろん刃を潰した魔導のおかげで瀕死にならずに済んでいるものの、

 それでも、だ。朧に手を借りると、ようやっとふらつきながら立ち上がる。私たち以上に呆然とした表情である。


「一体何を……」


「斜め一閃でしょう」


 朧が言う……ん? いや待て、違う。朧ではない。

 ガースの言葉に返答したのは彼女ではなかった。そのもっと後方。今しがた私たちがやってきた入り口からあわられる一人の人物。

 「あら」とソラが呟くのがわかる。


 剣姫だ。


 アイリスは従者を二人連れて現れた。紅のドレスに真紅の剣装。

 その後ろにはこれまた……部下であろうか。剣と盾を装備した少女が見える。

 どうやらここで適当に感染していたのは功を奏したらしい。向こうから来てくれるとは思わなかった。

 ガースはそちらを見る。突如現れた自分の上司とは別の〝真打ち〟に、わずかに戸惑っているようにも見えた。


「え? あ、あんたは……」


「「あんた」ですと。あらあら、剣星隊の面々は上のものに対する礼儀も知りませんの? まあそれはこの際いいでしょう。

 あなたが〝剣星〟ですか。朧 月夜先生」


 アイリスの視線はところが、ガースに向けられていなかった。

 その紅の瞳はたった今刀を納めたばかりのもう一人。金剛石の剣士に向けられている。


「……〝剣姫〟か」


 朧は振り返らずに言う。その背中に、剣姫はなおも言葉を紡いだ。


「極東の閉国『十二のかん』。……そこで起こった内戦、『新月の乱』で()()()()()剣豪……」


 朧は何も答えなかった。

 ただ一度カチリと刀に手を触れると、そこでようやっと振り向く。黒色の瞳と真紅の双眸が交錯した。


「……なんのことか分からんな」


「まあまあ、おほほ。三尺(※約90cm)以内ならば相手の動きと急所が手に取るようにわかる『心眼』と……降る星のように速い袈裟斬り『流星』。

 ここまで見せていて否定するなんて、面倒なお方ですねえ」


 「袈裟斬り……?」ガースは訝しげに呟いた。そう、彼だけではない。

 おそらくこの場の誰も、私でさえだ。正直全く見えなかった。ギリギリ目で追うことができたのは、金剛石の刀が光を反射したその残滓ざんしのみ。

 剣姫の言葉を信用するならば、あれは上から下に刀を振っていたのか。背負った刀を、その状態から斜め向きに一閃。

 小細工や特殊な技術は存在しない。()()()()()()

 ただし、その速度は計り知れない。少なくとも、()()()()()()()()()()()私でさえ、全く太刀筋を追うことができなかった。


「……剣姫あいつはそれを見切ったということか」


 となると、

 少なくとも身体能力では上行かれるな。

 まあ、いいだろう。元々私は身体能力それは高いほうじゃあない。


***


「さあ、場所を空けていただきましょうか。お次はわたくし達が使う番ですのよ。ねえクロウさん」


「!? クロウ?」

 

 朧とともに去ろうとしていたガースは、ところがそこでガバッと顔を開けた。

 へえ、あの二人知り合いなのか。そういえば剣征会は真打ちの下に副官、そしてその下に十数人ほど部下がつくと聞いたことがある。

 いわゆる少数精鋭というやつだ。知り合いが別々の真打ちにつくということもあるんだな。


「あれ……ガースくん?」


「おう、なんだ、お前も無事に合格できたんだな。この前セーラ先生が課した入隊試験。そっか……よかった」


「うん! 二人とも別々の隊になっちゃったんだね。あ、朧先生こんにちは」


 クロウはそこでぺこりと頭を下げた。朧もそれに応じて、わずかに会釈をする。

 私の隣で空が小さくあくびをするのが見えた。「早く始まりませんかねえ」なんて呟いている。まあそう焦るなよ。

 それからガースとクロウは二言三言話すと、クロウは闘技場の中央へ。ガースはその脇に歩いた。どうやら友人の鍛錬を観戦することにしたらしい。

 まあそれはいいとして、


「……さあて、ではやりますか。あなた、わたくしの得物を……『フレアクイーン』を」


 アイリスは従者にいう。礼をして傍から差し出したのは、刃渡り85cmくらいの長剣であった。

 ただし少々形状が、それまで見てきたものとは違う。


「おいソラ、始まるぞ。……しかしあの剣は」


「なんです、あの形。あんなので斬れるんですか」


 ソラはわずかに首をかしげた。私もその得物に目をやる。


「あれは……珍しいな、『フランベルジュ』だ。初めて見たよ。使い手がいるんだな」


 ゆっくりと剣を抜き去るアイリス。

 その刀身は、直線ではなく大きく波打っていた。


***


 なんだあの剣!?

 俺は(ようやっと見つけた)セーラと一緒に第三闘技場の観客席にいた。

 さすがにあの状況で剣姫にいろいろ聞くわけにもいかないしなあ。本来ならこういう役目はそっちの方面に詳しい如月やソラさんがやるべきなのかもしれないが、

 いや待て案外彼女らもどっかで観戦してるかもしれないな。


「ありゃ波刃剣フランベルジュだな。あのなみなみの部分で切り込めば、普通より痛みを伴う切り傷を与えることができる」


 なんだよそりゃこえーな。俺はセーラの話を聞きながら、アイリスの得物を観察する。

 普通の剣ならば刀身がまっすぐ伸びているが、彼女の得物は蛇行していた。それだけじゃない。

 真っ赤っかなのだ。円形の金色の鍔、そこから伸びるうねうねとした刀身は、真紅一色である。表面的な赤色ではなく、もっと根底から色の濃い、深みのある赤色であった。


「〝剣姫〟はな、代々うちじゃルビーの剣石ソードストーンを持つんだ。まあ、あいつは前に何回か声かけても受け取ってくれないんだけど」


 そういってセーラさんはぷらぷらと剣石を振った。そちらに目をやると、おお、確かに。アイリスの得物と同じような色をした宝石……ルビーが揺れていた。

 自分の剣石はすでに身につけられており、〝剣将〟の胸元でオリハルコンの橙色が光っている。


 なるほど、

 となるとアイリスのあの剣はルビーでできているわけだ。真打ちは司る宝石を素材にした得物を持つという風習?習わし?はどうやら本当らしい。

 まるで燃え盛る業火をそのまま塗り固めたかのような剣を一振りすると、アイリスは対峙する剣士……クロウを見やる。


「さあ、いらっしゃいな」


 開戦。

 従者がゆっくりと下がり退場すると、それを皮切りにクロウも得物を抜刀した。

 右手に剣を持ち。左手にバックラーを持つ。正統派騎士の構え? ようわからんけどまあ、攻守共々バランスが良さそうだな。


「まずいなあ」


 しかし、そこでセーラが唐突に呟いた。俺は首をかしげる。


「どうかしたんです?」


「いや、アイリスさあ……あいつちょっと悪い癖があるんだよ。それが出なきゃいいけど」


「悪い癖?」


 セーラは椅子に座り直した。

 「まあいいや。観戦しよう」 そういってまた視線を闘技場に戻す。


***


「では、参ります!」


 一礼してからクロウはサーベルバックラーを構えた。剣先を地面に落とし、盾の裏側で隠すように構えている。

 セーラさん曰く正面から対峙して自分の間合いを分かりにくくするためだとか。

 なるほど、得物の長さがわからなければ戦いにくいわな。


 互いににらみ合ったまま、しばらく動かない。

 だがアイリスがわずかに体を開いた瞬間、前傾した姿勢そのまま。

 脱兎のごとくクロウが走り出した。えっすごい、早い。

 瞬く間に距離を潰してしまうと、「やあああ!!」 気合いとともにサーベルを振り下ろす。

 アイリスが体を捌いてその斬撃を躱すと、ゆっくりとフランベルジュを突き出した。あれ、なんか剣速が遅くね。


「当たり前だろ」

「本気でやってたんじゃ稽古にならないからな」


 あ、そりゃあそうか、そうだった。

 どうもあいつら真剣で戦ってる(魔導でちゃんと斬れないようになってるから大丈夫らしいけど)からなんとも『稽古』って感じがしないな。


 ガァン!

 硬質な音が響く。クロウはアイリスの剣をバックラーで受け止めた。

 間髪入れず攻撃を加えようとするも、そこで『異変』が生じる。


「ヤケドしますわよ」


「!?」


 あれれ。

 攻撃をやめてクロウは一度大きく後方に飛んだ。痛そうにしかめ面している。

 バックラーを持つ手がわずかに赤くなっていることに気づいた。


 さらに気づく。

 よく見ると、アイリスの剣……『フレアクイーン』はその刀身が()()()()()いる。

 陽炎のようなものが絶えず立ち上がり、輪郭を掴ませないのだ。あ、あれってもしかして……


「炎だ」


 セーラが言った。

 続く言葉は持ち主である剣姫が。高熱が伝道し盾を取り落としそうになるクロウに紡ぐ。


「『フレアクイーン』はとある火の精霊が宿っていましてねえ……金属でこの刀身に触れないほうがいいですわ」


 皮膚がただれますよ。

 アイリスはにやりと笑う。一度ヒュンと剣を振るうと、その軌道が赤色に燃え上がった。

 マジかよ!? ()()()!? あ、いや待てこれは手掛かりじゃないか。

 セーラに内緒で俺はこっそりその様子を頭に叩き込む。『覚醒』したら炎が剣から飛び出す……と、


「いや、『覚醒』じゃねえよ」


 え?


「はい? だってあれって……」


「ああ、よくあるんだよなあ。属性系の強力な精霊にさ。()()()()()()()紋章じゃあ抑え込めないことが。

 アイリスの剣は封印状態であれなんだ」


 『覚醒』してないだと……。

 ってことは、え、もう一段階上のなんかの能力があるってこと!?

 封印状態なら刀身から炎が吹き出す。なら覚醒状態なら……?

 ま、まあでもそりゃそうか。俺は最初こそ驚いていたものの、徐々に納得してきた。

 『覚醒』ってのはいわば『本気』だろ。上司が部下に本気で斬りかかるかい。


 なんとかして覚醒が見たいもんだな。

 その時である。アイリスの声で我に返った。「今度はこちらからいきましょうか。それに……」


「―――――――――――――多少なりとも『痛い』思いをしたほうが、勉強になると言うものでしてね?」


「!? くっ……か、『覚醒』――――――!!」

ありがとうございましたー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ