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その6 狙撃手と剣将2

「精霊使い相手に……『覚醒』しないというか」


「ふん、随分となめたことを」


 どうやらセーラの発言は二人の堪忍袋に触ったらしい。

 当の本人はそんなことどこ吹く風で、ゆっくりと体を沈めた。

 剣術に関しては俺は素人だからよくわからない。そういや、隣に如月がいれば解説なりなんなりしてくれるんだがなあ。


「変わってないですね。あの構え」


 ソラさんはコートの内ポケットに手を入れたまま、もう片方の手で長い髪を抑えていた。

 俺はセーラを見る。体を前傾させ、背中を丸めていた。おかげで大きめの彼女の姿が、少し小さく見える。

 そういや、普通の剣士よりちょっと変則的な形だなあ。よく見るのは背筋をすっと伸ばして、刀を正中線の中央に置くかたちだ。

 ちょうど如月がよくやっているような……なんといったけか。ああそう、正眼の構えか。


 そもそもまだセーラは抜刀すらしていないし。

 鍔口を切った態勢のまま、深く深く重心を沈めている。


「……どうした。こないのか」


 わずかに金属の擦れる音。さらにセーラが剣を鞘から引き抜いたのだ。

 その音を皮切りに、今までの『静』の状態が変化する。すなわち、全く逆の状態。激しい『動』へ。


 ヒュッ!

 まず先に動いたのは空賊の女剣士・ダリア。低くサーベルを構えながら、風を切り低く疾走する。

 一手遅れてセーラも動いた。相手がサーベルを下から上に振り上げる。おお、すご……さすが空賊の親玉。

 他の奴らとは明らかに動きが異なっていた。剣の動きが鋭いのだ。


 セーラがのけぞって切り上げを避けている隙に、ダリアはさらに一歩歩を進めた。一度切り返していたサーベルを引き戻し、再び突き出す。


 瞬間、

 彼女の親指が柄に彫り込まれた『紋章』に触れた。ほとんど同時に、それを視認したセーラがニヤリと笑う。


「……きやがるな」


 ヒュン!

 ダリアは剣を振ると同時に小さく呟いた。「『覚醒』」











「―――――――――――――『ノーム』」











 その刹那、え、なんじゃこりゃ!!? 俺の隣でソラさんも息を飲んでいた。

 ダリアの背後に突如現れる人影。彼女の背丈よりも二倍ほど大きく、厳しい鎧と剣を携えた男の姿であった。ちょうどダリアと同じように剣を構えている。

 グラグラグラと船体がいつもより揺れる。ついで、魔力の本流と思われる特殊な感覚。目に見えないが明らかに周囲の空気が変わった。


 ……あれ?

 と、次の瞬間にはダリアに重なるように現れていた鎧男の姿が消える。え……? なんだったんだ?


「力を借りてる証としてさ。『紋章』を覚醒させると一瞬だけその精霊の姿が見えるんだ。おっとっと!!」


「ちょ、ちょっとセーラさん! いや解説ありがたいっすけど、戦いに集中してくださいよ!」


 セーラは悪い悪いと言いながら、うわまただ! すんでのところでダリアの斬撃を躱した。

 外れた剣先が大きく弧を描き、船の壁にぶつかる。


 ズドン!

 明らかに女性のものと思えないほど大きな、そして『重い』音が響いた。

 見てみると剣の通った部分が粉々に砕け散ってしまっているではないか。()()()()()なのになんだあの威力!?


「ははあ」

「『ノーム』ってのは確か『重さ』の理を司る精霊だったな。ってことは直撃の瞬間に剣先の重量を増大させたか」


「リードア!」

「私がこいつの動きを止める! お前が仕留めろ」


 なるほど敵さんそういう戦法か。空賊の銃士・リードアは数歩後退して言った。「了解」。

 バズーカを構える。がしゃん! と大きな音が響く。

 おいこれ……せめて俺たちが加勢してあっちと戦っておこうか。ねえソラさん?

 ところが、彼女はもう銃を握っていなかった。それどころか警戒もしていない様子で、壁に寄りかかっている。


「大丈夫だと思いますよ」


 俺が訝しげな視線を送っていたからだろうか。ソラさんはわずかに笑う。


「あの動きだと、腕は鈍っていないようですから」


***


 セーラはまだ剣を完全に抜刀しない。

 柄に手を添えたまま、振るわれるサーベルをすんでのところでかわしていた。

 と、そこで今まで攻め続けていたダリア。彼女の斬撃が唐突にやむ。

 次の瞬間には、体を開いて横に体軸をズラしていた。


「!」


 セーラの目がわずかに開かれる。

 その延長上には、大きな方針をこちらに向けるもう一人・リードアの姿が。


「『覚醒』…………『ラーファ』」


 ドカンッ!!!

 派手な音を立ててリードアの銃口が火を噴いた。高エネルギーな魔導の塊が飛び出す。


「っとと、こりゃあいかん……!」


 セーラは体を捌いた。肩口をかすめた弾丸はそのまま直進。船の柵を破壊すると、なおも威力と速度が止まらず。

 やがて空中で爆発した。重たい音と緑色の魔導の残滓がそこらじゅうに降り注ぐ。


「…………」


 俺はぽかんとその様子を見つめていた。


「………………はい? な、なんだあの威力」


「直撃したら死にますねえ」


 ソラさんは世間話でもするかのように言葉を紡ぐ。いやいやいやいや!! なんつー威力だ。

 あれも精霊の力なのか? そりゃあ、なんとなくすごそうだとは思ってたけどさ、まさかここまでとは。

 というかあんなもん人間一人にぶっ放すか普通!? オーバーキルにもほどが……


 ガキン!

 そこまで考えた時だ。俺はハッとしてセーラを見た。

 彼女が避けた地点を先回りしたダリアが、刺突を放ったのだ。セーラは体を回転させて剣の鞘でそれを払うと、この段階で初めて彼女が動いた。


「めんどくせえなあ、飛び道具は」


 地を蹴る。ダリアとすれ違うと、そのまま一気に距離を潰してリードアの方へと殺到した。

 どういう意図なのかは俺にも理解できる。『リロード』の隙を狙いに行ったんだ。さっきソラさんも狙われかけていた。銃使いと戦う時の最も基本的な立ち回りである(というのを俺は前に如月に聞いたことがある)

 しかも相手はバズーカ砲。一発一発再装填しなきゃならないだろう。ちょうどいい、行け! そのまま切っちまえ!


 だが、

 ガシャン! リードアは全く慌てる様子もなく、反動で跳ね上がった魔導銃を()()()()下ろす。

 リロードせずにセーラに銃口を向けた。思いがけない動作に、セーラの動作が一瞬止まる。


「『ラーファ』は『速射』の理を司る精霊だ」


 リードアは言った。


()()()()()()()()()を」











「     喰     ら     え     」











「!? よせ!! やめろ!!」


 えっ?

 悲鳴にも似た必死な声色。

 その声を紡いだのはセーラではなく、ダリアであった。


「『剣将』の得物は……!!!」


***


 お、おいおい!!? 連射できるバズーカだと!? 反則だろそんなもん。

 そういや先ほど乱戦になっていた時やたらとデカい弾丸が見え隠れしていたが、あれを撃っていたのはこいつだったのか。

 いやいや、これはまずい。まずすぎじゃね!? 俺は慌てて神剣を掴む。

 ちょ、あ、ま、間に合わない!!!!????

 最後に俺が見た光景は、リードアが引き金を引き魔導銃から再び強力な弾丸が放たれるのと、

 剣を完全に抜刀しようとするセーラ。二人の姿が交錯するように同時に展開しており、瞬間、隣でソラさんが息を飲むのがわかった。






 ド  カ  ン  ! !






 一瞬の攻防。耳障りな銃声が炸裂した。

 いや、攻攻というべきか。どちらも防御は行っていない。互いが全力で相手を狙っていた。

 剣と銃。剣と魔導。

 普通ならば後者に分があるだろう。如月が言っていた。実銃より魔導銃の方が厄介だ、と。

 理由は魔導には()()()()からである。炎や水のように、絶えずゆらゆらと揺らめき実態を掴ませない。

 エネルギーの塊だからこそ、対処に困るんだ。……らしい。


 つまり、相手の攻撃を剣士であるセーラは絶対にかわさなければならないのだ。

 だが、彼女が取った行動はそれとは真逆。すなわち、()()()()()

 逃げも隠れもせず、正面からリードアに斬りかかる。







「     お     前     が     な     」






 キ  ィ  ン  ! !







 剣客と銃士。

 二人の姿が交錯する。

ありがとうございました!

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