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その2 狙撃手と旧友

「あっはっは!! すげえな、何年ぶりだ? へぇー……大人になったなあ、まあ私もだけど」


 長身の女はセーラと名乗った。セーラ・レアレンシス。

 話を聞くに、ソラさんの旧友であるらしい。子供の頃の友達だそうで。


「まさかこんなところで会うとは思いませんでしたよ」


「ほんとだなあ、偶然っであるもんだな。あ、お仲間さんもこんにちは、ソラの幼馴染です」


 胡座をかいたまま、セーラは俺たちに向かって頭をさげる。あ、はいこちらこそ。

 それからまた嬉しそうに笑った。なんというか、豪放快活そうな人だな。あねご肌っていうんだろうか。

 どちらかというと物静かなソラさんとは対照的だ。


「セーラさんは銃使いじゃないんですね」


 俺は聞いてみた。ポケットから小さな水筒を取り出して、水を呑みかけていたセーラはその手を止める。


「おう。昔から私はからっきし飛び道具はダメでなあ、結局剣こっちにしちまった」


 言いながら傍に置いた剣を叩く。かちゃんという小さな音は、まるで主人の隣に鎮座した番犬のようだった。

 薄い金色の鞘に収められた、一振りの反りのない長剣。使い手であるセーラが長身だからか、剣の方も普通のより長いようだ。刃渡だけで1m以上、全長まで入れると1m30cmくらいかな……?

 んで当然刀剣類になれば俺たちより詳しい奴がいるわけで。

 うちの用心棒の剣士は車の上から身を乗り出した。


「大業物だな、それ」


 如月はいう。


「ん? おお、あんたも剣士か。って、珍しい格好だな。極東から来たのか」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 彼女は続けた。


 その瞬間、如月の形の良い眉がピクリと動いた。

 自分と似たような和服の剣士を知っているから――――『ではない』。

 たんと一蹴りして地面に降り立つと、彼女は尋ねた。


「……やはり、もしやと持っていたんだが」

「激しい動きを阻害しない、道義のような伝統的な衣服……。おまけにその上から羽織った強靭な布でできた外套……それ、剣装けんそうだな」


 今度はセーラの眉が動く番であった。「へえ……」


「剣装を知ってんのか。あん? もしや入隊希望者か?」


 如月は首を振る。「いいや」 だが、御主らのことはよく知っている。

 俺とソラはお互い顔を見合わせた。如月とセーラは初対面。しかし如月はその存在については既知と。

 俺たちが頭に疑問符を浮かべていることに気づいたのだろう。セーラは自分たちの組織の名前を述べた。


「えっ!?」


「あなたが?」


「おう。なんだ……ソラ、知らなかったのかよ」
















 ―――――――――――――剣征会
















「私はそこ所属だ。つっても最近入ったんだけどな」


***


 ()()()()()()()行ったんだ。


 それから歩きながら、セーラは解説する。主に如月が熱心に話を聞いており、彼女が時折質問するおかげで大体話が飲み込めた。

 『ぬし』がゼータポリスで言っていたな。剣征会けんせいかい。ハオルチア大陸の、ちょうどゼータポリス以東に存在する自警団。

 なんでも大剣豪の集まりだというじゃないか。セーラはごく最近そこに所属し、そして剣征会の制度や規律を一度改革したというのだ。

 こうして無所属の土地までわざわざ遠出しているのも、その名残である。元来剣征会の連中は踏ん反り返っていてなかなかその重い腰を上げないが、彼女の場合進んで調査・警備を行うと。


「〝真打ち〟」


 如月は言った。


「剣征会を構成するうち、最上位七人の剣士をそう呼ぶそうじゃないか。御主は……」


「か、そこまで知ってんのか。そうだよ、私は真打ちだ。そこいらじゃ……」


『剣将さま!! 全方位の散策終わりました』


 と、そこで割って入る人間がいた。先ほどの門番と似たような格好をしている。

 やけに緊張した面持ちで、セーラに最高敬礼を行っていた。

 彼女は「おう」と短く返す。それから警備は俺たちの方に視線をよこしたが、また横から彼女が言った。「客だよ。怪しいもんじゃない」

 失礼しました! 警備が声を上げて、他のものになにやら指示を出す。


「……そういえばこの辺に」


 ソラさんが言う。そう、俺も同じことを思っていた。

 国があるはずだ。ちょうどゼータポリスからまっすぐ行ったところ。中規模な商業国家『デランド』。

 交易の盛んな国で、いろいろ備品を買い揃えようと思ったところである。

 地図によるとそろそろ草原を抜ける……はずだ。ところが、行けども行けども。


「そうか、お前らデランドに来るんだったのか。そりゃあちと、タイミングが悪かったな」


 セーラはいう。タイミング?


「ってどういう……」


「百聞は一見になんとやらだ。見てみな」


 先頭を歩く彼女は立ち止まり、顎で前方をしゃくった。

 俺とソラさんは視線をそちらに移す。

 大きな国壁。開け放たれたそこからは人々の喧騒が聞こえ、昼下がりだからであろう。穏やかさの中に活気が伝わって来る。高い建物も幾つか見え隠れしていた。


 ―――――――――――――と、いうことはない。


「な……………」


「なんだこりゃ……………」


 俺たちは、一様に同じ反応をした。


 『無い』のだ。

 なにも無い。本来国があるはずであろうそこには、なにも、なに一つ無い。


 代わりに『無』があった。

 一面白色―――――――――――――広がる『無』。


「……つい数日前さ。『じゃれ』が通ったんだ」


 セーラは俺たちの隣で言った。 


***


 『移動する災厄』。


 『じゃれ』の異名である。いや、『異名』という表現はいささか語弊があるかもしれない。

 そもそも、名前をつけられるような存在なのだろうか。議論はそこから始めなければならないだろう。()()()()分からないのだから。


「四日ほど前にはな、デランドは存在したんだ」


 セーラはいう。


「だが、三日前。つまりそれから一日経ってみりゃこのざまだよ。数百万人いた国民も全員、一人残らず『消えて』る。建造物、木々、それから生息してた生き物やなんかも全部『無い』んだ」


「そ、そんなことが本当に……」


 起こりうるのか? そこまで紡ぎかけて、俺はやめた。

 起こりうるのだ。その証人は俺らである。地図上で確認しても、端末に座標を打ち込んでも間違いなくここがデランドと示されているのだ。

 ソラさんもこれには驚きを隠せないらしく、いつもより顔色が悪いような気がする。如月は……そういやこいつは一度『ぬし』に似たような光景を見せてもらったらしい。比較的落ち着いていた。


「地面が……いやに妙な感触だな」


 刀の鞘でコツコツと地面を叩く。硬い音がした。

 そう、硬質な音である。草原が広がっていた土と異なり、極端に硬い。

 それも大地のぬくもりを持った固さではなかった。冷え切った大理石のような、他者を拒絶する固さである。


『ああああ……そんな……』


 と、そこで啜り泣くような声が聞こえてきた。

 ん? なんだ……? 俺は振り返る。つられてセーラもそちらを見た。一人の女性が、腰を折ってその場にへたり込んでいた。

 自警団の警備がなだめている。だが、それにも落ち着かず、女性は崩れ落ちると号泣し始めた。


『ど、どうして!! 私の故郷を……!! 家族を……返して!! 返してよ!!』


 返して……悲鳴にも似たその声はしばらく響き渡っていた。


「……たまたま離れてたデランドの国民だ……」


 セーラは小さな声で俺たちに言った。


***


「で、毎回調査を?」


 ソラさんもかがんで地面の感触を確かめる。


「ああ、まあ後手に回ってるんだけどな。大陸警察と、それから一番近い国の自警団。あと、まあ人ごとじゃないんでな。剣征会うちらも参加させてもらった」


 セーラはぴぴぴぴと端末を操作していた。

 なるほど、先ほど俺らに絡んできた柄の悪い門番は曰く『一番近い国』の自警団であるらしい。


「もしもし? ああ、私だ。え? わーったよ、すぐ戻る!」


 何事かを二三話す。断片的に「他の連中は?」とか「マジかよ……ったく」とかため息まじりに聞こえてくる。

 その間俺たちは作戦会議。無論これからのことである。


「どうしましょうソラさん、このままじゃ……」


「ええ、困りましたね。まさか『じゃれ』とニアピンするとは………主の言葉では、地下の国『アンダー』の方にいると言っていたので、こっちの方向は大丈夫と思ったんですけど……」


 まさかまさかである。

 というか危なかったかもしれない。そう、むしろラッキーと言うべきだろう。

 ()()()()()デランドに着いていたら……俺たちも消滅してしまっていたかもしれない。

 そう考えると……おお、背筋が少し寒くなる。


「全く手がかりが無いということは本当みたいだな」


 すると、そこいらを散策していた如月が戻ってきた。


「何もわからないそうだ。本当になにも。そもそもじゃれが通った後はこのような白一色になるなら、それを辿ればある程度ルートがわかるのではないかと思ったのだがな。

 ところどころ途切れて出現が断片的な上に、その規則性も全くわからない。『移動』という言葉も便宜上用いているだけだそうだ」


 もはや、じゃれは『概念』。

 存在するということを抽出しただけの、形も目的も持たない事象そのもの。


「と、言われている」


 ……やべえ。

 なんというか、気味が悪いな。めちゃめちゃ極悪な盗賊が荒らしていったとかの方がまだマシな気がする。

 目的が明確だからだ。略奪なら略奪。破壊なら破壊。理由がわかっていれば対処もできるし、策を講じることもできる。情報交換も可能だ。

 だが、これでは……


 目的も不明。


 方法も不明。


 素性も不明。


 そもそも生き物なのかなんなのか分からない。


 どこの場所からやってきたのかも、


 そして、これからどこへ行くのかも不明。


 なぜ? 誰が? なんのために? 


 一切が、すべて謎に包まれている。


「おい、なんだそんな深刻な顔して」


 電話をかけ終えたセーラが戻ってきた。

 いやそりゃあ深刻な顔するさ。うーむ行くあてが……すると、彼女は言う。


「そうだ、お前ら、うちの国に来ないか?」


「え?」


「連れてってやるよ。精霊国家『エレメンタリア』」


 名前くらいは聞いたことないか? 無いかなあ。

 セーラはそう言って笑った。

祝2000ポイント突破


皆さんほんとありがとうございます!

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