その52 狙撃手と決戦9
「君は……落ちこぼれだろう」
「あん?」
ノア内部。
くっそー……この空間、重力を操る『D4』グラ。こいつが有利なように設定されてやがる。
周囲に転がる多種多様な物体。ごつごつとした鉄の塊から、誰が使うんだというような巨大な剣まで。
こんなもんを浮かせてブンブン振り回されたらたまったもんじゃねーや。こりゃあ不利だぞ。
「見てるとわかるんだよねえ、人間にも二種類あるじゃないか。何をやってもダメなのと、その逆。エリートっていうのかい」
君は間違いなく前者だね。
返す言葉もございません。俺は黙っていた。
「そういう人間は、邪魔なんだよ。国が衰退してしまう。だからだ、『方舟計画』は」
「そいつらを殺すためにあるっていうのかい」
なるほどそういうことか。ようやっと理解することができた。
『優秀な遺伝子だけ残す』と言っていたな。グラはこっくりと頷く。
「そうだ。ダメ人間はエリートの足を引っ張るからね。生きていても何も意味がない。死んで初めて人の役に立つってのもおかしな話だ」
そうは思わないかい。
言いながらふわふわと周囲の巨剣、巨石を浮かせる。
「だからそれを私が手伝ってあげようというんだよ。さて、反論はあるかい、人間さん」
「…………」
俺は無言だった。うーむ、こいつのいうこと一言一言がぐさっとくる。
そうだ。俺は落ちこぼれだ。落ちこぼれの出来損ないだ。前世では目の前のこの機械のいうダメ人間ってのを素で体現していた。
今は……まあ分からない。いや、多分ダメ人間なんだろうな。ソラさんのように聡明でなんでもできるわけでもなければ、如月のように剣の腕が立つというわけでもない。
「ああ、そうだな」
だからだ。俺は相手の言葉に頷いた。
小さく言うと、それから拳をぐっと握り込む。その様子を見たグラは、口元を押さえて堪らず吹き出した。
「悔しいか。ダメ人間でも一丁前の感情はあるんだな。でもダメだ、お前はここで死ぬのだから」
「そうかよ」
「なんだい、反論しようってのかい。正義の味方きどりで、ご高説を垂れてみるか?」
「………いいや」
「はっはっは!! そうだよなあ、結局、実力がものを言うんだ。いくら口が立とうと、結果を出さなけりゃ同じことさ」
またもや俺は無言だった。
ただ無言で、一歩歩みを進める。自分と相手の距離がほんのわずかに縮んだ。
反論するつもりなんて、ない。
そりゃあ意見はいくらでもあるさ。人権が云々(うんぬん)、とか、人の命は大切にしなければならないとか(殺し屋手伝いの俺がこれ言うのはちと無理があるかな)
助け合えばダメ人間でも生きていけるだの、綺麗な正論はいくらでもぶつけることができる。
が、
言わなかった、俺は。
言ったところでこいつらには伝わらないだろうから。
言ったところで、ダメ人間の気持ちなんてわからないだろうから。
だから、
ゆえに、俺は………
「―――――――――――――実力がものを言うと言ったな」
結果で『反論』することにする。
「………?」
「俺は確かに落ちこぼれさ。でもさあ、お前に一つ言っておく」
そのときのD4の顔は、俺は忘れられなかった。
『あっけにとられた』という表現がここまで似合う表情は、多分未来永劫ないんじゃなかろうか。
多分相手は思ってもみなかったんだろうさ。そう、俺の能力。
時間操作。
攻撃される前に使用すれば、例え相手が超広範囲の重力を操作しようとも、付け入る隙がある。
三十秒ほど。
相手にとっては失われ、俺にとっては追加された時間。その停止した時計の針の中で、俺は相手を十字に切り込んだ。
この点は相手が機械でよかったと思う。生身の人間ならば殺しに関してど素人な俺はどうにも抵抗があるのだが、
生命を持たないロボットなら、容易に切り込むことができた。そうでなくたってこいつは根性がねじ曲がってる。一度叩き直してやろうじゃあないか。
「な…………!!!」
俺は相手の背後で、振り向かずにヒュンと剣を振った。
こういうのなんていうんだっけ、あ、そうそう残心か。如月がいつも稽古のときやってる。
「ぐ、ぐふっ………馬鹿な……!!! そんな………!!! 私が………」
「一つだけ、最後に教えといてやるよD4」
耳をつんざくような金切り声。
大絶叫の相手の悲鳴、崩れ落ちるその姿を見ずに、俺は言った。
「―――――――――――――落ちこぼれを、舐めるな」
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