その50 狙撃手と決戦7
ガキンッ!
つばぜり合いが解除される。
ガクが大きく距離をとると、ニコルもまた一歩後退した。
感触を確かめるように一度長剣を振る。
「さぁて、銀色のスナイパー。約束守ってくれるわね」
「ええ、『主』の情報でよければ。いくらでもお話ししましょう」
「もともと潜入捜査の利害も一致しているわけだし、願っても無いことだわ。あとは……」
あいつを倒せばいいのね。
ニコルの金色の瞳がD4に向けられた。
私は少し離れて、遠巻きに二人を見守っている。
いや、見守るといえば語弊があるかも知れなかった。両の手には拳銃。援軍が来た場合サポートできるようにしているのだ。
もっとも、殺る気満々の彼女を見ていれば、とてもそんな補助など必要ないかも知れないが。
事情を飲み込んだらしい。
私たちの会話を聞いていたD4は合点がいったと言うようにうなずく。
「はぁ……大陸警察の剣士さんか。方舟計画のことが表沙汰にならないよう、ノアが情報統制してたんだけども」
「ええ。『大陸警察には』通ってないわよ。闇ギルドの方から嗅ぎつけたの」
あっちには優秀な情報屋がうようよしているから。
ダン! 地面を蹴ってニコルは駆け出す。再び長剣が翻ると、右斜め下からの切り上げが少女に向けられた。
ガキンと刃と刃が合わさる音。寝かされた短刀が剣を止めたのだ。ニコルが剣を退ける前に、スッと額の手が重なる。それから彼女はわずかに顔をしかめた。
「なんだ、あんた傭兵か。大陸警察の幹部かと思ったら」
地面を蹴って後ろに飛ぶ。金属で構成されているらしいが、それにしたって結構身軽だな。
「冗談じゃないわ。私は下っ端よ。そもそも末端の方が動きやす……!」
追撃をかけようとしたニコルは、ところが中途で立ち止まる。
「……?」いぶかしむ私だったが、ところがすぐにその理由はわかった。
「反演算―――――――――――――『抵抗』」
そら、もう剣は効かない
「……やられましたね」
カチン、私はリボルバーの撃鉄を起こす。
D4はゆっくりと手のひらを拡げた。横一線の小さな切り込み。一筋の血…いや、血ではないか。
オイルのようなものがドロリと垂れた。
ニコルは忌々しそうに長剣を振る。刃についたわずかなオイルを振り飛ばした。
「鍔迫り合いの時剣を握ったのかしら。素早いこと」
「ご名答。これで銃にくわえて、斬撃も無効化したぞ」
ニヤリと彼女は笑う。なるほど、ニコルの言葉の通りだ。
先ほどの一瞬刃と刃がある交錯した瞬間、ガクは相手の刃に自分から触りに行ったらしい。
わずかでも切り傷を作ればそれでもう『抵抗』することはできるということか。
「それだけじゃないよ」
ガクはゆらゆらと首を振った。
「抵抗の真髄はその応用力さ。考えてごらん、剣撃と銃撃が効かないほどの、身体的特徴抵抗力」
力学的に私を倒すことはもう、不可能だよ。
ガキンッッ!!
切り込んだニコルの剣を、ガクは防がない。受け太刀しようともしないし、その場から全く動かなかった。
ただ棒立ちしているだけであるが、全くの無傷。刃は首筋あたりにあたったが、傷一つ付いていない。
「なあるほど、すごいわ。めちゃめちゃ硬いってことかしら」
「硬いだけじゃないさ。魔導剣、属性剣、ありとあらゆる剣の攻撃が効かなくなる。もちろん、銃もだ」
背後から狙いをつけていた私に向けられた言葉だ。ち、バレていたか。
「さあて、こっちの番だよ。えいやっと!」
再び甲高い金属音。
高速で振るわれた短刀をすんでのところで躱すと、そのまま数度打ち合う。
流れるような斬撃に頬を薄く切られると、ニコルは顔をしかめて真後ろに飛んだ。
「はぁ、しようがない」
ゆっくりとそのまま切っ先を下す。
おそらくこの場で斬り合っている誰もがそう思うだろう。『打つ手がない』と。
私自身も、その一人だった。当然ながらその劣勢を、ガクが……D4が無視するはずはない。
「逃がさないよ。悪いけど、君らは全員殺す」
短刀の血をぺろりと舐めとる。もうじきその刃が、もっともっと多量の血に染められると、少なくとも彼女は思っているに違いなかった。
半分勝利を確信しているように見えるし、事実としてその動向は間違っていない。
超硬度の体。斬撃が効かず、銃撃も全く無効化されるその身体を目の前にして、
ところが、だ。ニコルは背を向けた。別に狼狽する様子もなく、策を講じる様子もなく、ただ淡々としている。
剣が効かないというのに、自分の武器が破壊されたに等しいにもかかわらず、その反応だ。
それから彼女は大きく息を吸うと、面倒臭そうに頭を掻いた。
「やめた!!」
「は?」
思わずガクの足が止まる。
ニコルは首だけで振り返ると、これまた手持ち無沙汰にポケットに手を入れた。
「やーよ。斬っても斬っても斬れない相手と戦うなんてお断りだわ。ねえ銀色のスナイパー、あいつを倒せばいいんでしょう?
私が戦わなくてもいいわよね?」
私は頷く。
「それなら、もう勝負はついてるわ。私の勝ちよ。ねえ、機械さん、質問」
カチリ、ニコルは鞘に剣をしまう。
「私はどうやってゼータポリスに侵入したでしょう?」
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