その48 狙撃手と決戦5
『主』の殺気が…………。
私にとっては感じ慣れたものだ。そして幾分か懐かしくもある。
ゼータポリス全体に吹き抜けるかのような、重く重い、濃密な闘気。最後にこの気を感じたのはもうどのくらい前だろうか。
思わず『反応』しそうになる。無意識的にポケットに突っ込んだ片手は、隠した拳銃のグリップを握っていた。
私の銀髪が夜の風に揺れた。長いそれを片手で防ぐと、毛先が目に入りちょっと痛む。
なるほど、どうやら約束は果たしてくれたようだ。多少なりともああやって脅してみたが、効果はあったらしい。
あとは私か。ライフルを解体してケースにしまうと、早足に廃ビルから降りる。ちょうど入り口から降りたところで、目の前に人影。
私は足を止めた。
ふむ、予想より少し早いな。しかし、概ねその予想は当たりではある。
人影はこちらを見ていた。それからニィッと口角を上げると、私に言葉を紡ぐ。
「あの剣士の仲間だね。どうもこんばんは」
「……『D4』ですか」
初めまして。
なびく銀髪を耳にかけると、私はいう。ふうむ、『プログラム』と聞いていたが、こうしてみるとほとんど生身の人間と変わらない。
一人の少女だった。大きな鳶色の瞳、清楚な白い服を身につけている。あそびの多い緩やかな服装だ。その裾がゆらゆらと揺れていた。
少女は後方を見た。その遥か遠く、視線の先にはむき出しとなった『ノア』が存在している。
今は真夜中であるため静かだが、日中だったら大騒ぎになっているかもしれない。
再び振り返ると、少女はノアの天頂を指差した。
「よくもバリア中枢を撃ち抜いてくれたなぁ! というか、あんな小さなもんよく狙い打ったな」
「それはどうも。狙撃は得意なんですよ、私」
言いながら考える。今おそらくエクスさんはノアに乗り込んだ頃であろう。つまるところおそらく、内部を守っている『D4』と戦っているはず。
加えて、この殺気の本流。主もまた同様だ。彼の実力から考えて一気に二体以上を相手にしている可能性が高い。
となると、目の前のこのD4が最後か。4体目だ。
「まあ、この距離だとその凄腕も使えないんだろうけど。スナイパーを仕留めるのは初めてだなぁ、考えてみると」
『ガク』。
服に小さく記された型。ふむ、これだけではどういう戦闘方法なのかわからない。
「悪いけど、君は選ばれなかったんだ。だから方舟に乗ることはできない」
まあ、いいか。
「だからこの場で」ドンッ☆
響き渡る銃声。
一瞬銃口から吹き上がった火花が周囲を明るく照らす。
のもつかの間。次の瞬間には鋼鉄の弾丸が相手の額にめり込んでおり、私の左手のリボルバーは白煙を上げていた。
「は?」
「お話の途中ごめんなさい。あまりにも隙だらけだったもので」
確かに私はスナイパーだ。だが、狙撃しかできないと思われているのだろうか。
だとしたらまったく失礼な話。銃術家のたしなみとでも言おうか、一通りの射撃技術は身につけている。
それこそ、今のような『コートの内側に隠し持った拳銃を、相手に悟られないよう抜く』ことくらいなら、くっちゃべりながらでもできる。
しかし、
「………はは」
「……?」 メタルフレームの奥の私の瞳が、わずかに揺らぐ。
様子がおかしい。確かに眉間を撃ち抜いたはず。なのに倒れ伏した相手からは、全く笑い声が消えない。
「あら、頭を撃ち抜いても死なないんですか。少なくとも行動不能にくらいなると思ったんですけども」
「いいや、効いたよ。バランス中枢がちょっとバグっちまった。
ひひひひひひ……ただなあ、スナイパーさん。相手が悪かったね……」
―――――――――――――反演算、『抵抗』
もう銃撃は効かないよ
言いながら、ゆっくりと立ち上がる。
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