その35 狙撃手と注射
「間違いないです。先ほどからノアが送り込んだ防衛プログラムは17体……その全て撃破されています」
クークが言う。17体!? しかも全部C級だという。いやうっそだろおい。そういえば……如月をしてかなりの使い手と言わしめていたな。
だからこそ、ノアは『脅威』と断定したんだろう。
D4がうろうろしているのは、件の人物がノア本体へと危害を加えないようにするためだ。それにしても……この男の目的はなんなんだろう。
なにかノアの逆鱗に触れるようなこと……つまり防御プログラムを投入されるようなことをしたんだろうか。
と、俺はここで気になることがあった。
「なあ、ちょっと質問があるんだが、さっきから『ノア』って言ってるけどさ、それってどこにあるんだ?」
尋ねる。
そう、肝心なことが見えていないじゃないか。統括コンピュータ『ノア』。この国の全てにして、今回の騒動の元凶。
後三日でことを丸く収めないと全ての人間が殺されてしまうという『方舟計画』の首謀。その本体の所在である。
「それは……」
クークはわずかに言葉を濁した。ルアとなにか深刻気に視線を合わせる。
それから頷くと、コンピュータを操作し始めた。通風孔からの風で綺麗な翡翠色の髪が揺れる。
モニターが切り替わると、彼女は脇に引いた。
「こちらにあります。区画Aのちょうど中央。ゼータポリスのちょうど真ん中ですね」
「え?」 「ん?」
「形はタワー型。全てに満遍なく監視の目と干渉の手を張り巡らせるよう、ゼータポリスで最も大きな建築物となっています」
「いやいや、ちょっと待ってくれ。え……? ここに写ってるの? ノアが?」
クークは俺たちを深刻そうに見る。
如月も俺もぽかんとしていた。そう、如月もおそらく俺と同じなんだろう。ということは俺の見間違いじゃあないな。
「塔などどこにも映っていないではないか。街並みだけだ」
そう、
モニターは確かにA区画を写している。人々が歩いているし、ロボットも動作していた。
ところが、だ。タワーなんて全く見えない。
高い建物は国の特徴上並んでいるが、少なくとも『ゼータポリスで一番高い』と言わしめるほどの建造物は、全くと言っていいほど見て取ることができなかった。
「やはり……『認識できません』か」
「どういうことなんだ一体。御主らには見えるのか?」
如月は周囲の人間に聞く。首を横を縦にふるものがほとんどで、数人が俺たちのような反応をしていた。
「………これが、厄介なところなんです。外部からやってきた人間はノアを見ることができません。私たちが言わない限り存在すら知覚できないのです」
「ええ……? なんで?」
「入国する際に、注射をお受けになりましたよね? 伝染病検閲の」
俺と如月は頷く。
「あれが原因です。中に特殊な薬剤が混ざっていまして……ノアが繰り出す電波と合わせると一切見ることができなくなってしまうのです」
なんだそりゃ!? まじかよ。
なんでも俺たちのように外から戦える人間が襲来することを防ぐためらしい。なるほど見えなければ攻撃も何もないわな。
ゼータポリスに永住する人間は見ることができるというが……。
ごく一部、戦闘能力の高いとノアが認識している人間は(正確にはC級防御プログラムと対峙して戦えるか否か)、同様の理由で見ることができない。
健康診断その他、投薬する理由はたくさんあるわけで。ってことは俺たちは戦おうにもどうしようもないじゃないか。
「そこが問題なのです。ノアを壊すには、ルアが持ってるウイルスをノアのコアに打ち込まないといけません。ですが、見えなければそれも……」
クークは悔しそうに唇を噛んだ。すごいなノアって、うーむこう考えると全く手のうちようがないように思える。
だが、俺は少し考えた。クークの話をもう一度思い出す。薬と電波のコンビネーションで、俺たちはノアを見ることができないわけだ。
薬をなんとかして取り出すことができればいいが、まずそれは不可能だろう。ここには簡単な治療薬くらいしかないようだし。
となると、取っつきやすいのは電波の方だ。俺はクークに尋ねた。
「その電波はどこから出てるんだ?」
「この……ちょうど一番上です。あ、見えませんよね。ええと、つまりタワーの最上段になります」
ふむふむ、つまりてっぺんか。クークはモニターの画像を切り替えた。
当然ながら全く見えない。本来そこにあるんだろうけれども。
うーむこいつをぶっ壊せれば、とりあえず俺たちもノアを視認できる。そうすればルアの持つコンピュータウイルスをなんとかしてノアに流すことができるだろう。
クークの話によると最深部のマザーコンピュータにウイルス触れさせればいいらしいし。
すると、
その時である。
俺はふと思いつくことがあった。そうだ、こんなにいい方法があったじゃないか。どうして今まで気がつかなかったんだろう。
再びクークの方を向く。俺の言葉を聞くと、彼女は幾分か驚いた様子だったが、しかし頷いた。
「ええ、確かにノアのてっぺんを『狙撃』すれば電波を遮断することができますが……しかし、反乱軍の中にスナイパーはいません。
それに、いたとしても相当の腕前が必要ですよ。電波を出してる機械はとても小さいですから」
「それは大丈夫。一人、知ってるんですよ」
ほとんど同時に如月も顔を上げる。
俺を見るその表情、多分、同じ人間を思い浮かべてるんだろうな。正解だ。
そう、俺たちは知っている。
『注射を受けていない』かつ『凄腕のスナイパー』をな。
ありがとうございましたー!




