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魔人の狂想(51)


 51


 集中的に攻撃された跡の無数のクレーター。

 瓦礫の山中心に巨大なモンスターの死骸。

 そして、多くの怪我人を生み出したこの事件は、やがて王都から派遣されてきた騎士団や冒険者ギルドの関係者らの手によって、迅速に片付けられていった。

 お陰で以前から予定していたハロウィンパーティーは中止──とはならず、むしろ、あれだけの被害を出しておきながら、なぜか死人が出なかったことを祝うという名目で、事件がひと段落した一ヶ月後。ついに延期していたパーティーが開かれることとなった。


 ──街の中で最も被害の少なかった冒険者学校の敷地内で。


「えー、本日はお集まりくださり、誠にありがとうございます」


 第一アリーナに集められた参加者たちに向けて、冒険者学校の理事長にして冒険者学校テザリア支部の副部長ハーゲンが開幕の挨拶を始める。


 ちなみにこのハーゲンという男。

 髪型はスキンヘッド──つまりハゲだった。


 校長といえばハゲでヅラを被っているか、あるいは未練がましくバーコードにしているキャラを多く見かけるが、彼は正々堂々と頭を輝かせて喋っている。

 そういうところ、ちょっと好感持てると思う。

 まぁ、髪の毛の代わりに立派な髭が生えているのだけど。


 きっと、髪がふさふさだった頃は七三分けにしていたに違いない髭スタイルである。


「──というわけで、今回の騒動を収めた、三人の勇気ある少女達の言葉を以って、開会の挨拶としよう」


 チラリ、とハーゲン理事長の青い瞳が、舞台袖に控えていた俺たちの方へとスライドされる。


「あー、緊張するわぁ。

 うちこういうのほんま苦手やねんけど……」

「俺も……。

 なんか急にお腹痛くなってきたよ……」


 ぐでぇ、と力なく歩こうとする俺とロゼッタ。

 しかし、こういうところはさすが貴族生活で慣れているのか。アリスが二人の肩を持って、強制的に背筋を伸ばさせた。


「ほら、シャキッとしなさい二人とも。

 大事な場面なんだから」

「「はぁ〜い……」」


 そこまで言われては仕方ない。ロゼッタが気合を入れるべく頬を両手でパチンと叩くのを見て、俺は痛いのは嫌だからと掌にのの字を書いて飲み込むおまじないにした。


「それでは、優秀な我が校の生徒よ。

 一言、お願いしようかな?」


 ニッ、と笑って、マイクの様な魔道具をアリスに──ではなく、なぜか俺に手渡してくる。


「えっ、俺?」

「君が、このパーティのリーダーなのだろう?」

「あっいや、その、リーダーとかは、まだ、決めてないです、けど……」

「なら、チャンスだな。

 これを機に、リーダーの席を狙うといい」


 歯切れ悪くも言外に拒否しようとするも、しかしにこやかに笑いながら、ハーゲンは優しくマイクを俺の手に受け渡した。


 うぐぅ……。仕方あるまい、こうなったらもう自棄だ!


 期待する眼差しを前後から受けながら、台の上に立ち上がった。


 集まる視線が、痛い。


 思っているよりも多くの聴衆が、俺のことを値踏みする様な目でこちらを見てきている。


 自然と、弱い俺の心はきゅうと押しつぶされる様になって、脂汗が冷たく内臓を冷やしていく。


 ──けど。


「大丈夫よ、自信持ちなさい」

「こういう時はみんなジャガイモやって思ってやるんがコツって聞いたことあるで!」


 きゅっ、と、ローブの裾を握って応援してくれる二人の言葉に、幾分か心が軽くなる。


 そうだ。

 前置きの話は全部理事長が済ませてくれたんだ。

 だから俺はただ一言だけ、開幕の合図を叫べばいい。


「……っ!」


 大きく息を吸い込み、心で大きく一歩、前に踏み出した。


「それじゃあみんなっ、今日は楽しもうぜぇ!!」

「ワアアアアアアアアアアア!!!!!!」


 上がる歓声。

 拍手。

 ピューイッと、どこからか上がる指笛の音。

 やった、失敗しなかった!

 不安の汗に濡れた俺の顔は、今や安堵から満面の笑みに溢れていた。


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