魔人の狂想(44)
44
日曜日。
ロゼッタは俺たちのための武器を作る為に部屋に篭りっきりなので、今日は入試前のあの時以来の二人きりの時間となった。
「そういえばマーリン、あなた、あの時の約束ってまだ覚えてるかしら?」
朝食を済ませ、食堂の一角。今日は何をしようかと相談を始めたところで、ふと思い出したようにアリスが口を開いた。
ちなみに今日の服装は、お互い共に昨日買ったあの衣装を身につけている。
「約束? 何かしてたっけ?」
少し記憶を遡ってみるが、そういえば何かしたような気がしないでもない。しかし内容についてはほとんど覚えていなかった。
「もう、一度でいいから模擬戦をしましょうって言ってたじゃない!
ほら、フォルルテ先生が暴れたあのカフェで!」
「あ、あー……。そういえば、そんな約束もした……ような気がするな……」
ぼんやりと思い出してきたやり取りに、俺は苦い顔をした。
(そうだ、思い出してきた。
レベル六十相当のステータスの彼女と模擬戦しようって約束をしようとした時に、フォルルテ先生が突然暴れ始めて流れたんだっけ……。
あれ、受けたことになってたんだ……)
確か答えはまだ出していなかった気がするんだが、どうやらアリスの中ではそうなっていたらしい。
「んー、でもそれはどうせなら、ロゼッタから新しい武器を貰ってからにしないか?
それなら、武器の性能も試しながら互いの実力がはかれるしさ」
できるなら、《リフレクション》を力尽くでぶち破るような怪力とは手合わせしたくない俺は、そう言って話を逸らそうと試みる。
「それもそうだけど、でもやっぱり使い慣れた武器の方が、使い慣れない魔道具よりも力を出せると思うのよ。
それに、魔道具は使い慣れてなかったから、なんて言い訳されるのも、私嫌よ?」
「うぅ……」
どうにかして反論を試みようとするが、しかし上手い言葉が見当たらない。
俺は彼女に悟られないよう、心の中でため息を吐きながら、これについてはもう諦めるしかないと腹を括るのだった。
今日は早速昨日買ったあの『月梟のローブ』を着てきたというのに……。
これは、土で汚れる覚悟をしなきゃダメだな……。
(はぁ……)
そんなわけで、二人は今領から少し離れたところにある公園までやってきていた。
お互いの手に握っているのは、いずれも木剣。
ただし、彼女の持つ獲物の方が少し刃渡りが長い。
「手加減したら許さないわよ?」
「できるわけないだろ、剣はあんまり得意じゃないんだから」
まぁ、とはいえ、よく黄金の鍋亭に来ていた先輩冒険者のサーシャさんとは、剣の技術交流会をする程度には素の実力はある。
体力さえ続けば、そこそこ渡り合えると思いたい。
(出来るだけ攻撃は受けずに流して攻めよう。
多分、受けたら木剣が折れるし)
緊張で高鳴る心臓を、軽く深呼吸をして落ち着けさせる。
「私も手加減する気はないわ。
……それじゃ、そろそろ始めましょう」
彼女の言葉が終わるのと同時に、ガラリと雰囲気が変わる。熱く熱した、分厚い鋼のようなオーラに、一瞬気圧される。
どうやら、アリスは本当に本気らしい。
俺は両手で木剣を握りしめると、半身になって剣を中段に構える鋤の構えを取って応対する。
一方彼女の方は、剣先を後方に向けて腰溜めにする尾の構えだ。
──薄い桜色の唇が動く。
「いざ尋常に……始めッ!」




