魔人の狂想(43)
43
「それにしても、今日一日何も無かったなぁ」
寮の広い公衆浴場──ではなく、個室についているお風呂の湯船に浸かりながら、俺はぽつりと呟いた。
さすが、世界中に支部を持つ冒険者ギルドが運営しているだけのことはあって、この寮の設備は完璧で快適だ。
個室にはそれぞれ魔道具による水洗トイレとお風呂が完備されてあるし、空調用のエアコンも完備されている。
ゲーム時代、お金さえあればウィンドウから自分だけの家を購入することができたのだが、その時に配置できた家具類がここでもこんな風にして使われているのを思うと、いったいこの世界はどこまでゲームの世界を模倣しているんだと思えてくる。
ちなみに今はその機能は使えないようになっている。
ちくせう。
「パラノイアに関する情報は今日もゼロ。
襲われた人に関しても同じくゼロ。
捜査を一旦休止したからと言って、そんなすぐに何か見えてくるとは思っちゃいないけど……ここまで手がかりなしだとなんだか歯痒くなってくるな……」
なんとなくアイテムストレージのウィンドウを開いて、今日買ったもののリストをざーっと眺めていく。
ちなみに俺が今日買っていた服のアイテム名は『月梟のローブ』となっていた。
ちなみに装備時のステータス補正はINTが一割増強されて、最大MPが三百のプラス補正。
ついでに詠唱速度がプラス十パーセント……。
「……まあ、初期装備にしてはなかなか」
何より、INTの補正率が割合でプラスされているのがいい。なぜなら俺のINTのステータスが上がれば、自動的にこの装備によって補正されるINTの値も増えてくれるからだ。
装備の説明欄を閉じて、さらにスクロールする。
──と、そういえば今日返し忘れた、アリスとロゼッタの私服がストレージに残っているのを発見した。
なぜわかったかって?
アイテム名がそのまま『アリスの私服』と『ロゼッタの私服』だったからだ。
「……」
ふと、魔が刺す。
目の前に女の子の服が、脱ぎたての服がある。
そしてここには俺の他には誰もいない。
「いやいやいやいや、それは流石に、人としてダメだろ……」
女の子が脱いだ服に裸で抱きついて匂いを嗅いで、なんてことをしたくなる衝動を理性で抑える様に言い聞かせる。
しかしそんな理性とは真逆に、俺の指は『装備する』のボタンへと吸い寄せられていく。
「で、でもちょっとだけなら……。
濡れてもストレージに突っ込んだらすぐ乾くし……。
昨日、二人が部屋に泊まってったから日課もできなかったから……ちょっとだけ……先っちょだけ……」
──と、そこまで考えた時だった。
コンコンコン、とノックの音が聞こえ、俺は誰かさんでなければ見逃してしまいそうな素早さでウィンドウを閉じて湯船の中に一瞬で体を口元まで沈めた。
「マーリン、ちょっといいかしら?
今日着て行った服返してもらうの忘れていたから取りにきたのだけど」
「うちもおんでーっ!」
アリスとロゼッタの声だ。
どうやら二人で取りに来たらしい。
「う、うん!
今お風呂入ってるから、部屋で待ってて!
すぐ上がるから!」
(あ……っぶねぇ……!?
ギリギリセーフ……!!)
あと一歩遅かったら、きっと俺は超えてはいけない一線を超えていたに違いなかった。
それから俺は急いで体を拭いてパジャマへと着替えると、何もなかった風を装って二人の元へと向かうのだった。




