【53】アベル様の本当のお母さまに会いました。①
予定外に追加加筆しました。最終エピはズレそうです。
寒さ冷え込む2月。
既に結婚式の支度のピークは終わった頃。
「すこし、暖かい国へ婚前旅行に行きましょう……いえ、結婚はもうしてるんですが」
「婚前旅行! ……というか、そんな時間あるんですか?」
「私、実は闇魔法使いでして」
「それは存じ上げてますが。つまりテレポートですか。二人で行くんです?」
「まさか。部下にも何人か闇魔法属性がいますから。全員で繋ぎ繋ぎ連携して現地へ」
「闇属性便利!?」
「便利でしょう」
しかし、闇属性を何人か抱えてるっていうのが驚きだよ。
聖属性ほどではないけど、雇える身分の人間で闇属性ってなかなかいないはずなんだけど。
ミリウス家がすごいのか、アベル様がすごいのか……いや、後者に違いない。
――と、まあ。そんな軽い話題で始まって連れて行かれた暖かい国『カルディアラ王国』へ旅行へ行った訳です。
アベル様が仰っていたとおり、馬車を何度かテレポートさせる。
闇から出るたびに違う景色に出会う。
「(なんだか前世の新幹線トンネル思い出すな。耳はキーンってしないけど)」
ふと前世を思い出し、そんな感想を持つころには目的地に着いた。
**********
目的地につくと――。
「暖かい!?」
「暖かいでしょう。春より暑く、夏より涼しい、一年中過ごしやすい気温に恵まれた国なんですよ」
生えている木が図鑑でみた事はあるものの、実際に見たことない木が生えてる。
前世で言うとハワイっぽいイメージの国だなあ。
でもハワイと言っても、オフシーズンというか……涼しい時期? そんな感じ。
テレポートで出た場所は、カルディアラ王宮のすこし手前だった。
「じゃあ、早速ですが、王宮へ挨拶に参りましょう。そのあとは観光、2~3日ゆっくりしたら帰りましょう」
「はい……って、わあああ」
王宮の反対の遠方に、エメラルドのような色の海が見える。
前世でテレビや雑誌でしかみたことなかったやつだー!
行ってみたいな、と思いつつも行けたことがなかったエメラルド色の海があるぅ!
わ、わくてか!
「僕、あの海で泳ぎたい~」
私が美しい海に目を惹かれている横で、肩に乗ってたサメっちが、ヒレをパタパタして言った。
「いいですよ。じゃあ、一度海へいきましょうか」
「え、いいんですか!?」
「もちろんです。遊びに来たのですから。もともと行くつもりは、ありました。あなたの反応しだいで変更しようと思ってました」
「わーい!」
サメっちが空中で小躍りしている。そして私もそれに合わせて両手を小さく上下にパタパタさせた。
わ、わーい!
前世でも今生でも、こんな綺麗な海で、いままで遊んだことないよ!
スイカ割りとかしてみたーい! くそう、話通じる人がいな……
「スイカ割りしたいですううううう!!」
いたー!!!
傍らを見ると、リリィもキラキラした瞳で海を見ている。
「リリィ。スイカ割とは?」
アベル様が不思議そうにリリィに聞いた。
「あ、えっと。なにかこう固くて大きな果物を、目隠しして棒をもった人のうち誰が割れるか競うゲームです!!」
リリィ、説明うまいな!?
「ふむ。ああ。西瓜。そういったゲームも確かにありましたね」
この世にも西瓜割りあった!
「西瓜ならセバスさんが別荘のほうにご用意させていたはずです」
セバスの代わりに、旦那様の世話役でついてきたロニーが言う。
ロニーはリリィほど頻繁に顔を合わせなくなったのだけど、会う度に顔が大人びてきている。
言葉使いも、洗練されてきている。なんか、イケメンになってきたな……。
「ありがとう、ロニー。もう少し気を楽にしていいんだよ」
アベル様が、そう言ってロニーの頭を撫でた。
ロニーがすこし頬を赤くして、言った。
「いえ、私はセバスさんの代行ですので」
身のこなしといい、喋り方といい……。もはや孤児院生まれだとは思えない。
セバスに仕込みが効いている……!
騎士団のほうでも鍛えられてるんだろうなぁ。
以前よりも、体格が精悍になってきて顔つきも大人びてきている。
境遇の変化についていけるロニーは偉いな……。
昔、アベル様をテストしたセバスが目を付けたってことは、私が思ってた以上に優秀な子なのかも。
ロニーが一緒なのでリリーも嬉しそうだ。
いつも以上にテンション高いのがわかる。
良かったね、ふたりとも。
*****
そのあと、バタバタとホテルに荷物が運び込まれ、アベル様と私は身なりを整え直すと、すぐに王宮へと向かった。
謁見室に向かいながら眺めた王宮の造りは、私の住んでいた城とは全然違っていた。
天井が高いのは同じだが、そこに描かれた装飾は南国らしく鮮やかな貝殻や波をかたどったレリーフが施されている。
壁の一部には開放的なアーチが続き、その通路にはそよ風が流れ込み、海の香りがする。
床は磨き上げられた大理石で、ところどころに海の色を映すようなモザイクが埋め込まれている。
「(前世でもよく”ちょっと南の島へバカンスへ”って言葉をよく聞いたけど、まさにそれを思い浮かべるかんじだね)」
――異国の空気だ。
いくつものアーチをくぐり抜けて進むとやがて、謁見室に着いた。
白く大きな扉が、近衛兵によって開かれ目を伏せて玉座へと進む。
「よく参った。楽にせよ。アベル。そしてその妻アプリコット」
「ディフィルナ陛下にご挨拶申し上げます……」
「――初めまして、ディフィルナ陛下」
目の前には、アベル様に良く似た顔立ち、そして長い黒髪に翡翠のような瞳の女帝。
――親子だとよくわかる。アベル様の本当のお母様。
彼の母がディフィルナ陛下だと事前に話を聞いた時はびっくりした。
高貴なお方がお母様、というのは聞いていたけれど、まさか王族……しかも一国の女帝だったとは……。
というか、アベル様も最近知ったらしい。
結婚が決まったから、あなたにも話す時がきた、みたいな感じで義理の両親から話があったらしい。
「お前が、あそこの辺境伯になった我が子アベルか。なるほど、妾に似ておる……と、おお可愛らしいではないか。アプリコット。アベル、良き伴侶を得たな」
「ええ、よろしくお願い致します。ディフィルナ陛下」
「お褒めに預かり光栄です、ディフィルナ陛下……」
挨拶しながらも、ディフィルナ陛下の側にいる薄着な美男美女が気になる……!
ハーレムが法律で許されている国とは聞いていたけれど!
というか、同性も侍らせている!? 両方いける口ですか!? お義母さま!
こ、これは好色王というやつでは……!
「ほら、堅苦しくせんでええ。どれ、もっと近うよれ、アプリコット」
妖艶に微笑むディフィルナ陛下に手招きされる。
「……?」
は、はい?
「ディフィルナ陛下、おやめください。カルディアラ王国とはこっちは文化が異なります」
会ったばかりの母親にきっぱり言い放つアベル様。
毅然としてるぅ! 好き。
「つまらんのう。まあ良い良い。では、夕餉の席でまた会おう。妾もそろそろ仕事に戻るゆえ」
そして、ディフィルナ陛下もあっけらかんとしてらっしゃる方だなぁ。
助かるけど。
謁見というか、親子の対面はあっさり終わった。
察するに彼女にはアベル様のような子が他にも複数いて、慣れきっているのかもしれない。
その後、王宮をあちこち見学させてもらい、夜にはディフィルナ陛下と食事会をした。
しかし、食事中のディフィルナ陛下のもとへ、次々と公務の書類を抱えた臣下が訪れ、まともに会話にならなかった。
彼女はそのうち、とてもだるそうな顔つき――だんだんと無表情になっていった。
デジャブ……これはデジャブ! 私は隣のアベル様の顔を見つめた。
親子だ……似なくていいとこがとても似ている……!
アベルさまも、その様子をみて『わかる』という感じでたまに頷いていた。
「アベル様……私もあなたのお仕事を支えられる妻になりますね」
こっそりそう囁いたら、アベル様は、照れて苦笑した。ふふ。




