【32】 可愛いトゥルちゃん見て正気失うとか失礼でしょ。
――トゥルちゃん。
コウモリのような翼を持ち、頭は可愛いメンダコのような人体(?)人形。
全身緑色で覆われたその皮膚はまるで藻に覆われた樹木のよう。美しい。
そしてその頭部から生えた無数の長い軟体チックなまるでタコ足は、なめらかにうねっている。
口からは吐息の度に、黒い瘴気があふれて、なんかかっこいい。
あ、ひょっとしてこの瘴気でみんなおかしくなってるのかな?
私は平気なんだけども。
トゥルちゃんは、王都の魔法ショップで飾られていた人形を私が気に入って購入したものだ。
名前はもともと決まっていたらしく、店主にトゥルです、と言われた。
名前は変えないでくださいって言われたけど、可愛いからそんな必要ないって思った。
そんなトゥルちゃんを見て、全員が這いつくばったり、腰を抜かして動けなくなった。
あれ。これからトゥルちゃんにぶっ飛ばしてもらったり拘束してもらおうと思ったのに……。
こういう個室連れ込みの罠の時、私はいつもトゥルちゃんに頼っている。
何故かトゥルちゃんを起こしただけで、みんな正気を失ってこうなる。
多分トゥルちゃんのパッシブでデバフ……技能なのかな?
トゥルちゃん、可愛いし、そうでもないと、この様子はおかしすぎる。
それにしても、やりあう前から試合終了ですか?
情けない人たちですね。
トゥルちゃんが、親睦を深めようと、にっこり(かどうかは人によります)微笑んでアイツラに近寄ろうとすると――。
「いああああ、いあ、いあ、ばけものおおおおおおおおお!!」
「あああああああああ!!! ぐる゙な゙あ゙あああああ!!」
「ちょっと失礼ですよ、トゥルちゃんは繊細なんだから」
私はお行儀よくソファに座ったまま、私に伸びてきたトゥルちゃんのタコ足を撫でてあげた。よちよち。
「フーーーーーーー;; あぷりこっちょ、あぷりこっちょ……」
トゥルちゃんが悲しそうな吐息をもらした。多分泣いてる、可哀想に。
あぷりこっちょ、あぷりこっちょって、トゥルちゃんの私を呼ぶ声が可愛い。よちよち。
こんなに可愛いトゥルちゃんを見て正気を失って固まるなんておかしな人達。
でもまあ――都合はいい。
「トゥルちゃん、そこのお茶を、そこの二人に飲ませてあげて」
「……(コク)」
トゥルちゃんは、顔から生えた軟体動物のような何本もの足を伸ばしてティーカップを取り、その他の足で、リドリーとシークリッドを捉えた。
「な……!? いああああ!?」
「いあ、いああああ!?」
「なぜそんなに恐怖して発狂してるの? 大変そうね? ちょうどよかったわ。二人共このお茶飲みなさいよ? 良い気分になれるんでしょ?」
「え!? いえ、そのお茶は」
「や、やめろ……ごふぅ」
トゥルちゃんが、シーグリッドとリドリーの二人にカップのお茶を半分ずつ飲ませる。
まるで、小さな女の子がおままごとで、人形にお茶を飲ませてるみたい。微笑ましい。
多分、企画リーダーはこの二人だから、お茶を飲ませるのは、この二人だけでいいか。
仲良く半分こしな!
「あ……なんだか、体が熱く……」
「うう……ぅ」
企画リーダー二人の目が合って、ハッとする。
私は、このタイミングで黒いクマのぬいぐるみ、ネロを、起こした。
ネロは凶暴で怪力である。
「ネロ、そこの壁をぶち抜いて」
ネロがその怪力で壁をぶち抜く。
轟音と土煙が、その場に響き立ちこめる。
――カーテンは閉めてあったけど、パーティ会場からバッチリよく見える部屋だったようだ。
「トゥルちゃん、その二人を解放して、もどってちょうだい」
「フーーーー」
トゥルちゃんが、二人を解放すると。
シーグリッドとリドリーは惹かれ合うように、フラフラとお互い抱きついて――。
土煙が収まるころには、パーティ会場から丸見え状態で二人――深いキスをしていた。
……あとはお若いお二人でどうぞ。
私は私で来賓客に姿を見られる前にその場をあとにした。
パーティ会場はすぐに大騒ぎとなった。
危うく、二人がお互いの衣服を脱がしかけた時、シーグリッドの父親であるフェイン伯爵が乱入し、リドリーを殴り飛ばし、シーグリッドをその場から連れ出した。
しかしながら、二人のその破廉恥な姿は、その場にいた大勢の来賓にバッチリ見られてしまっていた。
……やり過ぎではあるかなあ、と思ったけれど、ああいう輩は、徹底的に息の根を止めておかないと後からずっとネチネチ何かしてくるからね。
私にプレゼントしてくれようとしたその醜聞、受け取り拒否でお返ししますね。
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