【29-2】相手によって見せる顔は違うモノ。
「おお、そうでしたな!! どうぞアベル閣下をよろしくお願いします」
「大丈夫ですよ、リコは十分以上に私の支えとなってくれています。ね?」
そう言ってアベル様は、また私の頬にキスをした。
「は、はは、はい」
そ、そう。そうそう。
これは仲睦まじいところを見せる為なのであって、演技なのである。がんばろう。
私はニッコリして彼を見つめた。
愛し合っているように見えるだろうか。
「……あ、あはは、これは大変失礼な話題をしてしまいましたなぁ! そうだ、ミリウス閣下、例の公共事業の話なんですが――」
ナポレーヌ、話題変えよった。
「ああ、それは――」
アベル様もその話題に乗った。
恐らく話したかった事なんだろう。顔が真剣だ。
「しかし、今は妻がおりますのでこの話は――」
「いいですよ、続けてください。私、しばらくあちらのイーティングスペースへ行っておりますので。……ちゃんと迎えにきてくださいね」
「……ありがとう、リコ。もちろん、ちゃんと迎えにあがりますよ」
そう言って、あくまで演技ですけど、互いの頬にキスしてその場を立ち去った。
少し振り返ると、アベル様とナポレーヌ伯爵が会話しているうちに、彼らの周りには仕事関係と思われる男性がワラワラと集まってきて、ちょっとした会議のようになってしまっていた。
あれは、しばらく抜け出せないな。
少し振り返ると、アベル様が、申し訳無さそうにこっちを見てたので、私は笑顔で手を振った。
いいのよ。
王宮でも男性がそうなってるのはよく見てた。
そして夫人は夫人同士で歓談してたしね。
「あらあら、殿方はお仕事の話に夢中になってしまわれたようね」
いつの間にかシーグリッド=フェイン伯爵令嬢が横に来て、私の腕に自分の腕をからめた。
え、ちょっと、馴れ馴れしくないですか?
というか、身分的にもかなり失礼では?
それにいきなり腕を絡められて、お皿を落っことしたらどうしてくれるのー!
「アプリコット様、私、個室を借りておりますの。……そちらで休憩して一緒にお茶でもしましょうよ」
……私もう姫じゃないけど、それでも格上の辺境伯夫人なわけですが、なんか……上から目線で話されてるな……。
なんなんだこのヤロ……ん、ごほん。
アベル様はアッサリした方、と言われていたけど、これはガッツリぶりっ子令嬢だな。アベル様の前では。
相手によって態度がガラッと変わる人いるからなぁ。
この人、とても優しそうな微笑みを浮かべているけど、絶対に腹の中は違う。
さっきからの態度を見るに、かなりアベル様が好きだったに違いない。
したがって、この誘いは危険である。
個室になんて連れて行かれたら何されるかわからない。
こんな風に腕を組んでまで連れて行こうとするとこが、もうヤバイ。
「あ、いえ、でも主人をここで待っています。ここにいる、と伝えていますし」
「まあ……そんな、わたくしのサロンに来るのは嫌だと仰るのですね……。そうですよね、アベル様が以前に懇意にしていた女性なんかとは、お付き合い頂けませんよね……」
シーグリッドはポロポロと涙を流し始めた。……うわ。
――感じる。
周りの目線が私達に集まってるのを。
――見て、アプリコット姫が立場の弱いシーグリッド様をいじめているわ。
――アベル様を横取りしただけではなく、あんなに泣かせて……お可哀想、シーグリッド様。
……ここは、彼女のホームグラウンドだな。
それでなくても私は印象がよい姫ではない。
このザワザワ……が、大きくなるのはアベル様に迷惑がかかるかもしれない。
……仕方ない。
「わかりました。行きましょう」
私はため息をついて彼女の要求に応えた。
「まあ、ほんとうですか……? 嬉しい……!」
涙を拭いながら、天使のように微笑む彼女。
でもこの子の中には絶対大きな伏魔殿がある。
そして私は彼女の部屋へ連れて行かれることとなった。
――さて、どんな罠をしかけているのやら。
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29は少し長かったので、2つに分けております。
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