あとがき
終わりました。これにて「Ash Crown -アッシュ・クラウン-」完結にございます。
更新の履歴を見てみると、本作の第一話を投稿したのが、2018年9月1日でした。およそ足かけ二年、連載したことになります。この間、元号は平成から令和に代わり、新月のPCも代替わりいたしました。お茶をこぼすとか、やっちまったぜ。それも含めて、まあいろいろあったなぁ、と思う次第であります。
ともあれ、こうして本作を完結させることができたのは、ひとえに読者の方々のおかげでございます。感想やレビューを書いてくださった方々、メッセージをくださった方々、ブックマークしてくださった方々、ポイントを入れてくださった方々、誤字脱字の報告をしてくださった方々、本当にありがとうございました。
さて、毎度おなじみというわけではありませんが、本作の創作の裏側を少し暴露していこうかと思います。
当初掲げたコンセプトは二つでした。「味方より敵に評価される主人公」と「偽りの王子」です。ただこの二つが作品全体において貫徹されたかは、はっきり言って微妙です。ダンダリオン一世を敵役にして読んでおられた方はほとんどいないでしょう。作者自身そうですし。またジノーファが王子でないことも早い段階で暴露されてしまいました。
なのでこの二つは作品のというよりは第一章のコンセプト、と言うべきでしょう。そうすると第二章以降は何をコンセプトにして書いていたのかと言うことになりますが、思い返してみてもコンセプトというほどのモノはなかったように思います。
ただ世界観というか、そう言うものを意識しながら、あとは最終章へ繋がるように、という感じだったかと思います。ジノーファが王座に、というのはわりと早い段階で決めていたので、そこから逆算するような形ですね。
世界観といえば、この世界にはダンジョンがあります。ただ当初考えていたコンセプト的に、ダンジョンは必ずしも必須ではありません。それでもダンジョンを出したのは、その方が話が作りやすかったから、と言う部分に尽きます。モンスター(外敵)の存在は舞台装置として極めて優秀、あるいは便利なわけです。新月的には、ですが。
ただダンジョンを出すとなると、今度は魔法の扱いが難しくなります。戦場で魔法をバカスカ撃たれると、「そんな話、幾つも作れるか!?」ってわけです。個人技で戦況を左右されるのもどうかな、って気がしますし。そこで「ダンジョンの外では魔法が使えない」という設定が加わりました。
じゃあ聖痕は何なんだ、って話になりますよね。一言でいえば、あれは主人公の武器です。評価してもらうための分かりやすい成果、と言ってもいいでしょう。
第一章の時点で、ジノーファは14~15歳。しかも後ろ盾は何もない。いくら結果を残したとは言え、それだけで本編のように評価されるのは難しい。普通ならそのまま埋没していくでしょう。
でもそれじゃあ物語にならない。そこで聖痕です。聖痕を持たせることで、ジノーファには唯一無二の価値が出た。彼が表に出てきても不自然ではなくなるわけです。むしろ人目を惹きつけるわけで、これで随分と主人公を中心にして物事を動かしやすくなります。
まあ、最初からそこまで考えていた訳ではないんですけどね。ただやっぱり、主人公を特別な存在にすると話を動かしやすいというのは事実です。特に「最終的に王座へ」みたいな話だとなおのこと。
まあこんな具合で聖痕の設定が出てきたわけですが、これだけだと唐突な感じがあります。設定をなじませるというか、掘り下げることで物語にリアリティーを出さないといけない。
少し話は変わりますが、本作に限らず、これまでの作品の傾向としてたぶん皆様ご承知のことと思いますが、新月は「血筋に能力が付随する」という設定があまり好きじゃないです。だからこそ「真の王子が聖痕を得て王座を奪還する話」にはしなかったわけです。
もちろん、本作のようなエセ中世の世界において、血筋と能力に相関関係があるのは事実でしょう。能力を伸ばすためには高度な教育を受ける必要があり、そして教育を受けられるか否かはどこに生まれるか(血筋)に大きく左右されます。だから血筋と能力が比例することにはリアリティーがある。
そういう視点で見ると、ジノーファとイスファードはほぼ同等の能力を持つ、と言うことになります。受けた教育の質がほぼ同じわけですから。加えて因縁もあるわけで、するとこの二人の対立というか、そういう部分に必然性が出てきます。これをやらないわけにはいかないでしょ、って事です。
で、その対立というか関係性の中に聖痕をぶっ込んでみるわけです。すると「“血筋”対“才能”」みたいな構図になる。その上でイスファードが聖痕を強烈に意識すると、設定が話になじんでいくわけです。まあ、上手く行ったかは別問題ですが。
あと、上で「ジノーファとイスファードの対立」と書きましたが、もう一つ意識したのが「イスファードとジェラルド」の対比です。この二人はよく似ています。共に王(皇帝)の後継者であり、聖痕を強烈に意識せざるを得ない。そのなかでそれぞれどう考えどう動くのか。その辺りの事も気を遣いましたね。
それと血筋も聖痕も兼ね備えたダンダリオン一世ですが、こいつはもうチートですね。だからあんまり動かさなかった。だってコイツが動いたら主人公喰われちゃうんだもの。ただ彼の場合、影の大きさだけで物語を動かしたとも言えます。やっぱりチートですね。
ここまでつらつら書いてみましたが、もちろん最初から全部決めていたわけではありません。むしろ書く中で自然とそうなっていった部分の方が多い。創作というのはそう言うものなのかも知れません。
まあ、聖痕のことはこれくらいで良いでしょう。次は人名や地名について少々。
過去作において新月を悩ませ続けてきたのが名前でした。地名や人名などを全て自分で考えるのは大変な作業です。また大変なだけでなく、名前は作中の雰囲気にも関わってきます。「西山に住むモハメッドの娘リリアーヌ」って、やっぱり変な感じがしますよね。むしろそこにたどり着くまでにどんな壮大な物語があったんだ、と(笑)。
それで今回はネットを大いに活用しました。もちろん自分で考えた名前もあります。ただそのおかげで名前を付けるのはすごく楽だった。ちなみにご承知のことと思いますが、アンタルヤ王国はトルコを意識しています。ロストク帝国はドイツですね。だってドイツ語の響きってカッコいいんだもの。
まあ、そんなわけで今回は名前はあまり苦労しませんでした。しかし今作では一話ずつサブタイトルをちゃんと付けていく形式にしたので、そっちが大変でしたね。すぐに決まったものもあれば、悩んだものもあり。とはいえサブタイトルで話の内容がある程度分かるので、そういう意味では便利ですよね。
大変と言えば、毎回の後書き。これも結構大変でした。内容に絡めつつクスリと笑えるような、そんな後書きを目指しました。ユーモアのセンスが試されましたね。総じて惨敗したような気がしますが。
さて少し長くなりましたね。この辺で切り上げましょう。なんとなくですが、今作は「滅び」の物語になったのではないかと思います。少なくとも主人公の根っこにはそういう価値観があった。
最初にこの物語を「Ash Crown -アッシュ・クラウン-」と名付けたときには、単純に主人公の髪の毛の色に引っかけるくらいの意識しかありませんでした。ですがいま物語を振り返ってみると、それを越える意味を持つようになったのではないかと思います。
崩れゆく灰の冠。過去にあったはずの栄光と、そこから芽吹く再生の物語。ここまでのお付き合い、ありがとうございました。
新月 乙夜




