【一方その頃】 追跡者たち
第1章、EP16”【一方その頃】 王妃、知らせを受ける” からの流れになります
参考:https://book1.adouzi.eu.org/n1001lf/16
時は遡ること、アリスにより古城の大結界が修復される前。
鬱蒼とした魔の森の中で、2人の男が戦っていた。
両方とも真っ黒い服を身に纏い、短髪の男は剣、長髪の男は杖を持っている。
2人の周囲を囲むのは、狼型の黒い魔獣、約20匹。
その奥には、黒いクマが数匹唸り声をあげている。
それらに向かって、長髪の男が杖を翳すと、低い声で詠唱した。
【起動・土槍:魔法陣】
男の手の甲の魔法陣が輝いた。
それとほぼ同時に杖が光を帯びる。
「殺れ」
男の声と同時に、地面から無数の槍が付き出した。
狼たちを次々と串刺しにしていく。
ギャアア!
狼たちが苦しげに断末魔を上げた。
串刺しを免れた狼たちが、赤い口を開けて長髪の男に襲い掛かって来る。
男は冷めた目で彼らを見た。
【起動・土矢:魔法陣】
とつぶきながら、狼たちに向かって杖を向ける。
腕の魔法陣が光ると同時に、頭上に現れた無数の土の矢が一斉に狼たちを襲った。
狼たちが悲鳴を上げて地面に落ちると、土の矢が更に彼らを地面に縫い付ける。
そして、狼たちが動かなくなると、横から輝く剣を持った短髪の男が歩いてきた。
その後ろには、首や手足を切り落とされた黒い熊が無残に散らばっている。
彼は軽く魔剣に魔力を通して、べったりと付いた血を落とすと、鞘に仕舞いながら口を開いた。
「さて、森に入って半日経ったわけだが、これからどうするか決めないか」
ちなみに、この男たちは、いわゆる追手だ。
行方不明だというアリスとテオドールの足取りを追うために、このヴァルモア領にやってきた。
長髪の男が、手袋をしながら尋ねた。
「それで、お前はどう思う?」
「ま、この森で生きている可能性は低いだろうな。騎士1人なら何とかなるかもしれないが、戦えない魔法研究者が一緒なんだろ? もって数時間、ってとこだろ」
「だが、その騎士はテオドール・ラングレーという話だ」
短髪の男は、軽く肩をすくめた。
「強いと言っても、お作法にのっとった騎士様の”強い”だろ? いくら魔剣持ちでも、この森で足手まといを守って長期間生き延びるのは難しいだろ」
「……まあ、確かにな」
「それに、魔法研究者を逃がすだけだったら、騎士が”契約の魔法陣”を消す必要もないしな」
”契約の魔法陣”とは、テオドールの体に刻み込まれていた魔法陣だ。
これを消すということは、王宮への離反を意味し、処分対象となる。
魔法研究者を逃がすだけなら、別に消す必要がないだろう、という真っ当な予想だ。
……まあ、これについてはアリスがうっかり消してしまったのだが、それはさておき。
短髪の男が眉間にしわを寄せた。
「それにしても森を行くのは面倒だな。遺品の1つでも見つかれば、帰る理由になるんだが」
長髪の男が冷静に言った。
「どうだろうな。8年前ですら、遺品がほとんど見つからなかったと聞いている」
「マジか」
「ああ、捜索した当人に聞いたから間違いない」
チッと短髪の男が面倒くさそうに舌打ちをする。
長髪の男が空を見上げた。
「とりあえず、今日のところはそろそろ戻ろう。暗くなる」
「だな」
2人は元来た道を戻り始めた。
途中で何度も魔獣に襲われるが、特に苦労することもなくあっさり倒して森を出る。
拠点にしているカスレ村に戻ると、心配そうな顔の村長が出てきた。
「お疲れのところすみません。あの……テオドールさんとアリスさんは……」
長髪の男は、首を横に振った。
「そうですか……」
村長が悲しそうな顔でうつむく。
「こっちには戻ってきていないか?」
「はい、残念ながら……」
沈痛な面持ちの村長に、長髪の男が作り笑いを向けた。
「そう気を落とすな。我々はしばらくこの村に滞在して2人を探すつもりだ。お前たちも、もしも2人を見つけたらすぐに報告してくれ」
「ええ、もちろんでございますとも」
村長が深々と頭を下げる。
男たちはそんな村長の横をすり抜けると、滞在している家へと戻っていった。
*
一方その頃、
遠く離れた王都の中心にある王宮では、国王臨席の御前会議が開かれていた。
(つづく)
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