09.アリス、初めて領主らしいことをする
その後、ようやく正気に戻った5人は、今後についての話し合いを始めた。
アリスは、3カ月結界を監視することになり、
他の人々は森に入って、結界が広がった影響を調べることにする。
そして、話し合いが終わり、アリスが席を立とうとした、そのとき。
「――アリスさん」
ビクトリアが、改まったように口を開くと、その澄んだ瞳をアリスに向けた。
「お話があるのですが、よろしいでしょうか」
アリスは立ち上がりかけた腰を、再び椅子に下ろした。
何となく大切な話っぽいな、と思って座り直す。
「はい、なんでしょう」
ビクトリアは他の3人と目を合わせた。
うなずき合うと、意を決したように口を開く。
「実は、アリスさんに、お願いがありまして――」
ビクトリアが、アリスを真剣な目で見た。
「どうか、私たちがここに住むことを、許可して頂けませんか」
「…………え?」
予想外すぎる言葉に、アリスはポカンとした。
(え、どういうこと?)
ビクトリアたちは8年前から、ずっとここに住んでいる。
なぜこんなことを突然言い出したのだろうか。
アリスが混乱していると、隣のテオドールが囁いた。
「お忘れかもしれませんが、アリスさん、ここの領主です」
「ああ……そういえば、そんな話があったね」
アリスは合点がいった。
すっかり忘れていたけど、そういう話だった、と思い出す。
ビクトリアが口を開いた。
「これまでは王都の命でここに来て住んでおりましたが、領主であるアリス様が来られた以上、改めてお願いを申し上げたいのです」
ビクトリアと他4人が頭を下げる。
どうやら、領主であるアリスに許可を得て、筋を通した方が良いと判断したらしい。
(いや、そういうの別にいいんだけどな……)
アリスは戸惑いの表情を浮かべた。
いきなりそんなこと言われても、と思う。
(そもそも、わたしって、まだ領主なのかな?)
王都を出てから、かなり経っている。
魔の森で死んだことになっているなら、もう領主ではないのではないだろうか。
「……わたし、まだ領主なのかな?」
小声でテオドールに尋ねると、彼が軽くうなずいた。
「はい、行方不明になった日から2年間は、領主扱いになります」
「え、そうなの?」
「はい、そのような決まりになっています」
どうやら、お家騒動などがよく起こることから、そういった規定があるらしい。
(なるほど、今のわたしは領主なのね)
アリスは腕を組んで考え込んだ。
彼女は、この古城が好きだ。
どこか懐かしさを感じる雰囲気も好きだし、住み心地が良くて、人が優しいところも好きだ。
しかも、地下には素晴らしい魔法陣もある。
ここに、信頼できるビクトリアたちが住み続けてくれるのは、むしろ嬉しいことだと思う。
それに、今まで部屋に籠って研究のための研究ばかりしてきたが、
こうやって外に出て、人の役に立つための研究をするのも、悪くない気がする。
(決まりだね)
アリスは素直にこくりとうなずいた。
「はい、住み続けてもらって大丈夫です。大歓迎です。わたしもお手伝いします」
「ありがとうございます」
ビクトリアが、どこかホッとしたように笑う。
その後、6人は今後について話し合った。
ビクトリアが、広がった結界内を新たに開拓したいと申出て、アリスがこれを気軽に承諾する。
そして、「今後、結界がどのくらい広がったか」について調べることを決めると、その場は和やかに解散となった。
*
そして、この日の夜。
アリスはビクターの夢を見た。
少し離れた所に立って、にこにこしながら何か言っている夢だ。
何と言っているかは分からなかったが、
翌朝、アリスはとても気持ちよく目が覚めた。
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