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天才魔法オタクが追放されて辺境領主になったら、こうなりました ※第1部完  作者: 優木凛々
第3章 魔法陣解析

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02.アリス、文献を探す

 

 地下探索の約束をした、その翌朝。


 アリスとテオドールは、暗いうちから起き出した。

 手早く支度を整えると、部屋を出る。


 廊下を歩きながら外を見ると、中庭は朝靄あさもやに包まれていた。

 空を見上げると、雲1つない紺色の空が広がっている。



「今日は天気が良くなりそうだね」

「そうですね。地下に潜るのであまり関係なさそうですが」



 そんな会話を交わしながら、2人は食堂に行って朝食を食べた。

 昼食にとお弁当の包みをもらう。


 そして、封鎖中のエントランスに入ると、隠し扉のスイッチになっている壁の一部を押した。



 ゴゴゴゴ……



 低い音とともに、床の隠し扉が開く。



「行きましょう」

「うん」



 テオドールがランプを手に、階段を慎重に降り始めた。

 アリスもそれに付いて降りて行くと、背後で、ガタン、と音がして、隠し扉が閉じる。


 2人は通路を進み始めた。


 小部屋の前を通り抜け、大魔法陣のある大きな石部屋に入る。

 床の魔法陣が、静かに黄金の光を放っており、壁に描かれている絵を静かに照らしている。


 テオドールが尋ねた。



「この壁の絵は何なのですか?」

「たぶんだけど、ただの風景画だと思う」



 湖のほとりに佇む城や、大きな広場の絵などが抽象的にえがかれている。



「懐かしい感じがして好きだけど、魔法陣とは関係ないかな」



 その後、アリスたちはどうやって探索をするか相談を始めた。



「探索魔法は試してみましたか?」

「うん。でも、特に反応はなかった」

「そうですか……」



 テオドールが考えながら言った。



「では、とりあえず、手が届く範囲の壁を調べましょうか」



 アリスはきょとんとした。



「え、床とか天井とか、全部調べるんじゃないの?」

「最終的にはそうなるかもしれませんが、まずは手が届く範囲を調べた方が効率的かと思いまして」



 テオドールの意見では、もしも隠し扉のスイッチがあるなら、手が届く範囲にある可能性が高いらしい。



「床は多分ないと思います。うっかり踏んで開けてしまうかもしれないので」



 アリスは感心した。

 テオドールは、こういう時に実に頼りになる。

 自分だったら、まず床から調べてた。


 2人は手分けをして、壁を調べ始めた。

 ざらざらした石壁をペタペタと触りながら、隠し扉がないか確かめる。



「……地道な作業だね」

「そうですね」

「わたし、こういうの、苦手なんだよね」



 アリスはため息をついた。

 魔法陣に関することなら何時間でも集中できるのに、それ以外はすぐに集中力が切れてしまう。


 ぼやくアリスに、テオドールが苦笑いする。




 やがて昼時になると、2人は壁に背を預けて、お弁当を食べ始めた。

 パンをもそもそ食べながら、アリスがため息をついた。



「ないねえ」

「そうですね。そろそろ次の場所に進みましょうか」



 食事を終えると、2人は何となく怪しそうな小部屋に向かった。

 テオドールが、閉じてある石の扉を「ふん」と開ける。


 部屋はまあまあの大きさで、中央に直径1メートルくらいの魔法陣が描かれていた。

 黄金色に輝く大結界の魔法陣と違い、こちらは光を失っている。



「この魔法陣は、なんなのですか?」

「結界に関係なさそうだから、まだちゃんと見たことないけど、たぶん同じ製作者が作ったものだと思う」



 アリスは部屋の中央に歩み寄ると、マジマジと魔法陣をながめた。

 全容は分からないが、あちこちに空間に関する記号が並んでいるのが見える。



(もしかして、隠し部屋の何かだったりする……?)



 そうだったら何か見つかりそうだと思いながら、アリスはつぶやいた。



「……ちょっと魔力を通してみようかな」



 テオドールが眉をひそめた。



「……大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。調べるだけで、動かすわけじゃないから」



 アリスは、魔法陣の溝に溜まっている埃などを慎重に払った。


 ポケットから魔法インクを取り出すと、

 魔力を込めながら、溝に魔力インクを注ぎ始める。


 黄金のインクがまるで血液のように魔法陣に広がっていく。



「じゃあ、いくよ」



 アリスは薄っすら輝く魔法陣の前にしゃがみ込んだ。


 テオドールは、少し離れたところに立つと、ランプを掲げて見守る。


 そして、アリスが魔法陣に触れて、軽く魔力を注ぎ込んだ――次の瞬間、



「……えっ!」



 アリスは、体中の魔力が一気に吸い取られる感覚に襲われた。

 慌てて手を離そうとするも、手が魔法陣にくっついてしまったように動かせない。

 そして、



「……っ!!」



 アリスの魔力を大量に吸い込んだ魔法陣が、いきなり発動した。

 黄金の光が部屋いっぱいに広がり、足元に光が走る。



(えっ! なんでこんな勝手に!?)



 アリスは混乱した。

 何とか発動を止めようとするが、止まらない。



「アリスさん!」



 テオドールが血相を変えて駆け寄ってきた。

 動けないアリスを素早く抱え、外に出ようとする。


 しかし、次の瞬間。



 ぶわっ



 あっという間に黄金の光が2人を包み込んだ。


 アリスの視界が暗転する。




 ――――数秒後。


 魔法陣の光がゆっくりと消え始めた。

 しばらくして、完全に光を失う。


 そして、



 カラン、カラン。



 アリスが胸ポケットに差していた鉛筆が、暗闇の中を転がった。


 完全な静寂が訪れる。


 静まり返った部屋には、アリスとテオドールの姿はなかった。






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