01.隠し部屋発見、約1か月後(2/2)
本日2話目です。
「よう! お疲れ!」
突然、背後から明るい男性の声が聞こえてきた。
アリスが振り返ると、そこには髪を後ろに結んだ見目の整った青年――フレッドが笑顔で立っていた。
両手に夕食の乗ったプレートを持っている。
彼は「ここ座るぞ」と言ってテオドールの隣に座った。
パンをちぎりながら、ニコニコと口を開く。
「久し振りだな、テオドール」
「そうですね、3時間振りくらいですね」
テオドールが気さくに答える。
2人はよく狩に一緒に行くため、かなり気安い仲だ。
フレッドが魔剣持ちの関係で、アリスも何度か話をしたことがある。
フレッドがアリスを見てニカッと笑った。
「アリスさん、こんにちは。今日も素敵な髪ですね。――おや、髪に何か付いていますよ」
そう言ってアリスの髪に手を伸ばそうとする。
テオドールが、無言でその腕を、ガシッと掴んだ。
にっこりと笑う。
「大丈夫ですよ、フレッドさん。俺が取って差し上げるので」
「俺が見つけたんだから、俺が取るのが筋だろう?」
フレッドが楽しそうに言う。
(? 何か付いてるのかな)
笑顔で揉めているテオドールとフレッドをながめながら、アリスは髪に触った。
パン屑を手にとって「いつの間に」と思いながら、お皿の端にちょいと置く。
すると、
「ここ、いいかしら」
夕食プレートを持った凛々しい赤毛の女性が、アリスに声を掛けてきた。
彼女の名前は、エマ。
細い魔剣を腰に差した姉御肌の剣士だ。
アリスが「どうぞ」と言うと、エマが横に座った。
向かいで楽しそうにテオドールをからかうフレッドを見て、呆れたように言う。
「フレッド、あんた、テオをからかうのやめなさいよ」
「いや、だって楽しいじゃん」
「年下をからかうとか、あんたオッサンみたいよ」
エマの言葉に、フレッドがショックを受けたように胸を押さえた。
それを見てテオドールが苦笑いする。
アリスはもぐもぐとパンを食べながら感心した。
テオドールは本当に社交性がある。
まるで昔からここにいたみたいだ。
――その後、4人は会話をしながら食事を始めた。
(そうだ、設計書の件、一応聞いてみよう)
アリスは、フレッドとエマに尋ねた。
「この古城で、本とか書類の類って見たことないですか?」
2人が顔を見合わせた。
「なかったよな。来たばっかりの時は、この古城、本当にすっからかんだったしな」
「そうね。見たことないわね。――あ、でも」
エマの話によると、数年前に、石の本棚の裏から書類の束を見つけたらしい。
「隠されていたっぽい感じだったわね。でも、触ったらボロボロに崩れちゃったから、内容までは分からなかったけど」
アリスは考え込んだ。
もしかすると、同じように地下にも何か隠されているかもしれない、と思う。
*
その後、アリスとテオドールは先に席を立った。
フレッドとエマに挨拶して、食堂を出る。
真っ暗な廊下に、テオドールの掲げるランプの光がユラユラと揺れる。
ふと横にある窓から空を見ると、星が瞬いているのが見える。
星を見つめながら、アリスがつぶやいた。
「地下、もう少し探してみようかな」
一応探してはみた。
でも、丹念に見たら、何かあるかもしれない。
横を歩いていたテオドールが口を開いた。
「明日休みなんで、探すの手伝いましょうか」
「本当?」
思わぬ申し出に、アリスは顔を輝かせた。
大雑把な自分だけでは不安だが、几帳面なテオドールが一緒に探してくれるなら心強い。
テオドールが柔らかく微笑んだ。
「じゃあ、明日1日を使って集中的に調べてみましょうか」
「うん! ありがとう!」
アリスは期待に胸を膨らませた。
もしも設計書が見つかれば、魔法陣の分析が一気に進展するかもしれない。
――ちなみに、翌日。
2人はとんでもない冒険をする羽目になってしまうのだが、この時の彼らはそんなことを知る由もなかった。
本日はここまでです。
お読みいただきありがとうございました!




