01.隠し部屋発見、約1か月後(1/2)
第3章スタートです!
地下で結界の大魔法陣を発見した、1か月後。
アリスは、古城の食堂でぼんやりと夕食を食べていた。
時間が遅いせいもあり、食堂にはあまり人がいない。
皆黙って食事をしており、とても静かだ。
そんな中、アリスは心ここにあらずといった風情で、スープをすくった。
口に運び、またぼんやりしながら手を動かす。
その様子を見て、テオドールが苦笑した。
「アリスさん、それフォークです」
彼女は我に返ると、手元を見た。
それは間違いなくフォークで、スープはすべて隙間からこぼれ落ちている。
(なるほど、道理で減らないと思った)
そう思いながらスプーンに持ち替えていると、テオドールが心配の色を浮かべた。
「どうしたんですか? 今日はいつもに増して上の空ですよ」
「……魔法陣の解析が、どうにも進まなくなっちゃってさ」
彼女の脳裏に浮かぶのは、ここ1カ月ほどの試行錯誤だ。
*
地下の隠し部屋を見つけた翌日、アリスは本格的に魔法陣の解析を開始した。
「いや、ホントすごい! こんなの初めて見た!」
興奮しながら、魔法陣の周りをぐるぐる回って、夢中でメモを書きなぐる。
あまりにも未知過ぎて、分からないところの方が多かったが、アリスはそれにすら狂喜した。
「分からない! どうしよう! 楽しい!」
王立研究所の古代魔法の本を、暗記するほど読み込んだアリスにとっては、
未知との遭遇は、涙が出るほど嬉しかった。
「追放されて、本当に良かった……!」
彼女は目を潤ませて天を仰いだ。
王妃たちのことは許せないが、こんな素晴らしい場所に来れたことを、心の底から感謝する。
そんな訳で、アリスは魔法陣分析にのめり込んだ。
夜明けと共に地下に潜り、夜テオドールが「もう寝る時間ですよ」と呼びに来るまで、魔法陣にべったり張り付く。
夢中のあまり水分を取り忘れ、脱水症状で倒れているところをテオドールに発見され、怒られたこともある。
――そして、試行錯誤をしながら集中して解析をすること、約10日。
アリスはとあることに気が付いた。
(この魔法陣の製作者、かなり大雑把な性格な気がする)
魔法陣には、製作者の性格がかなり表れる。
几帳面な人はとことん几帳面だし、大雑把な人は細部に粗が多い。
この魔法陣の製作者は完全に後者で、重要でない部分はかなりいい加減で分かりにくく作っていた。
(……この人、わたしに似ているかも)
自分がもしも同じ魔法陣を作ったら、こんな感じになりそうだ。
(なんか、親近感湧くな)
そこから、彼女は “製作者は、わたしと同じで結構適当”という前提のもとで分析を進め始めた。
行き詰まると、「自分だったらどうするか」を考え、それを当てはめてみる。
この方法がドンピシャで、解析はどんどん進んだ。
3週間目には、8割くらいまで解析できる。
(やった!)
アリスは、魔法陣の横でぴょんぴょん飛び跳ねた。
もう少しで全容が把握できる! と意気込む。
――しかし、ここで問題が発生した。
この魔法陣が、単体で動いていないことがわかったのだ。
魔法陣が刻まれている巨大なミスリルの板――その裏側に、もう1つ魔法陣があるらしい。
(……なるほど、そういうことか)
たぶん、それが動力の部分を担っているのだろうと予想する。
(そっちも見なきゃだめだ)
という訳で、裏にある魔法陣を見ようと思ったのだが――これが難しい。
ミスリル板が、岩にガッチリと打ち付けられているのだ。
下手に動かして何か起こったら、と考えると怖くて手が出せない。
穴を掘ることも考えたが、それも怖い。
そして、裏を見る方法がどうにも見つからず、
お手上げ状態になってしまった、という次第だ。
*
アリスのこの話を聞いて、テオドールが「なるほど」という顔をした。
「つまり、物理的に解析が進められなくなってしまった、ということですね」
「そうなんだよね」
アリスはため息をつくと、両手で頬を挟んでむにゅっとしながら、頬杖をついた。
「どこかに文献でも残っていればなあ」
「文献、ですか」
アリスはうなずいた。
「たぶんあの魔法陣の製作者、どこかに設計書を残していると思うんだよね」
「そうなんですか?」
「うん、わたしだったらそうするから、たぶんそうしてると思う。……まあ、あの魔法陣が作られたのはかなり昔だろうから、なくなっているかもしれないけどね」
一応地下を探してはみたが、書類の類はなかった。
ずいぶん昔のようだし、失われてしまった、と考えるのが自然だろう。
(なんかいい方法ないかな……)
アリスがそんなことを考えていた、そのとき。
「よう! お疲れ!」
突然、背後から明るい男性の声が聞こえてきた。
(2につづく)
今夜続きを投稿します。




