表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才魔法オタクが追放されて辺境領主になったら、こうなりました ※第1部完  作者: 優木凛々
第2章 謎の古城

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/56

09.最強魔法生物

 

 急に出掛ける準備を始めたアリスを見て、テオドールが呆気にとられた顔をした。



「何してるんですか?」

「尖塔に登ろうと思って」

「……は?」

「ガンツさんが、尖塔の一番上からドラゴンが見えるって」



 テオドールは苦笑いした。

 そして、ため息をつくと、椅子に掛けてある上着をとった。



「俺も一緒に行きます。さすがに1人は危険です」



 アリスたちはランプを持って部屋を出た。

 足音を立てないように廊下を通ってエントランスに出て、外に出る。

 庭は月明かりに照らされて銀色に光っており、とても静かだ。



「なんか、昼間とは別の場所みたいだね」

「そうですね」



 小声でそんな話をしながら、アリスたちは建物の裏手に周った。


 裏庭の奥には鶏や牛が飼われており、牛舎や鳥小屋が見える。

 動物たちは不穏な空気を感じているのか、少しざわついているような気配がする。


 2人はその前を通り抜けると、更に裏手に進んだ。

 尖塔の入口に到着する。


 周囲は真っ暗で、人の気配がまるでない。




「このへんは誰も住んでいないみたいだね」

「本館からかなり離れますしね」



 アリスは、尖塔の入口から中をのぞきこんだ。


 中は月明かりが差し込んでおり、崩れた岩などで埋め尽くされた様子が見える。

 崩れかけた入口や人の気配のなさと相まって、かなり不気味だ。



「なんか、お化けでも出そうだね」

「……それもう1回言ったら、俺、帰りますからね」



 テオドールの声に感じる本気の響きに、アリスは口を閉じた。

 さすがのアリスも1人でここに入るのはちょっと怖い。


 アリスの目の前で、テオドールは深い息をついた。

 意を決したようにランプを掲げると、塔の中に入る。


 アリスもすぐその後ろに続きながら、キョロキョロと周囲を見回した。

 中は思いの外広く、壁際に丈夫そうならせん階段が付いている。



「この建物、なんか丈夫そうだね」

「この城を設計した人は、ここを最終防衛拠点にするつもりだったのかもしれませんね」



 2人はゆっくりと階段を登り始めた。

 幅はあるものの、かなり急でところどころグラグラしているため、結構怖い。


 前を行くテオドールが、アリスに声を掛けた。



「足元気を付けてくださいね」

「うん、わかった」



 そう返事をした瞬間、アリスはバランスを崩した。

 階段から後ろ向きに落ちそうになる。



「……っ! 危ない!」



 テオドールが人間とは思えない速さでアリスの手首を掴んだ。

 何とか落ちるのを防ぐ。


 アリスは何とか体勢を立て直すと、息を吐いた。



「助かった、ありがとう」

「アリスさん、転ぶの早すぎです」



 テオドールが苦笑する。

 そして、少し考えると、「失礼」と言ってアリスを抱え上げた。


 アリスは驚いてジタバタした。



「な、なに!?」

「危ないんで、俺が上まで運びます。アリスさんは力を抜いていてください」

「……わかった」



 言われた通り、アリスは力を抜いた。

 テオドールの胸元に寄りかかる。



「心臓の音が聞こえる」

「……そういうこと言うの、やめてもらっていいですか」



 テオドールが顔を背けながらボソッと言う。

 そして、気を取り直すように息を軽く吐くと、アリスを抱えて階段を上がり始めた。


 カツカツという固い音が、静かな塔の中に響き渡る。


 そして、最上階に到着すると、そこは広い展望台のようになっていた。

 見晴らしがとても良く、月の光に照らされた森の向こうに山々が連なっているのが見える。


 アリスはテオドールに降ろしてもらってお礼を言うと、木の手すりにつかまった。

 遠くに目を凝らす。



「ものすごく見晴らしがいいね」

「この古城自体が結構高台にありますからね」





 ――と、そのとき。



 ギャアア!



 という耳をつんざくような咆哮が聞こえてきた。

 同時に、空気中の魔力が震える。



「……っ!」



 アリスは思わず身震いした。

 何か悪い記憶を呼び覚ますような不吉な感じに、思わず膝から崩れ落ちそうになる。


 しかし、何としてでもドラゴンを見るのだという熱意が、彼女を奮い立たせた。

 彼女は何とか持ちこたえると、顔を上げた。


 やや荒くなっていた息を整える。


 そして、声の方向に思い切って目をやると、そこには見たこともないような魔獣の姿があった。


 長い首に、鱗に覆われた大きな体。

 残忍そうな目に、長い爪。

 そこにいたのは、遠目からみても分かるほど圧倒的な存在感を放つ生物だった。



(あ、あれがドラゴン……!)



 アリスは目を見開いた。

 美しいと思うと同時に、嫌悪や恐怖など、色々な感情が湧いてくる。



(なんだろう、この感覚)



 不思議に思いながらも見入っていると、ドラゴンが急に森の中に降り立った。

 すぐに飛び上がった前足には、何かを捕まえている。



「なんか、小っちゃいぬいぐるみみたいなの持ってるね」

「あれ、小屋くらいあるグレイトベアだと思います」



 そして、ドラゴンがそのまま山の方に飛び去った後、アリスは安堵の息をついた。

 ものすごく生命が危険にさらされた気がする。



「アリスさん、そろそろ帰りましょう」

「うん、帰ろう」



 アリスは、再びテオドールに抱え上げられると、元来た階段を降り始めた。

 彼に寄りかかりながら、ため息をつく。



(ドラゴンが、あそこまでヤバそうな生物だとは思わなかった)



 ドラゴンが住み着いた土地に人がいなくなるはずだ、と思う。


 そして、彼らは1階に降り立つと、外に出た。

 月明かりを浴びながら、テオドールがアリスを降ろすと、ホッとしたような顔をする。



「とりあえず、何も出なくて良かったです」



 どうやら彼はドラゴンと同じくらいお化けが怖かったらしい。


 アリスは苦笑いした。



「お化けより、魔力の方が全然怖いじゃん」

「魔力?」

「うん、鳴き声と一緒にビリビリ震える、嫌な感じ」



 テオドールが首をかしげた。



「俺は鳴き声しか聞こえなかったです」

「そうなの?」

「はい。俺、そこまで魔力に敏感じゃないんで」



 その後、アリスたちは静かに部屋に戻った。

 再びベッドに潜り込む。


 アリスは、暗い天井をながめた。

 テオドールは分からないと言っていたが、あの魔力の震えはかなりヤバい感じがした。



「でも、ちょっと楽しかったな。ドラゴンも見れたし」



 そんなことを考えながら、アリスはゆっくりと意識を手放した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ