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天才魔法オタクが追放されて辺境領主になったら、こうなりました ※第1部完  作者: 優木凛々
第2章 謎の古城

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08.アリス、ドラゴンの話を聞く

 

 古城に来て、4日目の夕方。

 魔剣の修復に熱中していたアリスが、ふと顔を上げると、窓の外はすでに夕方の気配が漂い始めていた。



(もう夕方かあ)



 アリスは立ち上がると、ググーっと伸びをした。

 腕をグルグルと回して凝り固まった肩をほぐす。


 その様子を見て、研ぎ物をしていたガンツが口角を上げた。



「おう、お疲れさん。どうだ、調子は」

「順調ですけど、体が痛いです」

「はは、置物みたいだったもんな。まあ、俺も人のことは言えないが」



 そう言うと、ガンツも立ち上がって体を伸ばす。



「座りっぱなしは良くないな。少し歩くか」

「はい、そうしましょう」



 アリスはガンツに付いて鍛冶小屋を出た。

 涼しくなってきた中庭を並んで歩き始める。



「どこに行くんですか?」

「そうだな。せっかくだから城壁の上にでも登ってみるか」



 ガンツによると、城壁の上は散歩には最適らしい。



(へえ、面白そう)



 アリスはガンツに付いて正面門の横にある石段を登った。


 上まで登って周囲を見回すと、そこは意外と広い空間が広がっていた。

 普通の馬車くらいなら余裕で走れそうな幅の道が、ずっとまっすぐ続いている。



(結構広いんだね)



 ふと横を見ると、草が生えている鉢植えがいっぱい並んでいる。

 日当たりが良いので、ここで苗などを育てているらしい。



「場所の有効活用ですね」

「おうよ、だんだん手狭になってきてるからな」



 ガンツによると、子どもが立て続けに生まれているため、将来的な場所不足が懸念されているらしい。


 アリスは、なるほど、とうなずいた。



「確かに、畑とかも必要になりますよね」

「おうよ、3年以内に何とかしなきゃいけないってんで、今屋上に畑を作ろうって話になっていてな」



 そんな会話をしながら、アリスはガンツと一緒に城壁の上を歩き始めた。

 森の方に目をやると、大型の魔獣が目を光らせてこちらを見ている。



「なんか、見られてますね」

「あいつらにとっちゃ、俺たちは最高のエサだろうからな」



 ガンツが、はっはっは、と豪快に笑う。



 アリスは思案に暮れた。

 あんな大型魔獣を近づけないなんて、ここの結界は本当に凄いよね、と思う。



(……そろそろ、魔法陣見せてって言ってもいい気がするけど、どうなんだろう)



 内心そんなことを考えながら歩いていると、尖塔が近づいてきた。

 見上げると、周囲の森から突き出ているのが見える。



「この塔、高いですね」

「おう、登るのは大変だが、見晴らしはいいぞ。しかも、満月が近くなるとドラゴンが見えるからな」



 アリスは目を見開いた。



「え、ドラゴンが見えるんですか」

「おうよ、結構ハッキリ見えるぞ」



 アリスの胸が高鳴った。

 ドラゴンは、遥か昔からいる希少な魔法生物だ。

 ぜひ1度、この目で見てみたい。



「よく見える時間帯とかあるんですか」

「まあ、夜だろうな。昼も飛んでいるが、夜の方が活発な印象だ」



 アリスは、ふむふむ、と心の中でメモをした。

 絶対にドラゴンを見に尖塔に登ろう、と心に決める。





 ――そして、この日の夜。



 アリスは、ふと目を覚ました。

 パチリと目を開けると、暗い天井が見える。



(あれ……なんで目が覚めたんだろう)



 珍しいこともあるものだと首を動かすと、窓のところにテオドールが立っているのが見えた。

 緊張した様子で、カーテンの隙間から外を見ている。



(どうしたんだろう)



 不思議に思っていると、不意に外から聞いたことのないような鳴き声が聞こえてきた。

 それと同時に、空気中の魔力が震える。



(……っ!)



 アリスは思わず身を強張らせた。

 伝わってくる魔力に、感じたことのないような嫌悪感を覚える。

 まるで嫌な記憶を思い出させられるような、ドロッとした嫌な感じだ。


 彼女が固まっているのを察したのか、テオドールが心配そうに声を掛けてきた。



「アリスさん、大丈夫ですか」

「……う、うん、大丈夫」



 何とか答えると、テオドールがカーテンを開いて窓を開けた。

 明るい月明かりが差し込んでくる。


 彼は空を見上げながら、囁くように言った。



「ここからは見えませんが、恐らくドラゴンが出たのだと思います」

「え! ドラゴン!」



 アリスは思わず飛び起きた。



(なるほど、あの嫌な感じはドラゴンの魔力なのね)



 原因が分かれば問題ないとばかりに、彼女は素早く着替え始めた。

 魔力の感じはものすごく嫌だが、ドラゴンを見たいという好奇心がそれを上回る。


 突然、出掛ける準備を始めたアリスを見て、テオドールがポカンとした顔をした。



「……何しているんですか?」

「尖塔に登ろうと思って」

「……は?」

「ガンツさんから聞いたんだ。尖塔の一番上からドラゴンが見えるって!」



 アリスが勢いよく言う。


 テオドールは苦笑いした。

「まったく、あなたと言う人は……」とつぶやきながらため息をつくと、椅子に掛けてある上着をとった。



「俺も一緒に行きます。さすがに1人は危険です」






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