閑話:楽しい魔法(2/2)
本日3話目です。
アリスは、外に出た。
広場の前に紙を置くと、魔力をゆっくりと流しながら詠唱する。
【起動・水球:魔法陣】
その瞬間、魔法陣が黄金に輝き、広場の上に巨大な水球が現れた。
子ども2人がポカンとそれを見上げる。
アリスは魔法陣に更に魔力を注ぎ込んだ。
水球がゆっくりと形を変えながら地面に落ちていく。
そして、気が付くと、広場に水の滑り台付きの小さなプールが出来上がっていた。
アリスはガッツポーズを決めた。
「やった! できた!」
「おお、すごいな! お前さん、マジもんの天才だったんだな!」
ガンツが感心したように言う。
ミルフィと男の子が我に返ったように歓声を上げた。
「すごおい!」
「これなに?」
(そうか、見たことないのか)
アリスは上着、靴、靴下を脱いだ。
今日は暑いからすぐ乾くだろうと思いながら、口を開く。
「これは、こんな感じに遊ぶんだよ」
彼女は木箱の階段を上がると、水の滑り台を滑り、ぱしゃんと下のプールに降りた。
滑る時の爽快感と、水に突っ込むときの感じが何とも気持ちがいい。
この様子を見て、ミルフィと男の子が「わあ!」と声を上げた。
あっという間に下着姿になると、階段を上がって滑り始める。
「すごーい! たのしい!」
「つめたくてきもちいいね!」
2人の歓声に、もう少し大きな子どもたちがやってきた。
「遊んでいい?」と控えめに許可を取ると、楽しそうに滑り始める。
(もうちょっと拡張した方がいいかな)
その後、アリスは魔法陣を描いては拡張を重ねた。
プールはどんどん大きくなり、滑り台も増えていく。
中庭に子どもたちの楽しそうな笑い声が響き渡った。
仕事をしていた大人たちが、水の遊具を見て驚愕の表情を浮かべた。
子どもたちが喜ぶ姿を見て、嬉しそうに微笑む。
*
そして、水遊びが始まって、約1時間後。
テオドールたちが狩から戻ってきた。
裏門を開けると、そこは洗い場になっており、巨大な石のタライにお湯が張ってある。
彼らは装備を脱ぐと、お湯を浴び始めた。
汚れを洗い流し、置いてある服に着替える。
そして、洗い場を出ると、オーウェンが首をかしげた。
「いないな」
「何がですか?」
テオドールの問いに、肩までの髪を後ろに結んだ、ややチャラい雰囲気の弓使いの青年――フレッドが答えた。
「子どもたちだよ。いつも出迎えてくれるのに今日は誰もいない」
「……何かあったのか?」
みんな心配そうな顔をする。
そして、急ぎ足で裏庭を通り抜けて正面に周り、彼らは思わず立ち止まった。
視界の先にあったのは、小さな広場いっぱいに作られた水の遊び場だった。
集落中の子どもが皆下着姿で大はしゃぎしている。
「なんだあれ?」
ポカンとしながらつぶやくフレッドの横で、テオドールは思わず噴き出した。
あんなことが出来るのは1人しかいない。
「たぶん、あれ、アリスさんの魔法だと思います」
フレッドが目を見開いた。
「嘘だろ? 魔法ってあんなことできんのかよ?」
「それができちゃうんですよ、あの人は」
テオドールが、広場の端にいるアリスを見て目を細めながら言う。
オーウェンたちが、半ばポカンとして見守る中、子どもたちの母親たちが現れた。
「ほら、もう帰りますよ」
「もう上がって拭きなさい」
などと言って、帰るように促す。
しかし、子どもたちは、まだまだ遊びたいようで、
「もうちょっとだけ!」を繰り返して、楽しそうに遊び続ける。
母親たちが困った顔をしていると、そこへビクトリアがやってきた。
子どもたちに向かって微笑む。
「みんな、お母さんを困らせてはだめよ。寒くなってきたし、風邪をひかないうちに帰りましょう」
「……はあい」
子どもたちが渋々帰る準備を始めた。
母親に髪の毛をゴシゴシと拭かれ、乾いた服を着せられる。
ビクトリアがにっこり笑った。
「じゃあ、最後にアリスさんにお礼を言いましょう」
「はあい! アリスさんありがとう!」
キラキラした目でお礼を言われ、アリスは頭を掻いた。
なんか、ものすごく嬉しい。
そして、子どもたちが去った後、ビクトリアがアリスに微笑んだ。
「ありがとうございます。あんなに楽しそうな子どもたちを見るのは久々です。ご存じの通り、ここは娯楽が少ないので」
「いえいえ、そんなことは」
アリスが再び頭を掻いていると、眼鏡の男性がやってきた。
畑の責任者らしく、ため池に水を入れることはできないかと問う。
「できますよ」
アリスは魔法陣を起動させると、水を空中に浮かせた。
ため池へと、ざばっと開ける。
そして脱いだ上着を着ていると、
テオドールが微笑みながら現れた。
「アリスさん、ただいま戻りました」
「あ、テオドール、お帰り」
「驚きましたよ。あんなことが出来るんですね」
「うん、わたしも初めてやった」
そして、テオドールから「あれは普通の水魔法ですか?」と問われ、アリスはにんまりと笑った。
「あれはね、楽しい魔法だよ」
「楽しい魔法……?」
「うん」
アリスがにんまり笑う。
そしてこの日以来、彼女は子どもたちにせがまれて、たびたび「楽しい魔法」を披露するようになった。
本日はここまでです。
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