閑話:楽しい魔法(1/2)
本日2話目です。
滞在3日目の朝。
アリスは、ガンツの待つ鍛冶場に向かった。
暑くなりそうな気配が漂う朝の中庭を通り、鍛冶小屋の扉を開ける。
「おはようございます」
「おう! おはようさん! 今日は暑いなあ」
ナイフを研ぐ手を止めて、ガンツが陽気に言う。
今日は研ぎ物がたくさんあるようで、横には大小様々なナイフが並べられている。
「じゃあ、魔剣修復、始めますね」
「おう、よろしくな!」
ガンツがナイフを研ぐ音を聞きながら、アリスは魔剣の修復を始めた。
魔法陣を分析したり修復したりと、ひたすら作業に没頭する。
そして、昼食をはさんで、再び作業に没頭すること数時間後。
「できた!」
彼女は、ついに2本目の魔剣の修復を終わらせた。
風系の魔法陣が入っているショートタイプの魔剣で、ものすごく早く振れて風魔法による攻撃力の上乗せがされるものだ。
(どんな人が使うんだろう?)
そんなことを考えながら剣を仕舞っていると、
「こんにちわぁ! ガンツさん!」
「こんちわ!」
外から子どもの声が聞こえてきた。
振り向くと、入り口にミルフィと、同じ年くらいの男の子が立っている。
「おう! 鍋か?」
「うん!」
そして、ミルフィはアリスを見ると、嬉しそうな顔をした。
「アリスさん! こんちわ!」
「こんにちは」
相変わらず元気で可愛いなあと思って挨拶を返すと、ミルフィが男の子と一緒にとことこ近寄ってきた。
アリスを見上げる。
「アリスさんって、まほうしなの?」
「魔法士というか、魔法研究者、かな」
アリスの答えに、2人が首をかしげる。
「まほう、つかえないの?」
「一応、使えるよ」
何が知りたいのだろうと思いながら答えると、ミルフィと男の子の目が、ぱあっと輝いた。
「まほう、みたい!」
「みせて!」
ガンツが大きな寸胴鍋を布で拭きながら口を開いた。
「ここには魔法士がいないから、この子らは魔法を見たことがないんだ。後学のために見せてやってくれねえか」
なるほど。とアリスはうなずいた。
昔、養父であるビクターに魔法を見せてもらった時のことを懐かしく思い出す。
彼女は2人の前にしゃがみ込んだ。
「いいよ、どんな魔法が見たい?」
「うーんとね、たのしいまほう!」
無邪気に目を輝かせるミルフィの言葉に、アリスは考え込んだ。
てっきり、火とか水とか言うかと思いきや、まさかの「たのしい魔法」。
考え込むアリスの横で、ガンツが2人に笑顔で言った。
「よし、じゃあ、まずは鍋をお母さんに持ってってくれ。魔法はそのあとだ!」
「はーい!」
「わかった!」
2人は大きな寸胴鍋を重そうに両側で持つと、よいしょよいしょと外に運んでいく。
その後姿をながめながら、アリスは思案に暮れた。
楽しい魔法とは、一体どんな魔法なのだろうか。
「……ガンツさん、そもそも”楽しい”とは何なのでしょうか」
ガンツが思わずといった風に笑い始めた。
「なんでそんな哲学みたいなこと考えてるんだ。子どもが喜びそうな魔法でいいんじゃないか」
「子どもが喜びそう……」
アリスは孤児院にいた時のことを思い出した。
自分は本ばかり読んでいたが、他の子どもたちは何をしていたかな、と思い出す。
(なんか広場みたいな場所で遊んでいた気がする……)
アリスは、ぼんやりとした昔の記憶を頼りに、紙に絵を描き始めた。
ガンツに見せる。
「こんなのどうでしょう」
「……確かに”楽しい魔法”だが、こんなの魔法でできるのか?」
「理論上は」
ガンツが面白そうに笑った。
「なるほど。じゃあ、俺も手伝うか」
2人は鍛冶小屋を出ると、すぐ目の前にある小さな広場のような場所を片付け始めた。
それが終わると、ガンツが木箱を積んで階段のようにする。
「こんなもんか」
「はい、ありがとうございます」
アリスは魔法紙に魔法陣を描き始めた。
時々考えつつも、丁寧に描いていく。
そこへ、ミルフィと男の子が戻ってきた。
目をキラキラとさせている。
「なにするの?」
「うん、ちょっと待っててね」
描き終わったアリスは、外に出た。
広場の前に紙を置くと、魔力をゆっくりと流しながら詠唱する。
【起動・水球:魔法陣】
(2につづく)
本日中に(2/2)も投稿します。




