06.魔剣の修復
ビクトリアにガンツを紹介してもらった、約15分後。
(え、こんなにいっぱいあるの!?)
驚いた顔のアリスが、鍛冶小屋の作業台の前に立っていた。
目の前には、魔剣が並べられている。
その数、なんと4本。
魔剣持ちが4人なんて、王宮騎士団並みだ。
(魔剣持ちが4人もいるなんて、この古城って一体なんなんだろう……?)
考え込むアリスを見て、ガンツが心配そうな顔をした。
頭をガシガシと掻くと、遠慮がちに口を開く。
「……まあ、魔剣の修復ってのは、難しいもんだよな」
彼は、何回も魔剣の修復現場を見たことがあるらしい。
「一発で成功したところなんて見たことがねえし、3日かけても成功せずに終わることだってあった。だから――」
ガンツが力付けるようにうなずいた。
「もしも修復できなくても、気にすんな! 俺から姫さんにはちゃんと伝えるからな」
暗に、出来なくて当然だから気負わなくていいぞ、と伝えてくる。
アリスは首をかしげた。
彫られている魔法陣を見る限り、難易度が高そうなものはない気がする。
ちょっと気になるのは、オーウェンのものだという大剣だが、これもまあ何とかなるだろう。
(たぶん大丈夫だと思うけどな)
そして、何気なく魔剣の横に目をやって、軽く目を見開いた。
「これって……」
少し離れているところに置いてあったのは、大きなハンマーだった。
頭のところに、複雑な魔法陣が掘られている。
「……これは、何ですか?」
「ああ、鍛冶に使う魔ハンマーだ」
(へえ、こんなの初めて見た)
アリスは興味を持った。
魔剣はよく見るが、鍛冶に使うための魔ハンマーなんて見たことがない。
これは面白そうだ。
彼女は顔を上げるとガンツを見た。
「わたし、このハンマーからやります」
「え、これからか?」
ガンツが面食らった顔をした。
「たぶん、こいつが一番難しいと思うぞ」
「はい、大丈夫です」
アリスがうなずいた。
こういうのは難しい方が面白いに決まっている。
彼女はいそいそとリュックサックから紙と鉛筆を取り出した。
椅子に座ると、さっそくハンマーに彫ってある魔法陣の分析を始める。
その様子を、ガンツが心配そうに見た。
とりあえず様子を見ようと思ったのか、赤々と燃える炉に向かってハンマーを振るい始めた。
カン、カン、というリズミカルに鉄を叩く音が小屋に響き渡る。
――そして、夢中で魔法陣を分析すること15分。
彼女は、満足げに顔を上げると口を開いた。
「スピードと力の制御はよく見ますが、叩いたものへの温度保持なんて初めて見ました」
アリスの言葉に、ガンツがポカンとした顔をした。
「……こいつはたまげた。お前さん、この短時間で分かったのか」
「はい、そう複雑なものではないので。――これ、直しちゃってもいいですか?」
「お、おう、もちろんだ」
驚くガンツを他所に、アリスはいそいそとリュックサックから魔法紙、羽ペン、魔法インクの3つを取り出した。
それらを使って、魔法陣をサラサラと描く。
そして、立ち上がると、魔法陣の上にハンマーを置いた。
静かに詠唱する。
【起動・再生:魔法陣】
アリスの体が黄金の魔力に包まれた。
紙に描いた魔法陣が光り、それに呼応するようにハンマーに彫られた魔法陣が輝き始める。
「……っ!」
ガンツがこれ以上ないほど目を大きく見開いた。
「まさかの一発か」とつぶやく。
――そして、再生した魔法陣に、黄金色に光る魔法インクを注ぎ込むこと、しばし。
アリスは手を止めた。
試しにハンマーに魔力を流して、満足げな顔をする。
(うん、できてる)
そして、驚き固まっているガンツに声を掛けた。
「とりあえず軽く修復しました。具合見たいので、ちょっと使ってみてください」
「お、おう……」
我に返ったガンツが、台の上からハンマーを取り上げた。
魔力を流してみて、「マジか……」とつぶやく。
そして、炉に向かうと、赤々と燃える鉄を取り出して、
ハンマーを振り上げ、思い切り打った。
カンッ
先ほどとは比較にならないほど澄んだ音が鳴り響いた。
ガンツの目が大きく見開かれる。
次の瞬間、彼は夢中で鉄を打ち始めた。
カンッカンッカンッカンッ
魂がどこかにいってしまったかのような表情で無心で打ち続ける。
そして、彼はハンマーを置くと、喜びの声を上げた。
「こいつは凄え!
手に馴染む感じも、魔力の込めやすさも、今まで整備してもらった中でも断トツでいい!」
そして、感動したようにアリスの手をガシッと握った。
「マジですげえ! ちっさいのが来たと心配していたが、お前さんほどの腕前は見たことがないぜ!」
「いやあ、良かったです」
アリスは頭を掻いた。
ガンツのような老練な職人に褒められるのは本当に嬉しい。
その後、アリスはガンツのハンマーの仕上げを済ませた。
再び感謝され、にんまりする。
(やっぱり、魔法陣は楽しいな)
そして、この調子でどんどんやっていこうと、次の魔剣に取り掛かろうとした、そのとき。
コンコンコン
扉をノックする音が聞こえて来た。
ガチャリとドアが開く。
そして、
「ガンツ、いるか?」
男性2人が、金属の大きな箱を持って入ってきた。




